貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都の異変

第612話 旋斧VS真紅

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(そうか、前のように火属性の攻撃を受けても強くはなれないのか……けど、問題ない!!)


ドリスの真紅から吸収した火属性の魔力を利用し、魔法腕輪から風属性の魔力を引き出して火炎の規模を拡大化させる。


「やああっ!?」
「なっ!?私に火属性の攻撃なんて……通じませんわ!!」


火属性の魔法槍を得意とする自分に対して、ナイが火属性の攻撃を仕掛けてきた事にドリスは焦らずに真紅を突き出す。それだけでの行為で彼女はナイが放出した火炎を振り払う。

しかし、ナイの目的は火炎を利用して自分の姿を隠し、その間に距離を詰める。ドリスは火炎によって一瞬だけ視界が封じられ、近付いて来たナイに気付くのが遅れた。


「ここだっ!!」
「きゃっ!?」
「は、弾かれた!?」
「副団長の槍がっ……!?」


左手の岩砕剣をナイは振り払い、ドリスは魔槍を上空に弾かれてしまう。それを見たナイは勝利を確信し、旋斧を振りかざす。だが、彼女は上空に弾かれた魔槍に向けて跳躍し、空中で手にした。


「甘いですわ!!飛来爆槍!!」
「なっ!?」


ナイの上空に移動したドリスは火属性の魔力を柄の部分から放出し、空中に浮かんだ状態から魔槍を加速させ、地面に突き刺す。咄嗟にナイは避ける事に成功したが、彼女は地面に突き刺した状態で刃先に魔力を集中させて爆発させる。


「爆散!!」
「うわぁっ!?」
「あちゃちゃっ!?」
「おい、もっと離れろっ!!」


土砂の内部で爆発が生じた事で周囲に熱を帯びた土砂が散らばり、団員達も巻き込まれてしまう。ナイは咄嗟に反魔の盾を利用して怪我を負わずに済んだが、ドリスは地上へと着地する。

武器を弾いて勝利を確信仕掛けたナイだが、彼女の思わぬ機転な行動で状況は再び元に戻り、お互いに動けない。流石のドリスも不用意に突っ込む真似はせず、彼女は真紅を構えた状態で動かない。


(強い……リンさんも強かったけど、あの人とは戦い方が全然違う)


単純な火力ならドリスはリンを圧倒し、爆発の力を巧みに利用する彼女の戦法にナイは感心する。しかし、ここで今までのドリスの行動を思い返し、ナイは試してみたい事があった。


(……できるかな?)


ナイは旋斧に視線を向け、ドリスの動きを思い返す。この時にナイは岩砕剣を手放すと、両手で旋斧を構えた。それを見てドリスは疑問を抱くが、次のナイの行動を見て驚く。


「はあああっ!!」
「なっ!?」
「ば、馬鹿なっ!?」
「あれはまさか……ドリスさんの十八番の!?」


魔法腕輪から火属性の魔石から魔力を引き出したナイは旋斧の刃を炎で包み込むと、続けて風属性の魔力を送り込み、刀身の炎を後方へ向けて放出する。その姿を見た団員はドリスが「爆槍」を発動させるときの姿と今のナイの姿が被っている事に気付く。

火属性と風属性の魔力を利用してナイは刃から炎を放出させ、一気に吹き飛ばされない様にナイは地面にしっかりと踏ん張り、狙いを定める。ドリスはまさか自分の戦法を真似したナイに驚くが、彼女は笑みを浮かべた。


「面白いですわね!!でも、私の真似で勝てると思っていますの!?」
「やってみないと……分かりません!!」
「その心掛けは気に入りましたわ!!なら、かかってきなさい!!」


ドリスは逃げる事もせず、正面からナイと向き合う。その様子を見てナイは笑みを浮かべ、そして彼はドリスに目掛けて旋斧を


「行けぇえええっ!!」
「っ――!?」


ナイは旋斧をと、ナイの手元から離れた旋斧は火属性の魔力を噴射しながら加速し、ドリスの元へ迫る。所有者のナイの手元から離れたのでやがて魔力は尽きて炎は消え去るが、それでも加速した状態で旋斧はドリスへと迫る。

まさか武器を手放すとは思わなかったドリスはナイが自分のように突っ込んでくると思っていたため、彼女は慌ててランスで受け止めた。しかし、思いのほかに衝撃が強く、ドリスは旋斧を弾くのが限界で尻餅をつく。


「きゃんっ!?」
「そこだぁっ!!」


ドリスが倒れた瞬間を逃さずにナイは地面に突き刺した岩砕剣を回収し、彼女に迫る。慌ててドリスは起き上がろうとしたが、そんな彼女にナイは岩砕剣を放つ。


「はああっ!!」
「くぅっ……爆裂!!」


座り込んだ状態のままドリスは反射的に真紅に魔力を集中させ、攻撃を行う。しかし、ナイの方も事前に岩砕剣に地属性の魔力を送り込み、重量を増加させた状態で放つ。

二つの武器が衝突し、十分な魔力を練り込めなかったドリスの真紅は弾き返され、ナイの岩砕剣も爆発によって吹き飛ぶ。お互いに武器を失ったドリスとナイではあるが、ナイは空中に手を伸ばすと丁度弾かれて落ちてきた旋斧を手にした。


「……終わり、ですね」
「うっ……!?」


ナイは武器を失って尻餅をついたままのドリスに旋斧を構えると、彼女は冷や汗を流す。この状況下ではナイに抵抗する手段はなく、遂にナイは勝利を掴む。
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