貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第637話 魔力回復薬改

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――超大型の魔樹と昆虫種の殲滅に成功したナイ達は無事に樹石を回収し、どうにか王都に帰還を果たす。リーナ達とは冒険者ギルドで別れた後、エルマ達は直接に王城へ向かう。

研究室のイリアの元に辿り着くと、彼女は既に調合の準備は終えており、ナイ達が採取した星華と樹石、更には保存していた聖水を利用してまずは薬草の育成を行う。

樹石を砕いて肥料代わりに腐葉土と混ぜると、それに星華を植えて聖水を与える。すると急速的に星華は成長を果たし、それを利用してイリアは調合を行う。そこで出来上がったのが「魔力回復薬改」であった。


「よし、完成しましたよ!!これが私の自信作、魔力回復薬改です!!」
「改……?」
「まだ試作段階ですので正式名称は後回しです。ですが、これを飲めばマホ魔導士も回復するはずですよ!!」
「ほ、本当ですか?」
「怪しい色合いをしている気がするが……」


イリアが作り出した魔力回復薬改は通常の魔力回復薬改よりも色合いが濃く、それを見たエルマ達は不安を抱くが、他に手段はないのでマホの元へ持っていく。そこには医師のイシが彼女の看病を行い、ナイ達が薬を盛ってくると彼は怒鳴りつける。


「遅いぞ、やっとできたのか!?」
「こっちも急いで作ったんですけどね……ほら、後は任せますよ」
「うおおっ!?な、投げるんじゃねえっ!!」


イシに向けてイリアは魔力回復薬改を放り込むと、彼は珍しく慌てた様子で受け取り、意識を失っているマホの口元に近付かせる。しかし、完全に意識を失っているマホに魔力回復薬改を流し込もうとしても彼女はむせて飲み込まない。


「げほっ……!!」
「うわっ……くそ、駄目かっ!!上手く飲み込まない……!!」
「大丈夫です、こいつを使いましょう」
「それ、注射器!?」
「普通の魔力回復薬と違って魔力回復薬改は体内に注入すれば効果が現れるんです。さあ、打ってください!!」
「お、おう……」


言われるがままにイシは注射器に魔力回復薬改を入れると、マホの腕の血管に突き刺し、中身を流し込む。本当に大丈夫なのかとナイ達は不安な表情を浮かべるが、徐々にマホの身体に変化が起きた。

魔力回復薬改を注入した途端に息が整い、顔色も良くなると瞼がゆっくりと開かれた。彼女は自分がベッドに横たわっている事に気付いて戸惑う。


「こ、ここは……」
「老師!!無事ですか!?」
「良かった……目が覚めたのか」
「お主等……そうか、儂は眠っておったのか」
「やりましたね、大成功ですよ!!」
「う、うん……」


マホは身体を起き上げ、自分が意識を失っていた事に気付き、ナイ達を見て彼等が救ってくれた事を悟る。この時に外から誰かが駆けつける音が鳴り響き、部屋の扉が荒々しく開かれた。


「おい、老師はここか!?」
「ちょ、ちょっと!!待ちなさい、君!!」
「勝手に出歩かれたら困るんだよ!!」


聞き覚えのある声が響き、ナイ達は振り返るとそこにはガロの姿が存在した。彼の後に何人もの兵士が続き、どうやらガロは城に乗り込んできたらしい。ガロは兵士に肩を掴まれながらも部屋の中にいるマホを見て死んでいない事を知り、安堵の息を吐く。


「な、何だよ……倒れたって聞いていたのに、元気そうじゃねえか」
「おおっ……ガロ、久しぶりじゃな」
「ガロ、お前何をしていた!?」
「連絡は送ったはずでしょう!!」
「い、いや……俺も戻って来たばかりで、初めて聞いたんだよ」


マホが倒れた事を伝える様にエルマとゴンザレスは冒険者ギルドのギルドマスターにも伝えていたが、ガロは仕事を引き受けていたので冒険者ギルドに戻ったのは今日だった。ギルドマスターから話を聞いたガロは居ても立っても居られずに城に乗り込み、マホの元へ訪れた。

意識を失ったマホの話を聞いて彼は不安を抱いたが、実際に会ってみると元気そうな彼女を見て安心し、そしてナイ達も居る事に気付くと気まずい表情を浮かべる。だが、そんな彼にマホは微笑む。


「来てくれて嬉しいぞ……ガロ」
「老師……お、俺は……」
「さあ、こっちに来て顔を良く見せてくれ」
「くっ……」


マホの優しい言葉にガロは顔を伏せ、勝手に出て行った自分がどんな顔をして話せばいいのか分からず、彼の頬に涙が流れる。その様子を見てナイ達は今はガロとマホを二人きりにした方が良いと判断し、部屋を出て行った――





――こうしてマホは一命を取り止め、更にイリアは新しい薬を作り出す事に成功した。しかし、今回の魔力回復薬改の製作には貴重な素材が多すぎるため、上級回復薬とは異なり、大量生産は不可能だった。

現時点では量産化は難しい代物だが、それでも魔力を瞬時に回復させるという点では普通の魔力回復薬よりも価値の高い代物である事に間違いない。またもや新しい薬品を作り出したイリアを国王は褒め称え、彼女に勲章を贈ったのは別の話である。
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