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王都の異変
第700.5話 孤独の冒険者と狂戦士の英雄
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――王都に存在する既に廃墟と化した教会、かつてイゾウが敗れた場所にゴウカは訪れていた。彼がここへ訪れたのは手紙で呼び出されたからであり、普段は陽気な彼もこの場所へ辿り着くと警戒心を露にして周囲を見渡す。
『来てやったぞ!!姿を現せ!!』
手紙の主の姿が見えないため、ゴウカは大声で呼びかける。人気が少ない場所とはいえ、彼の大声だと街道の人間に気付かれる可能性もあり、ゴウカを呼び出した人物はため息を吐きながら姿を現す。
『声がでかいんだよ……もう少し声を小さくして話せないのか?』
『むっ、お前か!!我を呼び出したのは!?』
『だからでかい声を出すなと言ってんだろうが……ゴウカさんよ』
建物の柱の陰から姿を現したのはシャドウであり、彼は日の光に当たらないように柱が作り出す影の中で佇んでいた。その様子を見てゴウカは背中のドラゴンスレイヤーに手を伸ばすが、そんな彼にシャドウは首を振る。
『止めて置け、そんなもんで俺は殺せない事はもう知っているだろう?』
『むうっ……何の用だ?』
『言っただろう、あんたの望みを叶えてやれるのは俺だけだとな』
ゴウカがシャドウと顔を合わせるのは初めての事ではなく、これまでに何度か顔を合わせた事があった。但し、二人の関係は決して親しい間柄ではなく、現にゴウカはシャドウを倒すつもりでこの場所へ訪れていた。
二人は顔を合わせる度に命のやり取りを行い、幾度もゴウカはシャドウを切り捨てようとした。しかし、結局は彼を倒し切る事はできず、最強の冒険者であるゴウカからシャドウは逃げ続けてきた。だが、今回はシャドウの方からゴウカを呼び出し、取引を持ち込む。
『ゴウカ、あんたの悩みはよく分かるぜ。俺の元相棒も同じ悩みを持っていたからな』
『戯言を抜かすな!!俺と同じ悩みを持つ者がいるだと!?』
『嘘じゃねえっ……あんたは確かに強い、だけどな。世の中にはあんたが考えているよりも強い奴等はいるんだよ』
『……ほう』
シャドウの言葉にゴウカは動揺したように大剣から手を離し、そんな彼に対してシャドウはゴウカの目的を叶えるための方法を告げた。
『あんたの望みを叶えるには俺と手を組む以外にあり得ないんだよ。どうする?俺と手を組むか?』
『……答えは決まっている』
自分の目的を叶えるというシャドウに対し、ゴウカは背中の大剣を引き抜き、容赦なくシャドウが隠れている柱に向けて振り払う。
『かあっ!!』
ゴウカの攻撃によって柱は粉々に吹き飛び、この際にシャドウは影の中に溶け込むように消え去る。ゴウカは柱を砕くと、シャドウの姿を探して周囲を見渡し、この時に別の柱の陰にシャドウが移動している事を確認する。
『なるほど、俺とここでやり合うつもりか?』
『その通りだ!!貴様をここで捕まえ、その後にお前から俺の望みを聞き出す!!そうすれば一石二鳥だ!!』
『一石二鳥?和国の諺か……あんた、そういう知識はあるんだな』
『問答無用!!行くぞ、シャドウ!!』
『ちっ……これだから馬鹿は困る』
自分と戦うつもり満々のゴウカに対してシャドウは馬鹿馬鹿しくなり、この男には小細工は通用しないと認識すると、彼は覚悟を決めた様に影の中に溶け込む。
またもや姿を消したシャドウにゴウカは居場所を探そうとするが、直後にゴウカの影に異変が発生し、シャドウはゴウカの背中に何時の間にか移動していた。
『いいから話を聞け、これが最後の機会だと思え』
『ぬおっ!?何時の間に後ろに……』
『お前の望みを叶える方法は――』
シャドウはゴウカに彼の望みを叶える方法を伝えると、その話を聞かされたゴウカは驚愕し、そして話を伝えたシャドウは彼の影の中に沈むように消えていく。
