貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第671話 その頃の王都では……

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――ナイ達が旅立った後、白面に対しての今後はどのように対象するべきか話し合うために王城の会議室で緊急会議が開かれていた。白狼騎士団を除く各王国騎士団の団長と副団長が集められ、アッシュ公爵が司会役を勤める。


「現在、我々が白面と呼んでいる暗殺者集団に関して分かっている情報はあまりにも少ない。判明しているのは先日に襲撃を仕掛けてきた暗殺者全員が同じ仮面を身に付けていた事、そして獣人族で統一されていたという事だ」
「20年ほど前に存在した白面という同じ名前の組織とは何か関係がありませんの?」
「いや、確かに20年前の時は白面という組織は存在した。だけどね、今回の敵に関しては同じ組織とは限らないし、今の敵はあたし達が勝手に白面と呼んでいるだけだからね」
「全く、ちゃんと資料を読んだらどうだ?」
「むうっ……」


ドリスの言葉にテンが否定し、彼女の隣に座っているリンが軽口を挟むとドリスは頬を膨らませる。しかし、現状で判明している白色の仮面を被った謎の暗殺者集団の手掛かりは掴めていない。


「……死んだ暗殺者の身元は分からないのか?」
「現在も調査中ですが、一向に進展はありません。少なくとも王都に暮らしている獣人族の住民を中心に聞き込みを行っていますが、今の所は彼等の顔を知る者は一人もいません」
「そうか……」
「……私と兄上は実際にその暗殺者達と戦ってはいませんが、騎士団は苦戦を強いられたと聞いております。実際に戦ってみてどう感じられましたか?」


先日の襲撃の際はバッシュ王子とリノ王女は騎士団に同行しておらず、どちらも王城にて業務を行っていた。そのため、各地区の見回りを行っている時に襲撃を受けたの副団長とテンの率いる聖女騎士団だけである。


「私の場合は闘技場に運び込まれるはずだった魔物が逃走し、その対応のために部隊を分けて工場区を隈なく捜索していた最中だ。隊を分けて行動していたせいで奴等が襲撃を仕掛けて来た時は私の他にはナイと十数名の隊員しかいなかった。今思えば運搬中の魔物が脱走した事も奴等の仕業かもしれないな」
「それでは運搬に関わっていた人間達はどうした?」
「その点に関しては私の方で調べたが、彼等に怪しい点はない。私が直々に彼等と会って話してみたが、全員が馬車の中の魔物達が暴れ出して逃げたと証言していた」


闘技場に送り込まれる魔物は事前に眠り薬の類で意識を奪い、檻に閉じ込めて馬車で運ぶ方法が採用されている。ミノタウロスが脱走した件もあってアッシュも運搬の際には慎重に注意を払うように闘技場の兵士達には命じていた。

しかし、今回の運搬中の事故に関しては色々と不可解な点が多く、アッシュが直々に運搬に関わった人間達と相対した結果、彼等は魔物を運ぶ途中に妙な出来事が起きたという。


「運搬の際に護衛と見張り役を任せていた冒険者に確認した所、移動の途中で檻の中の魔物が悲鳴が聞こえたと言っていた。そして事件が起きた後に檻を調べた結果、何やら針のような物が馬車の中に落ちていた」
「針、ですか?」
「そこから先は俺に説明させてください」
「シノビ?」


何処から現れたのかシノビが会議室に姿を晒すとリノは驚きの声を上げるが、彼の手には一本の針が握りしめられていた。それはかつてシノビ一族の裏切り者にして王都では裏社会をシャドウと共に牛耳っていた「イゾウ」という忍者が所持していた「突針」と呼ばれる暗器だった。


「この突針は我がシノビ一族に伝わる代物ですが、魔物が閉じ込められていた馬車の中にこれが残っていました。この突針を持っている人間がいるとすればシノビ一族の者だけ……つまり、先日に始末したイゾウが所持していた物だと思われます」
「何だと?」
「ちょっと待ちな!!イゾウは確かに死んだはずだよ!?」


イゾウが使用していた突針なる暗器が工場区で脱走した魔物の檻の中に発見されていた事を知ってテンは驚き、シノビもまさかこの突針をイゾウが死んだ後に目にする機会があるとは思わなかった。


「この突針は特殊な技法で作り出されています。和国の鍛冶師以外にこんな物を作り出せる鍛冶師はいないはず……恐らくはイゾウが所持していた突針を別の誰かが使用したのでしょう」
「何だって!?」
「この突針は本来は毒を仕込んでから相手に突き刺すために投げるのが一番有効的な使い方だが、どうやら犯人は運搬中の魔物の目を覚まさせるために放り込んだのでしょう」
「なるほど……だが、ではそのイゾウとやらの関係者が死んだ人間の武器を勝手に使い、魔物を目覚めさせたという事か」
「ちょっと待ちな、そんな事が出来るのかい?運搬中は他の人間も居たんだろう?誰にも気づかれずにその針を投げつけて魔物の目を覚ますなんて……」
「普通の人間には不可能でしょう……だが、暗殺者ならば容易い事だ。そしてイゾウには相方が居たはず」


シノビの言葉を聞いて全員の表情が変わり、イゾウの相棒と言えば一人しかおらず、裏社会に関わる人間ならば必ず一度は耳にする名前である。
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