貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第617話 竜殺しの大剣

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『狙いは悪くない、だが迂闊すぎるぞ』
「うおおっ!?」
「あ、危ない!!」
「やべぇっ!?」


ゴウカはガオウの身体を掴むと、軽々と片腕で振り回し、そしてナイが覗いている塀へ向けて放り込む。それを見たナイは咄嗟にガオウが危ないと判断し、急いで塀を乗り越えるとガオウを受け止めて壁に衝突する。


「ぐふぅっ!?」
「ぐあっ……お、お前!?どうしてここに!?」
『ほう、気配がしたから投げてみたら……あの時の少年ではないか!!』
「ウォンッ!!」


ガオウは自分が受け止めた相手がナイだと知って驚き、ゴウカの方は再びナイが現れた事に嬉しそうな声を上げる。この時に塀の向こうに居たビャクも乗り越え、いきなり現れたナイとビャクを見て他の冒険者は警戒した。


「グルルルッ……!!」
「うわっ!?な、何だ!?馬鹿でかい狼!?」
「あ、あれって白狼種じゃないか!?希少種の……」
「待てよ、白狼種に子供……もしかして、あれが噂に聞く巨鬼殺しか!?」


ナイとビャクの姿を見て何人かの冒険者は心当たりがあるらしく、すぐに噂の「巨鬼殺し」なる存在だと気付く。その一方で助けられたガオウは不満そうな表情を浮かべ、ナイに話しかけた。


「くそっ……余計な真似はするな、訓練中だぞこっちは」
「あ、あの……すいません」
「……まあ、助けてくれようとしたのは礼を言うぜ。回復薬を使わずに済んだ、ありがとうよ」


謝罪するナイに対してガオウは苦笑いを浮かべ、彼の頭に手を伸ばすと改めてギガンと向き合う。先ほどから何十回も攻撃を繰り出しているのにギガンの身に付けている鎧には傷一つない。

攻撃を仕掛けているガオウの両腕の鉤爪の方が刃毀れを起こしており、ミスリル製の武器であろうとギガンの身に付けている甲冑に傷を与える事はできなかった。だが、それでもガオウは諦めずに構える。


「ゴウカ、勝負はここからだ!!」
『ほう、良い意気込みだな……だが、無理をするな。足が震えているぞ』
「ちっ……」


ゴウカの指摘にガオウは身体の方も限界が近いと悟り、それでも男の意地で彼は武器を構える。そんなガオウに対して今まで自分から動かなかったゴウカは背中の大剣に手を伸ばす。


『だが、その心意気は買ったぞ!!俺も本気を出すとしよう……行くぞ!!』
「や、やばい!!皆、離れろっ!!」
「ゴウカさんが剣を使うぞ!!」
「ドラゴンスレイヤーだ!!」


ゴウカが武器を取り出した瞬間に他の者達は怯えた声を上げて距離を取り、その一方でナイはゴウカの気迫と彼が手にした信じられない程に大きな赤色の大剣を見て驚愕する。

ゴウカの大剣には鱗のような物が張り付けられており、その鱗は間違いなく火竜の物だった。ゴウカの大剣には火竜の鱗が施され、他の冒険者が告げた「ドラゴンスレイヤー」という言葉を思い出す。


(ドラゴンスレイヤー……それって、前にアルトの図鑑で見たあの大剣!?)


かなり前にアルトが所有する魔道具に関する図鑑をナイは見せて貰った事があった。そして武器の項目に「ドラゴンスレイヤー」なる件も記されていた事を思い出す。




――ドラゴンスレイヤーとはかつて竜種の死骸から作り出された武器の事を意味しており、世界最強の魔物である竜種の素材で構成された武器は全て「ドラゴンスレイヤー」という名前に統一される。

ゴウカの所持する「ドラゴンスレイヤー」は色合いから火竜の素材が利用され、大剣の形をしているが、世界には火竜以外の竜種の素材で作り出された武器もあるはずである。それらの類は「ドラゴンスレイヤー」と呼ばれ、ゴウカの場合は大剣型のドラゴンスレイヤーを所持している事になる。



『行くぞぉっ!!ガオウ、受けてみろ!!』
「ちょ、おまっ……!?」
「危ない!?」
「ウォンッ!!」


危険を感じたナイは咄嗟にその場を跳躍の技能で離れると、ビャクはガオウを咥えて別方向に飛び込む。その直後、ゴウカはドラゴンスレイヤーを地面に振り下ろす。

大剣が叩きつけられた瞬間に地面に亀裂が走り、先ほどまでナイ達が立っていた場所に亀裂が到達して塀が崩れてしまう。その光景を目の当たりにしたナイは驚愕し、一方でビャクに助けられたガオウも目を見開く。


「な、何て威力だ……」
「ば、馬鹿野郎!!本気で殺すつもりだっただろ、今の!?」
『ぬう?男の勝負に手加減など無用だろう?』
「阿保か!!最初に試合だと言っただろうが……どうするんだよこれ!!ギルドマスターにぶっ殺されるぞ!?」


破壊された塀を見てガオウは嘆き、こんな光景を冒険者ギルドのギルドマスターに見られたら何と言われるか分からずに頭を抑えた――
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