『覚えておけ、これが最後だ。もしもお前が俺の提案を拒否するならば……もう二度とお前の望みは叶う日は来ない』
『……ふんっ!!』
自分の影の中に消えていくシャドウにゴウカは見下ろし、彼は完全にシャドウが消える前に踏みつけようとしたが、それを予測していたシャドウは影の中に即座に潜り込む。
教会に一人残されたゴウカは黙って空を見上げ、一言だけ呟く。その言葉は普段の彼からは想像できない程に重く、暗い雰囲気で言い放つ。
『望み、か……』
シャドウが消えた事でゴウカは教会に残る理由はなくなり、彼はその場を立ち去った――
――同時刻、王都へ向けて狼車が向かう途中、ナイは車内にて水晶板のペンダントを使用し、現在の自分のステータスを狼車内の全員の前で表示した。
事の発端はリーナであり、彼女はナイがレベル1でありながら大量の技能を習得しているので強いという話は父親から聞かされていたが、具体的にどれほどの数の技能を習得しているのか知らなかったので問い質す。そこでナイは全員の前でステータスを明かす事にした。
「ほら、これが僕のステータスだよ」
「わあっ!!本当にいっぱい技能を覚えてるんだね!?」
「ナイ君、凄~い!!」
「し、信じられません……これだけの数の技能を覚えている人なんて見た事がありません」
「私達なんか、4個か5個ぐらいしか覚えてないのに」
「……ふむっ、前にも見せて貰った事はあるが、相変わらず凄まじいね」
壁際だけではなく、床まで表示しなければ見る事が出来ない数の技能にモモ達は驚き、それぞれの感想を呟く。
――――――――――――
・頑丈――肉体の耐久性が上昇する
・受身――外部から受けた衝撃を緩和する
・迎撃――敵対する相手が攻撃を仕掛けた際、迅速な攻撃動作で反攻に転じる
・熱耐性――高熱に対しての耐性を得られる
・観察眼――観察能力を高め、周囲の状況を詳しく把握できる
・暗視――暗闇の中でも周囲の状況を把握できる
・索敵――潜伏している敵の位置を捉える事ができる
・隠密――気配を限りなく消し去り、存在感を薄くさせる技術が向上する
・無音歩行――足音を鳴らさずに移動する技術を身に付ける
・気配感知――敵意を抱く生物の気配を感知できるようになる
・採取――採取の際、良質な素材が多く手に入りやすくなる
・栽培――植物を育成する際、通常よりも成長速度が早まり、植物の持つ効果も高まる
・解体――死骸から素材を剥ぎ取る技術が向上する
・調合――調合の成功率が格段に上昇する
・腕力強化――腕力が強化される
・怪力――肉体の限界近くまで力を発揮する事ができる
・剛力――限界を越えた腕力を一時期的に発揮できる
・脚力強化――脚力を強化される
・俊足――移動速度が上昇する
・硬化――筋肉を凝縮させる事で防御力が上昇する
・命中――弓矢、投擲系の武具で攻撃する場合、命中率が上昇する
・跳躍――跳躍力が強化される
・自然回復――自然回復力が高め、病気や怪我が治りやすくなる
・毒耐性――毒に対する耐性を得られる
・投擲――投擲を行う際、標的に的中させられる
・調理――調理に関する技術が向上する
・経験値増加――敵を倒す、あるいは経験石を破壊した時に入手する経験値の増加
――――――――――――
ここまでがナイが現時点で覚えている技能であり、続けて彼は習得可能な技能を確認する。
――――――――――――
・狂化――興奮状態へと陥るが、攻撃力が大幅に強化される(SP消費量:10)
――――――――――――
昔は技能を覚える度に新しい技能が次々と出現していたが、最近は覚える事が可能な技能はこの一つだけだった。大量にSPが有り余っているのでその気になれば覚える事はできるが、説明文がどうにも物騒だったのでナイは覚えるのを躊躇した。そしてアルトは「狂化」の技能を確認すると血相を変えた。
「ナイ君!!間違ってもこの「狂化」の技能だけは覚えてはならないよ!?」
