643 / 1,110
王都の異変
第632話 大樹と蜂の巣
しおりを挟む
「な、何あれ……あんなに大きな蜂の巣、見たことないよ」
「あれは……蜂型の昆虫種の巣のようですね」
「なんという事だ……」
「……迂闊に近づくのは危険ですね」
巨大な蜂の巣が大樹に張り付き、その周囲には数十匹の巨大な蜂が浮かんでいた。巣の中にはさらに何倍もの仲間が隠れているはずであり、とてもではないがナイ達の手に負える代物ではない。
恐らくはこの周辺に暮らしていたオークは、この巨大蜂の群れに恐れを為して逃げ出したと思われ、こんな光景を見せつけられたらどんな人間でも逃げ出したくなる気持ちは理解できる。しかし、ナイ達の目的は深淵の森の奥地に潜む魔樹を見つけ出す事である。
『大分森の奥に進んだはずだが……まだ魔樹は見つからないのか?』
「いえ……恐らくですが、あの大樹が魔樹でしょう」
「「「えっ!?」」」
エルマの言葉に全員が呆気に取られるが、彼女は冷静に大樹を指差す。この際に月夜の光で大樹の樹皮を確認すると、そこには人面を想像させる皺が浮かんでおり、目元の部分には怪しい光が輝いていた。
「あ、あの大樹が……魔樹だというのか!?」
「その通りです……前に飛行船が降りた時に遭遇した魔樹はまだ子供、成熟した魔樹はあのような大きさへと変化します」
「お、大き過ぎだよ……」
『……デカすぎる』
『ほう、これほどの大物は俺も初めてだな!!』
大樹だと思われた植物の正体が魔樹だと判明し、ナイ達は遂に目的の魔物を発見した事になるが、いくらなんでも相手が大きすぎた。しかも現在の魔樹には巨大蜂の巣が形成されており、とてもではないが手を出せる状況ではない。
魔樹から樹石を回収するだけでも難しいというのに、それに巨大蜂まで敵に加わればいくらナイ達でも勝ち目はない。ゴウカが強いといっても相手は数十匹、下手をしたら数百匹の巨大蜂と何十メートルの高さを誇る魔樹であり、正攻法で挑めば間違いなく死んでしまう。
「エルマ、どうにか出来ないのか?」
「わ、私に言われても……ここは避けて別の場所にいるかもしれない魔樹を探し出すのがいいかと……」
『いや、その必要はない。あの馬鹿でかい奴を倒せば樹石は手に入るのだろう?ならば方法は一つだ、あいつらを倒して樹石を手に入れる。それだけの話だ』
「ええっ!?ゴウカさん、本気で言っているの!?」
『無論だ。そのためにはマリン、お前の力を借りるぞ』
『……人使いが荒い』
ゴウカはマリンの肩を掴むと、彼女はため息を吐きながら水晶板に文字を書き込む。その様子を見てナイは本気で二人が挑むつもりなのかと戸惑うが、ゴウカには自信がある様子だった。
『マリンの魔法ならば俺のこの「ドラゴンスレイヤー」を強化する事ができる。マリンの魔法で俺の剣に火属性の魔力を付与させ、その状態で切りかかればあの程度の魔樹など焼き払えるだろう』
「えっ!?それは本当ですか!?」
『だが、奴を倒すには身体の芯まで響く攻撃を与える必要がある。そのためには俺も相応の力を込める必要があるから攻撃には時間が掛かる。その間、お前達に奴等が俺に近付いてこない様に援護をしてほしいのだが……』
「それは……どれくらいの時間が必要ですか?」
『30秒だ。30秒、時間を掛けて力を貯めれば奴を確実に仕留める攻撃が出来る。どうだ?俺の作戦に乗ってくれるか?』
「30秒間……」
ナイ達は大樹と巨大蜂の大群を確認し、あれらの敵を相手に30秒間もゴウカを守り続ける事ができるのかと不安を抱く。しかし、他に方法はなく、今から別の魔樹を探し出したとしても見つかる保証はない。
『失敗すれば私達は奴等に狙われる。その時は死ぬかもしれない……というか、確実に死ぬと考えた方が良い』
『うっ……』
マリンの言葉にナイ達は表情を青ざめ、失敗したら取り返しがつかない。しかし、成功したら樹石だけではなく、この森を脅かす存在を倒せるかもしれない。
深淵の森の生態系が崩れれば影響は他の場所にも広がり、既に大量のオークが深淵の森の外に逃げ出す事態に陥っている。ナイの故郷は赤毛熊が一匹だけ他の縄張りに移動しただけで大勢の被害者が生まれ、その中にはアルとゴマンも含まれている。
(やるしかない……こいつらをここで始末するんだ!!)
