貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
630 / 1,110
王都の異変

第620話 オーロラ湖

しおりを挟む
「ビャク、どうしたの?何か気になるの?」
「クゥ~ンッ……」


ビャクは湖に視線を向け、首を左右に振る。どうやら湖に近付くのが嫌ならしく、ナイは周囲を見渡して魔物の姿が居ない事を思い出し、ビャクの反応を見て湖に何かが潜んでいるのではないかと考える。


(もしかしてここら辺に魔物が見かけないのはこの湖のせいか?仮にそうだとしたら……不用意に近づかない方がいい)


ナイは湖に迂闊に近づきすぎないように気を付け、まずは薬草を探す。この際にナイは観察眼を発動させ、注意深く地面に生えている植物を確認しながら歩く。


(今の所は気配感知に反応はないけど……念のために隠密と無音歩行も発動させておくか)


ビャクは湖を近付こうとしないのでナイは一人で湖に近付き、その様子を離れた場所から心配そうにビャクは眺める。エルマに言われて薬草の特徴を思い返しながらそれらしい薬草を探す。

捜索を開始してからしばらくすると、ナイは湖の方に視線を向け、ここである事に気付いた。それは湖の中に何かが光っている事に気付き、恐る恐る近付いて中の様子を伺うと、水中の方に花が沈んでいる事に気付く。


「あれは……!?」


よくよく確認すると湖の中に花が沈んでいるのではなく、どうやら水中の中で花が生えているらしく、エルマの言っていた薬草は湖の中に存在した。


(あれが魔力回復薬の薬草……なのか?)


ナイは湖の中を覗き込み、見た限りでは普通の湖にしか見えない。慎重にナイは指先で湖の水に触れ、臭いを嗅いでみるが特に何も感じない。仮に湖に毒の成分が混じっていたとしても、ナイには毒耐性の技能があるのである程度の毒は防げるはずだった。

湖に沈んでいる薬草はかなりの数が存在し、これらを採取すればマホが助かるかもしれないと考えたナイは湖に潜って採取するしかないかと考えた。しかし、ここでビャクが湖に近付かない事、何よりも魔物がこの湖周辺に存在しない時点でナイは嫌な予感を抱く。


(湖の中に魔物が恐れる存在が隠れている?)


水中に何か得体の知れない存在が潜んでいるのではないかと勘付いたナイは冷や汗を流し、ゆっくりと距離を置く。今のところは湖に何も変化はなく、安全な場所まで下がろうとした時、水面に影が現れてナイの元へ近付いていた。


(何だ!?)


観察眼を発動していたのでナイはいち早く水面の異変に気付き、咄嗟に跳躍の技能を発動させて後方へと跳ぶ。それが功を奏し、水中に潜んでいた存在は派手に水飛沫を上げながら姿を現す。


「シャアアアッ!?」
「なっ!?ワニ……いや、トカゲ!?」
「ウォオンッ!!」


跳躍する前のナイが立っていた場所にワニとトカゲが合わさったような生物が乗り込み、それを確認したビャクがナイの元へ向かい、空中から下りてきたナイを背中に乗せる。

ワニとトカゲが合わさったような魔物は大きな顎を開き、ナイ達に視線を向ける。大きさ7、8メートルは存在し、ビャクよりも大きい。


「グルルルッ!!」
「シャアアアッ!!」
「くそっ……こいつ、湖の主か?こいつがいるからこの辺の魔物は近づかないのか?」


水中から出現した巨大なワニとトカゲが合わさったような魔物を確認してナイは冷や汗を流し、恐らくはミノタウロス並の厄介の敵だと認識した。


(もしもあのまま水に潜って薬草を取ろうとしていたらこいつに飲み込まれていたかもな……けど、ここで倒せば薬草が手に入る!!)


地上に出現した魔物に対してナイは旋斧と岩砕剣を構え、ここで倒せば湖にある薬草を採取できると考えた。しかし、そんなナイの考えを読み取ったかのように魔物は後ろに下がり、水中に引き返す。


「シャアッ!!」
「あっ!?待て……くそっ!!」
「ウォンッ……」


水中に潜ってしまった魔物を見てナイは失敗したと思い、水中に逃げられたらナイ達には追いかける事は出来ない。仮に水中に潜り込めばナイ達の方が不利となり、返り討ちに合う。

地上ならば戦える自信はあるが、水中のような場所では大剣のような重量のある武器では戦いにくい、そもそも魔法剣の類は頼れない。下手に水中で雷属性の魔法剣などを使えば感電する恐れもあり、他の魔法剣も色々と危険性が高い。

第一に湖で魔法剣なんか使えば水中に沈んでいる薬草にも悪影響を与えかねない。どうにかナイは先ほどの魔物を地上に引き寄せ、倒して薬草を採取する方法を考える。


「よし……ビャク、力を貸してくれ」
「ウォンッ?」


ナイはある作戦を思いつき、ビャクに協力を求める。作戦を始める前にナイは準備を行うため、手持ちの装備を確認し、左腕に装着した闘拳を見て頷く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...