「えっ……う、うん。やっぱり覚えたらまずい技能なの?」
「もしかして……これ、狂戦士が覚える技能?」
「狂戦士?」
アルトの忠告とリーナの口から出た「狂戦士」という言葉にナイとモモは首を傾げるが、ヒイロとミイナは耳にした事があるらしく、二人は冷や汗を流す。
「狂戦士!?それはもしや、あの有名な殺戮者の事ですか!?」
「私達も聞いた事がある。昔、巨人国の軍隊を相手にたった一人で挑んで大勢の巨人を倒した伝説の殺戮戦士……」
「た、大量虐殺!?」
「何それ、怖いようっ……」
ミイナの話を聞いてモモはナイの後ろに隠れ、アルトもナイがまさか「狂化」の技能を習得できることを始めて知り、彼は冷や汗を流す。
この狂化の技能は非常に危険な能力らしく、彼によれば人間は決して覚えてはならない技能であり、今後も絶対に身に付けない様に注意する。
「いいかい、ナイ君……普通の人間として生きていきたいのならこの技能だけはどんな事があっても覚えてはいけないよ」
「ど、どうして?」
「この技能の恐ろしい点は……一度身に付けた場合、自分では制御出来ないんだ」
「制御が……出来ない?」
制御できない技能など存在するのかとナイは驚くが、アルトによればこの技能は任意で発動させる類の技能ではなく、ナイが身に付けている「頑丈」などの技能のように常に能力を常時発動させた状態になるらしい。
――かつて獣人国と巨人国は大きな戦争を引き起こし、優位に立っていたのは巨人国だった。当時の巨人国は世界最強の国家と呼ばれ、その圧倒的な武力で獣人国を攻め滅ぼそうとしていた。
当時の巨人国の軍隊を指揮していたのは「黒兜」の異名を誇る将軍であり、彼は漆黒の鎧を纏った巨人族であり、和国の崩壊後に巨人国が受け入れた鍛冶師が作り出した鎧装備を身に付けて戦った。
当時の巨人国は和国の優秀な鍛冶師を招き入れ、彼等に最高の装備を作り出させ、それを身に付けて獣人国へと攻め入る。その結果、黒兜が率いる軍隊は和国の鍛冶師が作り出した優れた装備のお陰で獣人国の軍隊を圧倒し、追い込む。
このまま獣人国が滅ぼされるかと思われた時、一人の男が巨人国の軍隊に立ちはだかる。その男は獣人族の勇士と名高い剣士であり、彼はある魔物を討伐して新しい力を手に入れた。
獣人国の勇士の名前は「モモタ」と呼ばれ、彼は元々は和国から訪れた人間と獣人族の間に生まれた戦士だった。父親は若い時に和国から訪れた優秀な鍛冶師であり、母親は獣人国の将軍だった。
父親は息子をモモタと名付けた理由は和国に伝わる童話の主人公の名前を参考にし、彼のために自分の生涯を費やして作り上げた名刀「ムラマサ」を渡す。父親は早くに死んでしまったが、モモタは父親の残したムラマサを手にして母親を見習って獣人国に仕える。
モモタは優秀な戦士として育ち、瞬く間に彼は母親と同じ将軍に昇格した。しかし、ある時に獣人国に「オーガ」と呼ばれる魔物が出現し、彼は自分の部隊を率いて討伐へ向かう。
結果から言えばオーガの討伐は果たされたが、モモタの部隊は壊滅し、彼は一人だけ生き残った。仲間が犠牲になり、生き残ったモモタも酷い怪我を負った。そんな彼の事を民衆は「獣人国一の勇士」と崇め、国王も信頼に置く。
しかし、その勇士の評判が一変する大事件が発生した。それは巨人国の軍隊が遂に獣人国の王都まで迫り、籠城に追い込まれてしまう。巨人国の軍隊は王都を包囲し、兵糧攻めを行う。
一か月近くも王都は包囲され、食料が尽きた事で兵士や民は痩せ細り、餓死者も現れた。このままでは獣人国が滅びると悟ったモモタは覚悟を決め、オーガを倒した時に習得可能な技能を身に付ける事にした。
『陛下、母上、亡き父よ……私はこの国を救うためならば悪鬼となりましょう』
モモタは自分が悪鬼と化す事を承知で彼はオーガを倒した際に覚えられるようになった「狂化」の技能を習得した瞬間、変貌した。モモタは興奮状態に陥ると見境なく暴れ回り、信じられない力を発揮した。