ナイは覚悟を固めてゴウカの作戦に乗る事にした。そして他の者も黄金冒険者であるゴウカとマリンの力を信じて彼等の作戦に乗る事にした――
「あれは……蜂型の昆虫種の巣のようですね」
「なんという事だ……」
「……迂闊に近づくのは危険ですね」
巨大な蜂の巣が大樹に張り付き、その周囲には数十匹の巨大な蜂が浮かんでいた。巣の中にはさらに何倍もの仲間が隠れているはずであり、とてもではないがナイ達の手に負える代物ではない。
恐らくはこの周辺に暮らしていたオークは、この巨大蜂の群れに恐れを為して逃げ出したと思われ、こんな光景を見せつけられたらどんな人間でも逃げ出したくなる気持ちは理解できる。しかし、ナイ達の目的は深淵の森の奥地に潜む魔樹を見つけ出す事である。
『大分森の奥に進んだはずだが……まだ魔樹は見つからないのか?』
「いえ……恐らくですが、あの大樹が魔樹でしょう」
「「「えっ!?」」」
エルマの言葉に全員が呆気に取られるが、彼女は冷静に大樹を指差す。この際に月夜の光で大樹の樹皮を確認すると、そこには人面を想像させる皺が浮かんでおり、目元の部分には怪しい光が輝いていた。
「あ、あの大樹が……魔樹だというのか!?」
「その通りです……前に飛行船が降りた時に遭遇した魔樹はまだ子供、成熟した魔樹はあのような大きさへと変化します」
「お、大き過ぎだよ……」
『……デカすぎる』
『ほう、これほどの大物は俺も初めてだな!!』
大樹だと思われた植物の正体が魔樹だと判明し、ナイ達は遂に目的の魔物を発見した事になるが、いくらなんでも相手が大きすぎた。しかも現在の魔樹には巨大蜂の巣が形成されており、とてもではないが手を出せる状況ではない。
魔樹から樹石を回収するだけでも難しいというのに、それに巨大蜂まで敵に加わればいくらナイ達でも勝ち目はない。ゴウカが強いといっても相手は数十匹、下手をしたら数百匹の巨大蜂と何十メートルの高さを誇る魔樹であり、正攻法で挑めば間違いなく死んでしまう。
「エルマ、どうにか出来ないのか?」
「わ、私に言われても……ここは避けて別の場所にいるかもしれない魔樹を探し出すのがいいかと……」
『いや、その必要はない。あの馬鹿でかい奴を倒せば樹石は手に入るのだろう?ならば方法は一つだ、あいつらを倒して樹石を手に入れる。それだけの話だ』
「ええっ!?ゴウカさん、本気で言っているの!?」
『無論だ。そのためにはマリン、お前の力を借りるぞ』
『……人使いが荒い』
ゴウカはマリンの肩を掴むと、彼女はため息を吐きながら水晶板に文字を書き込む。その様子を見てナイは本気で二人が挑むつもりなのかと戸惑うが、ゴウカには自信がある様子だった。
『マリンの魔法ならば俺のこの「ドラゴンスレイヤー」を強化する事ができる。マリンの魔法で俺の剣に火属性の魔力を付与させ、その状態で切りかかればあの程度の魔樹など焼き払えるだろう』
「えっ!?それは本当ですか!?」
『だが、奴を倒すには身体の芯まで響く攻撃を与える必要がある。そのためには俺も相応の力を込める必要があるから攻撃には時間が掛かる。その間、お前達に奴等が俺に近付いてこない様に援護をしてほしいのだが……』
「それは……どれくらいの時間が必要ですか?」
『30秒だ。30秒、時間を掛けて力を貯めれば奴を確実に仕留める攻撃が出来る。どうだ?俺の作戦に乗ってくれるか?』
「30秒間……」
ナイ達は大樹と巨大蜂の大群を確認し、あれらの敵を相手に30秒間もゴウカを守り続ける事ができるのかと不安を抱く。しかし、他に方法はなく、今から別の魔樹を探し出したとしても見つかる保証はない。
『失敗すれば私達は奴等に狙われる。その時は死ぬかもしれない……というか、確実に死ぬと考えた方が良い』
『うっ……』
マリンの言葉にナイ達は表情を青ざめ、失敗したら取り返しがつかない。しかし、成功したら樹石だけではなく、この森を脅かす存在を倒せるかもしれない。
深淵の森の生態系が崩れれば影響は他の場所にも広がり、既に大量のオークが深淵の森の外に逃げ出す事態に陥っている。ナイの故郷は赤毛熊が一匹だけ他の縄張りに移動しただけで大勢の被害者が生まれ、その中にはアルとゴマンも含まれている。
(やるしかない……こいつらをここで始末するんだ!!)
ナイは覚悟を固めてゴウカの作戦に乗る事にした。そして他の者も黄金冒険者であるゴウカとマリンの力を信じて彼等の作戦に乗る事にした――
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
かわいそうな旦那様‥
みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。
そんなテオに、リリアはある提案をしました。
「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」
テオはその提案を承諾しました。
そんな二人の結婚生活は‥‥。
※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。
※小説家になろうにも投稿中
※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました
ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。
それは王家から婚約の打診があったときから
始まった。
体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。
2人は私の異変に気付くこともない。
こんなこと誰にも言えない。
彼の支配から逃れなくてはならないのに
侯爵家のキングは私を放さない。
* 作り話です
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが
リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!?
※ご都合主義展開
※全7話
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる