貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第632話 大樹と蜂の巣

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「な、何あれ……あんなに大きな蜂の巣、見たことないよ」
「あれは……蜂型の昆虫種の巣のようですね」
「なんという事だ……」
「……迂闊に近づくのは危険ですね」


巨大な蜂の巣が大樹に張り付き、その周囲には数十匹の巨大な蜂が浮かんでいた。巣の中にはさらに何倍もの仲間が隠れているはずであり、とてもではないがナイ達の手に負える代物ではない。

恐らくはこの周辺に暮らしていたオークは、この巨大蜂の群れに恐れを為して逃げ出したと思われ、こんな光景を見せつけられたらどんな人間でも逃げ出したくなる気持ちは理解できる。しかし、ナイ達の目的は深淵の森の奥地に潜む魔樹を見つけ出す事である。


『大分森の奥に進んだはずだが……まだ魔樹は見つからないのか?』
「いえ……恐らくですが、あの大樹が魔樹でしょう」
「「「えっ!?」」」


エルマの言葉に全員が呆気に取られるが、彼女は冷静に大樹を指差す。この際に月夜の光で大樹の樹皮を確認すると、そこには人面を想像させる皺が浮かんでおり、目元の部分には怪しい光が輝いていた。


「あ、あの大樹が……魔樹だというのか!?」
「その通りです……前に飛行船が降りた時に遭遇した魔樹はまだ子供、成熟した魔樹はあのような大きさへと変化します」
「お、大き過ぎだよ……」
『……デカすぎる』
『ほう、これほどの大物は俺も初めてだな!!』


大樹だと思われた植物の正体が魔樹だと判明し、ナイ達は遂に目的の魔物を発見した事になるが、いくらなんでも相手が大きすぎた。しかも現在の魔樹には巨大蜂の巣が形成されており、とてもではないが手を出せる状況ではない。

魔樹から樹石を回収するだけでも難しいというのに、それに巨大蜂まで敵に加わればいくらナイ達でも勝ち目はない。ゴウカが強いといっても相手は数十匹、下手をしたら数百匹の巨大蜂と何十メートルの高さを誇る魔樹であり、正攻法で挑めば間違いなく死んでしまう。


「エルマ、どうにか出来ないのか?」
「わ、私に言われても……ここは避けて別の場所にいるかもしれない魔樹を探し出すのがいいかと……」
『いや、その必要はない。あの馬鹿でかい奴を倒せば樹石は手に入るのだろう?ならば方法は一つだ、あいつらを倒して樹石を手に入れる。それだけの話だ』
「ええっ!?ゴウカさん、本気で言っているの!?」
『無論だ。そのためにはマリン、お前の力を借りるぞ』
『……人使いが荒い』


ゴウカはマリンの肩を掴むと、彼女はため息を吐きながら水晶板に文字を書き込む。その様子を見てナイは本気で二人が挑むつもりなのかと戸惑うが、ゴウカには自信がある様子だった。


『マリンの魔法ならば俺のこの「ドラゴンスレイヤー」を強化する事ができる。マリンの魔法で俺の剣に火属性の魔力を付与させ、その状態で切りかかればあの程度の魔樹など焼き払えるだろう』
「えっ!?それは本当ですか!?」
『だが、奴を倒すには攻撃を与える必要がある。そのためには俺も相応の力を込める必要があるから攻撃には時間が掛かる。その間、お前達に奴等が俺に近付いてこない様に援護をしてほしいのだが……』
「それは……どれくらいの時間が必要ですか?」
『30秒だ。30秒、時間を掛けて力を貯めれば奴を確実に仕留める攻撃が出来る。どうだ?俺の作戦に乗ってくれるか?』
「30秒間……」


ナイ達は大樹と巨大蜂の大群を確認し、あれらの敵を相手に30秒間もゴウカを守り続ける事ができるのかと不安を抱く。しかし、他に方法はなく、今から別の魔樹を探し出したとしても見つかる保証はない。


『失敗すれば私達は奴等に狙われる。その時は死ぬかもしれない……というか、確実に死ぬと考えた方が良い』
『うっ……』


マリンの言葉にナイ達は表情を青ざめ、失敗したら取り返しがつかない。しかし、成功したら樹石だけではなく、この森を脅かす存在を倒せるかもしれない。

深淵の森の生態系が崩れれば影響は他の場所にも広がり、既に大量のオークが深淵の森の外に逃げ出す事態に陥っている。ナイの故郷は赤毛熊が一匹だけ他の縄張りに移動しただけで大勢の被害者が生まれ、その中にはアルとゴマンも含まれている。


(やるしかない……こいつらをここで始末するんだ!!)


ナイは覚悟を固めてゴウカの作戦に乗る事にした。そして他の者も黄金冒険者であるゴウカとマリンの力を信じて彼等の作戦に乗る事にした――
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