貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
658 / 1,110
王都の異変

第647話 闇ギルドの長の恐怖

しおりを挟む
――白面が引き起こした事件の夜、闇ギルドの長達が集まって会議が開かれた。しかし、会議に参加した人間は二人しかおらず、前回の会議に参加した人間の殆どが消えていた。

会議に参加する人間の中で最も古株である老人は身体を震わせ、シャドウの到着を持つ。もう一人の人物は全身をフードで覆い隠し、妙な雰囲気を纏っていた。


『……待たせたな』
「お、遅いぞ!!何をしていた!?」
「…………」


円卓にシャドウが現れると早々に老人は怒鳴り散らす。普段の彼ならばシャドウが現れると怯えるのだが、今回ばかりは彼に問い質さなければならず、非常に興奮した様子で怒鳴りつける。


『まあ、落ち着け……例の白面の奴等だな?』
「その通りだ!!奴等は何者だ!?お前なら知っているのか!!」


昼間に騒動を引き起こした白面に関しては闇ギルドの長は一切関知しておらず、彼等の正体を知っている人間といえばシャドウぐらいしか心当たりがない。だからこそ急遽会議を開いたのだが、何故か他の闇ギルドの代表は来ない事にも疑問を抱く。


「それに他の奴等はいったいどうした!?どうして儂等しかおらんのだ!?」
『さあな……あんまりにも当てにならなくて排除されたんじゃないか』
「は、排除だと!?馬鹿な、誰にやられた!?まさか、お前が……」
『こちらは頼りになる相棒を失ったばかりだ。そんな馬鹿な真似はしないさ』


イゾウが死んだ事は既に闇ギルドの長も把握しており、結果から言えばテンの暗殺は失敗に終わった。その事に関してはシャドウは謝罪も行わず、自分の前に堂々と姿を現した彼に内心では怒りを抱く。

しかし、得体の知れない「白面」なる存在が現れた事で状況は一変し、王都の闇ギルドの長として彼等の正体を見極めなければならない。本来ならばネズミがいれば彼女から情報を探らせるのが一番なのだが、そのネズミも姿を消してしまった。


「シャドウ、答えろ!!奴等の正体をお前は知っているのか!?」
『知っていると言えば……まあ、知っているな。但し、俺も今日ばかりだ』
「聞かされた、だと!?それはどういう意味だ?」
『本人に聞いてみたらどうだ?』


シャドウはこの場に存在する人物の中で一言も喋らずに座っている人物に視線を向け、今更ながらに長は違和感を抱く。


(待て、どうして儂はこいつの事を……!?)


最初から姿を隠して会議に参加している人物を見て長は疑問を抱く。別に会議中に姿を隠して参加する事自体はよくある事だが、王都の闇ギルドの代表と言っても過言ではない自分に対して正体も明かさずに黙ったまま座っている人物に、普段の自分ならばシャドウが来る前に正体を問い質しているはずである。

しかし、最初にこの人物を前にしても長は特に何の疑念も抱かず、シャドウが訪れるまで待ち続けた。その時間はどれだけの長さだったのかは知らないが、長は何度でも待ち構える人物の正体を確かめる事はできたはずである。それなのに長は確認しなかったという事に彼は自分自身に違和感を抱く。


(何だ、この男は……目の前に居るのにまるで存在感を感じさせない。まさか、隠密の技能か!?)


会議に唯一に参加している人物は隠密の技能で限りなく存在感を消し去り、その影響で長も彼の存在を認識できずにいた。シャドウの指摘がなければきっと長は彼の事を気にも留めなかっただろう。


『そろそろ姿を見せたらどうだ?』
「……頃合いか」
「ど、どういう事だ!?貴様はいったい……」


シャドウの言葉を聞いてフードで全身を覆い隠していた人物は顔を露にする。それを見た瞬間、長は腰が抜けそうになった。


「き、貴様は……その仮面はまさか!?」
「こうして顔を合わせるのは……初めてか?」


その人物は顔面を白色の仮面で隠しており、それでも皺だらけの皮膚や白髪頭である事、何よりも声が老人である事を知らせる。恐らくは長とそれほど変わらない年齢だと思われ、昼間に騒動を起こした白面の暗殺者と同じ仮面を身に付けていた。

状況的に考えて長の前に現れたのは白面の暗殺者の関係者、下手をしたら統率する立場の人間だと分かり、慌てて長は距離を取る。しかし、そんな長に対してシャドウは円卓に腰かけ、語り掛ける。


『改めて紹介しよう……この人がお前達が白面と呼ぶ暗殺者の上司、というよりも統括者だな』
「と、統括!?では、お前が白面の組織の主か!?」
「奴等は儂の手足にしか過ぎん。配下ではなく、ただの手駒だ」


長は仮面を被った老人の言葉を聞いて冷や汗を流し、この人物とシャドウがどのような関係なのか気になった。シャドウは冗談でも他の人間を敬うような態度は取らないが、この人物に対してはわざとらしくありながらも自分よりも上の立場の人間であるかのように語り掛ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...