王都を取り囲んだ巨人国の軍隊に対してモモタはたった一人で攻め込み、圧倒的な力で次々と巨人を打ち倒す。その強さを恐れた巨人国の軍隊は撤退を余儀なくされ、こうして獣人国は窮地を脱した。
――しかし、巨人国の軍隊が立ち去った後もモモタは暴れ続け、彼を止めようとした他の獣人族の仲間達も手を賭けた。モモタは圧倒的な力を得る代償に人としての理性を完全に失い、暴れ狂う獣と化す。
敵味方関係なく殺戮を行うモモタだったが、いつしか体力が尽きてしまい、彼は立ち尽くしたまま絶命した。その様子を見ていた者は彼を恐れ、最早「英雄」と呼ぶにはあまりにもモモタは血に塗れ、彼の周囲には死体が倒れていた事から「狂戦士」として後々の時代まで語り継がれる事になった。
「――これが狂戦士の伝説だ。恐らく、ナイ君がこの狂化の技能を覚えた場合、君の意思に関係なく能力は発揮される。そして能力が発動する条件は……興奮する事だろう」
「興奮する事……」
「つまり君が怒ったり、激しい運動などを行えば狂化は自動に発動して理性を失い、暴れ狂う獣戦士と化す。だから何があろうとこの能力だけは覚えてはいけないよ」
「……そんな恐ろしい技能があったなんて、知らなかったよ」
「ああ、僕も話だけは聞いた事はあるが、まさか本当にこんな技能があるとは思いもしなかった」
「でも……その話を聞く限りだとモモタという人は国を救うために戦ったんだよね?なのに狂戦士だなんて……可哀想だよね」
「うん……そうだね」
ナイはモモタの話を聞いて切なく思い、彼はあくまでも国を守るために狂化の技能を覚えた。しかし、その力を制御できずに結局は敵だけではなく、味方までも手に掛けてしまった。
アルトの話を聞いたナイは彼の言う通りにこの「狂化」の技能だけは覚えない様に心掛ける。しかし、もしもモモタのように追い詰められた場合、ナイはこの技能を覚えるべき時が来るかもしれないのかと考えてしまう――
『来てやったぞ!!姿を現せ!!』
手紙の主の姿が見えないため、ゴウカは大声で呼びかける。人気が少ない場所とはいえ、彼の大声だと街道の人間に気付かれる可能性もあり、ゴウカを呼び出した人物はため息を吐きながら姿を現す。
『声がでかいんだよ……もう少し声を小さくして話せないのか?』
『むっ、お前か!!我を呼び出したのは!?』
『だからでかい声を出すなと言ってんだろうが……ゴウカさんよ』
建物の柱の陰から姿を現したのはシャドウであり、彼は日の光に当たらないように柱が作り出す影の中で佇んでいた。その様子を見てゴウカは背中のドラゴンスレイヤーに手を伸ばすが、そんな彼にシャドウは首を振る。
『止めて置け、そんなもんで俺は殺せない事はもう知っているだろう?』
『むうっ……何の用だ?』
『言っただろう、あんたの望みを叶えてやれるのは俺だけだとな』
ゴウカがシャドウと顔を合わせるのは初めての事ではなく、これまでに何度か顔を合わせた事があった。但し、二人の関係は決して親しい間柄ではなく、現にゴウカはシャドウを倒すつもりでこの場所へ訪れていた。
二人は顔を合わせる度に命のやり取りを行い、幾度もゴウカはシャドウを切り捨てようとした。しかし、結局は彼を倒し切る事はできず、最強の冒険者であるゴウカからシャドウは逃げ続けてきた。だが、今回はシャドウの方からゴウカを呼び出し、取引を持ち込む。
『ゴウカ、あんたの悩みはよく分かるぜ。俺の元相棒も同じ悩みを持っていたからな』
『戯言を抜かすな!!俺と同じ悩みを持つ者がいるだと!?』
『嘘じゃねえっ……あんたは確かに強い、だけどな。世の中にはあんたが考えているよりも強い奴等はいるんだよ』
『……ほう』
シャドウの言葉にゴウカは動揺したように大剣から手を離し、そんな彼に対してシャドウはゴウカの目的を叶えるための方法を告げた。
『あんたの望みを叶えるには俺と手を組む以外にあり得ないんだよ。どうする?俺と手を組むか?』
