貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第692話 無双

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「強いな……だが、これの前では無意味だ!!」
「お、お前等!?まさか毒を使うつもりかっ!?」
「馬鹿、止めろ!!こんな場所で使ったら……」
「他に方法なんてないだろ!?退いてろ!!」


数名の暗殺者が任務の際に服用するために常備している毒薬を取り出すと、ナイに目掛けて一斉に投擲を行う。それを見たナイは咄嗟に近くの物を利用して弾こうとしたが、それを予測して獣人も次の行動に移る。

ナイが身を守る前に彼等は短剣を取り出し、それを空中に浮かんだ毒薬の瓶に向けて放つ。その結果、短剣に衝突した途端に薬瓶は割れてしまい、中身が飛び散った。


「死ねっ!!」
「……無駄だよ」


しかし、それを予測していた様にナイは変装用に回収していた仮面を取り出して装着し、変装用に身に纏っていたローブで身を守る。液体を浴びてしまったが、ローブを犠牲にして防ぎ、すぐに脱ぎ去る。


「なっ!?そ、そんな馬鹿なっ!!」
「馬鹿野郎!!こいつらは仮面を付けてやってきたのを忘れたのか!?」
「くそっ!!まだだ、まだ毒薬は残っている!!」


ローブを脱ぎ去ったナイは改めて向かい合い、この仮面を装着している限りは毒薬を浴びてもすぐに死ぬ事はない。そもそも彼等が扱う毒薬は実は普通の人間ならば死ぬほどの猛毒ではなく、毒耐性を持つナイならば耐え切れる可能性もある。

毒耐性と毒の進行を遅らせる仮面を装着していればナイが恐れる理由はなく、残された獣人の数を確認し、既に半数近くは倒している事に気づく。それでも数十人の獣人は残っており、彼等は武器や毒薬を手にして突っ込む。


「「「くたばれっ!!」」」
「うおおおっ!!」


迫りくる数十名の獣人に対してナイはありとあらゆる物を駆使して対処し、迎え撃つ。


「ふんっ!!」
「ふがぁっ!?」
「あぐぅっ!?」
「うぎゃっ!?」


正面から突っ込んできた暗殺者に対して「迎撃」の技能を発動させ、ナイは次々と獣人達に掌底を食らわせる。死角から攻撃を仕掛けてくる相手も「心眼」で特定し、裏拳を叩き込む。


「邪魔っ!!」
「ぶふぅっ!?」
「くそっ……こいつ、何なんだ!?」
「怯むな!!数で押せっ!!」


次々と仲間達がやられていく光景に暗殺者達は戸惑うが、それでも彼等は止まらない。ナイを仕留めるために数人の獣人が空中に飛び込み、毒薬を手にした。

仲間を巻き込むかもしれないのに毒薬を構えた者達を見て、ナイは目つきを鋭くさせて「跳躍」の技能で空中に浮かんだ暗殺者の上空に移動を行う。彼等は自分達よりも高く跳んだナイに驚愕するが、そんな者達を巻き込んでナイは落下した。


「ふんっ!!」
「「ぐはぁっ!?」」


空中に跳び上がった者達の服を掴み、そのまま地面に叩きつける。どんな手を使おうと圧倒的な力でねじ伏せるナイに対し、今まで果敢に攻めていた獣人達も恐れを抱き始める。


「ば、化物か!?これだけの人数を相手にたった一人で!?」
「こいつ、強すぎるだろ!!」
「に、逃げた方が……」
「馬鹿を言えっ!!逃げ場なんて最初からないだろ!?」
「怯えるな!!あいつは一人だぞ!!」


逃走を促す者、戦闘を維持しようとする者、外の仲間に助けを求める者、完全に獣人達は混乱状態へと陥り、そんな彼等を見てナイは容赦なく突っ込む。


「ふんっ!!」
「がはぁっ!?」
「こ、このっ……うわぁっ!?」
「だ、駄目だ……強すぎる!!」


どんな方法を使おうとナイを倒せない事を察した獣人達は逃げようとするが。外へ繋がる出入口の扉は薬棚で閉ざされ、下に続く階段も円卓で封鎖されている。

逃げ場は完全に存在せず、だからといって正面から挑んだ所でナイに勝てはしない。全員が諦めかけた時、獣人の一人がカウンターに駆け込んで大量の酒を取り出す。


「こいつはどうだ!!」
「っ!?」


大量の酒瓶が摘まれた木箱をナイに向けて投げ飛ばし、それを見たナイは咄嗟に蹴飛ばそうとしたが、直感で危険を察知したを発動する。

どうやら酒瓶に混じって爆発物が隠されていたらしく、木箱は地面に落ちた瞬間に爆発した。規模は小さいが、周囲に硝子瓶の破片が散らばり、数名の獣人が巻き込まれる。


「うぎゃあっ!?」
「あちちっ!?」
「な、何をしてやがる!!」
「えっ……そ、そんなつもりじゃ……うぎゃあっ!?」
「ふうっ……」


酒瓶が入った木箱を投げ飛ばした獣人に対してナイは隠し持っていた刺剣を放ち、容赦なく右腕を貫く。あまり武器は使用したくはないが、相手は本気で殺しに来ているため、これ以上は手加減はできない。

先ほどの爆発で大多数の暗殺者が巻き込まれ、もう残された暗殺者は10名程度しか残っていない。彼等はナイに対して身体を震わせながら武器を構えるが、明らかに勝ち目はない事を理解していた。


「……降伏して下さい、そうすれば命までは取りません」
「くっ……」
「……そんな事、出来るわけがないだろ」
「どうせ降伏しても俺達の命は……」


獣人達は身に付けていた仮面を外し、彼等の顔には髑髏の入れ墨のような紋様が浮かんでいた。これがある限りは組織には逆らえない。
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