『……答えは決まっている』
自分の目的を叶えるというシャドウに対し、ゴウカは背中の大剣を引き抜き、容赦なくシャドウが隠れている柱に向けて振り払う。
『かあっ!!』
ゴウカの攻撃によって柱は粉々に吹き飛び、この際にシャドウは影の中に溶け込むように消え去る。ゴウカは柱を砕くと、シャドウの姿を探して周囲を見渡し、この時に別の柱の陰にシャドウが移動している事を確認する。
『なるほど、俺とここでやり合うつもりか?』
『その通りだ!!貴様をここで捕まえ、その後にお前から俺の望みを聞き出す!!そうすれば一石二鳥だ!!』
『一石二鳥?和国の諺か……あんた、そういう知識はあるんだな』
『問答無用!!行くぞ、シャドウ!!』
『ちっ……これだから馬鹿は困る』
自分と戦うつもり満々のゴウカに対してシャドウは馬鹿馬鹿しくなり、この男には小細工は通用しないと認識すると、彼は覚悟を決めた様に影の中に溶け込む。
またもや姿を消したシャドウにゴウカは居場所を探そうとするが、直後にゴウカの影に異変が発生し、シャドウはゴウカの背中に何時の間にか移動していた。
『いいから話を聞け、これが最後の機会だと思え』
『ぬおっ!?何時の間に後ろに……』
『お前の望みを叶える方法は――』
シャドウはゴウカに彼の望みを叶える方法を伝えると、その話を聞かされたゴウカは驚愕し、そして話を伝えたシャドウは彼の影の中に沈むように消えていく。
『覚えておけ、これが最後だ。もしもお前が俺の提案を拒否するならば……もう二度とお前の望みは叶う日は来ない』
『……ふんっ!!』
自分の影の中に消えていくシャドウにゴウカは見下ろし、彼は完全にシャドウが消える前に踏みつけようとしたが、それを予測していたシャドウは影の中に即座に潜り込む。
教会に一人残されたゴウカは黙って空を見上げ、一言だけ呟く。その言葉は普段の彼からは想像できない程に重く、暗い雰囲気で言い放つ。
『望み、か……』
シャドウが消えた事でゴウカは教会に残る理由はなくなり、彼はその場を立ち去った――
――同時刻、王都へ向けて狼車が向かう途中、ナイは車内にて水晶板のペンダントを使用し、現在の自分のステータスを狼車内の全員の前で表示した。
事の発端はリーナであり、彼女はナイがレベル1でありながら大量の技能を習得しているので強いという話は父親から聞かされていたが、具体的にどれほどの数の技能を習得しているのか知らなかったので問い質す。そこでナイは全員の前でステータスを明かす事にした。
「ほら、これが僕のステータスだよ」
「わあっ!!本当にいっぱい技能を覚えてるんだね!?」
「ナイ君、凄~い!!」
「し、信じられません……これだけの数の技能を覚えている人なんて見た事がありません」
「私達なんか、4個か5個ぐらいしか覚えてないのに」
「……ふむっ、前にも見せて貰った事はあるが、相変わらず凄まじいね」
壁際だけではなく、床まで表示しなければ見る事が出来ない数の技能にモモ達は驚き、それぞれの感想を呟く。
――――――――――――
・頑丈――肉体の耐久性が上昇する
・受身――外部から受けた衝撃を緩和する
・迎撃――敵対する相手が攻撃を仕掛けた際、迅速な攻撃動作で反攻に転じる
・熱耐性――高熱に対しての耐性を得られる
・観察眼――観察能力を高め、周囲の状況を詳しく把握できる
・暗視――暗闇の中でも周囲の状況を把握できる
・索敵――潜伏している敵の位置を捉える事ができる
・隠密――気配を限りなく消し去り、存在感を薄くさせる技術が向上する
・無音歩行――足音を鳴らさずに移動する技術を身に付ける
・気配感知――敵意を抱く生物の気配を感知できるようになる
・採取――採取の際、良質な素材が多く手に入りやすくなる
・栽培――植物を育成する際、通常よりも成長速度が早まり、植物の持つ効果も高まる
・解体――死骸から素材を剥ぎ取る技術が向上する
・調合――調合の成功率が格段に上昇する
・腕力強化――腕力が強化される
・怪力――肉体の限界近くまで力を発揮する事ができる
・剛力――限界を越えた腕力を一時期的に発揮できる
・脚力強化――脚力を強化される
・俊足――移動速度が上昇する
・硬化――筋肉を凝縮させる事で防御力が上昇する
・命中――弓矢、投擲系の武具で攻撃する場合、命中率が上昇する
・跳躍――跳躍力が強化される
・自然回復――自然回復力が高め、病気や怪我が治りやすくなる
・毒耐性――毒に対する耐性を得られる
・投擲――投擲を行う際、標的に的中させられる
・調理――調理に関する技術が向上する
・経験値増加――敵を倒す、あるいは経験石を破壊した時に入手する経験値の増加
――――――――――――
ここまでがナイが現時点で覚えている技能であり、続けて彼は習得可能な技能を確認する。
――――――――――――
・狂化――興奮状態へと陥るが、攻撃力が大幅に強化される(SP消費量:10)
――――――――――――
昔は技能を覚える度に新しい技能が次々と出現していたが、最近は覚える事が可能な技能はこの一つだけだった。大量にSPが有り余っているのでその気になれば覚える事はできるが、説明文がどうにも物騒だったのでナイは覚えるのを躊躇した。そしてアルトは「狂化」の技能を確認すると血相を変えた。
「ナイ君!!間違ってもこの「狂化」の技能だけは覚えてはならないよ!?」
「えっ……う、うん。やっぱり覚えたらまずい技能なの?」
「もしかして……これ、狂戦士が覚える技能?」
「狂戦士?」
アルトの忠告とリーナの口から出た「狂戦士」という言葉にナイとモモは首を傾げるが、ヒイロとミイナは耳にした事があるらしく、二人は冷や汗を流す。
「狂戦士!?それはもしや、あの有名な殺戮者の事ですか!?」
「私達も聞いた事がある。昔、巨人国の軍隊を相手にたった一人で挑んで大勢の巨人を倒した伝説の殺戮戦士……」
「た、大量虐殺!?」
「何それ、怖いようっ……」
ミイナの話を聞いてモモはナイの後ろに隠れ、アルトもナイがまさか「狂化」の技能を習得できることを始めて知り、彼は冷や汗を流す。
この狂化の技能は非常に危険な能力らしく、彼によれば人間は決して覚えてはならない技能であり、今後も絶対に身に付けない様に注意する。
「いいかい、ナイ君……普通の人間として生きていきたいのならこの技能だけはどんな事があっても覚えてはいけないよ」
「ど、どうして?」
「この技能の恐ろしい点は……一度身に付けた場合、自分では制御出来ないんだ」
「制御が……出来ない?」
制御できない技能など存在するのかとナイは驚くが、アルトによればこの技能は任意で発動させる類の技能ではなく、ナイが身に付けている「頑丈」などの技能のように常に能力を常時発動させた状態になるらしい。
――かつて獣人国と巨人国は大きな戦争を引き起こし、優位に立っていたのは巨人国だった。当時の巨人国は世界最強の国家と呼ばれ、その圧倒的な武力で獣人国を攻め滅ぼそうとしていた。
当時の巨人国の軍隊を指揮していたのは「黒兜」の異名を誇る将軍であり、彼は漆黒の鎧を纏った巨人族であり、和国の崩壊後に巨人国が受け入れた鍛冶師が作り出した鎧装備を身に付けて戦った。
当時の巨人国は和国の優秀な鍛冶師を招き入れ、彼等に最高の装備を作り出させ、それを身に付けて獣人国へと攻め入る。その結果、黒兜が率いる軍隊は和国の鍛冶師が作り出した優れた装備のお陰で獣人国の軍隊を圧倒し、追い込む。
このまま獣人国が滅ぼされるかと思われた時、一人の男が巨人国の軍隊に立ちはだかる。その男は獣人族の勇士と名高い剣士であり、彼はある魔物を討伐して新しい力を手に入れた。
獣人国の勇士の名前は「モモタ」と呼ばれ、彼は元々は和国から訪れた人間と獣人族の間に生まれた戦士だった。父親は若い時に和国から訪れた優秀な鍛冶師であり、母親は獣人国の将軍だった。
父親は息子をモモタと名付けた理由は和国に伝わる童話の主人公の名前を参考にし、彼のために自分の生涯を費やして作り上げた名刀「ムラマサ」を渡す。父親は早くに死んでしまったが、モモタは父親の残したムラマサを手にして母親を見習って獣人国に仕える。
モモタは優秀な戦士として育ち、瞬く間に彼は母親と同じ将軍に昇格した。しかし、ある時に獣人国に「オーガ」と呼ばれる魔物が出現し、彼は自分の部隊を率いて討伐へ向かう。
結果から言えばオーガの討伐は果たされたが、モモタの部隊は壊滅し、彼は一人だけ生き残った。仲間が犠牲になり、生き残ったモモタも酷い怪我を負った。そんな彼の事を民衆は「獣人国一の勇士」と崇め、国王も信頼に置く。
しかし、その勇士の評判が一変する大事件が発生した。それは巨人国の軍隊が遂に獣人国の王都まで迫り、籠城に追い込まれてしまう。巨人国の軍隊は王都を包囲し、兵糧攻めを行う。
一か月近くも王都は包囲され、食料が尽きた事で兵士や民は痩せ細り、餓死者も現れた。このままでは獣人国が滅びると悟ったモモタは覚悟を決め、オーガを倒した時に習得可能な技能を身に付ける事にした。
『陛下、母上、亡き父よ……私はこの国を救うためならば悪鬼となりましょう』
モモタは自分が悪鬼と化す事を承知で彼はオーガを倒した際に覚えられるようになった「狂化」の技能を習得した瞬間、変貌した。モモタは興奮状態に陥ると見境なく暴れ回り、信じられない力を発揮した。
王都を取り囲んだ巨人国の軍隊に対してモモタはたった一人で攻め込み、圧倒的な力で次々と巨人を打ち倒す。その強さを恐れた巨人国の軍隊は撤退を余儀なくされ、こうして獣人国は窮地を脱した。
――しかし、巨人国の軍隊が立ち去った後もモモタは暴れ続け、彼を止めようとした他の獣人族の仲間達も手を賭けた。モモタは圧倒的な力を得る代償に人としての理性を完全に失い、暴れ狂う獣と化す。
敵味方関係なく殺戮を行うモモタだったが、いつしか体力が尽きてしまい、彼は立ち尽くしたまま絶命した。その様子を見ていた者は彼を恐れ、最早「英雄」と呼ぶにはあまりにもモモタは血に塗れ、彼の周囲には死体が倒れていた事から「狂戦士」として後々の時代まで語り継がれる事になった。
「――これが狂戦士の伝説だ。恐らく、ナイ君がこの狂化の技能を覚えた場合、君の意思に関係なく能力は発揮される。そして能力が発動する条件は……興奮する事だろう」
「興奮する事……」
「つまり君が怒ったり、激しい運動などを行えば狂化は自動に発動して理性を失い、暴れ狂う獣戦士と化す。だから何があろうとこの能力だけは覚えてはいけないよ」
「……そんな恐ろしい技能があったなんて、知らなかったよ」
「ああ、僕も話だけは聞いた事はあるが、まさか本当にこんな技能があるとは思いもしなかった」
「でも……その話を聞く限りだとモモタという人は国を救うために戦ったんだよね?なのに狂戦士だなんて……可哀想だよね」
「うん……そうだね」
ナイはモモタの話を聞いて切なく思い、彼はあくまでも国を守るために狂化の技能を覚えた。しかし、その力を制御できずに結局は敵だけではなく、味方までも手に掛けてしまった。
アルトの話を聞いたナイは彼の言う通りにこの「狂化」の技能だけは覚えない様に心掛ける。しかし、もしもモモタのように追い詰められた場合、ナイはこの技能を覚えるべき時が来るかもしれないのかと考えてしまう――
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※カクヨムでも連載しています
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カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
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