貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
608 / 1,110
王都の異変

第599話 吸血鬼の能力

しおりを挟む
「吸血鬼は他の生物に噛みつき、血液を吸い取る際に特殊な唾液を体内に送り込みます。この唾液には特殊な成分が含まれており、吸血鬼に従わなければならないと思い込みます」
「じゃあ、今まで犯罪を犯した人達は……」
「ええ、きっと吸血鬼に指示されていたのでしょうね」


リンダによれば吸血鬼は他者から血液を吸い上げる際、特殊な唾液を体内に送り込む事で従わせる事が出来る。しかも噛みつかれた人間は吸血鬼に逆らう事が出来ず、謂われた通りに行動を行う。


「じゃあ、噛みつかれた人はずっと操られたままなんですか?」
「いいえ、吸血鬼の唾液には永続効果はありません。せいぜい、一時間程度で効果は切れるはずです。しかし、その一時間の間は操られるという事です」
「一時間……」
「厄介なのは今までの被害者はまともに吸血鬼の姿さえ確認していない事ですな……どんな相手に襲われたのか、どんな指示を受けたのかさえも覚えていないそうです」


今まで拘束された犯罪者は自分達が操られている間の記憶は曖昧らしく、誰に指示されたのかも覚えていなかった。しかし、全員の証言が何者かに襲われ、首筋に噛まれたという事だけは一致している。

これまでに起きた金銭目的の強盗事件は吸血鬼が関わっている事は確定し、警備兵としても見回りを増やしてはいるが一向に吸血鬼の手掛かりさえ掴めていない。吸血鬼は人間と瓜二つの格好をしている事もあり、外見で見分けるのは難しい。


「吸血鬼って牙が発達しているんじゃないですか?それで見分けるとかは……」
「不可能です、人間に化ける時は吸血鬼は自分の牙を削り取ります。普通の人間とは違い、牙の方はまた生えてくるそうです。外見は人間に見えても魔人族ですから私達とは根本的に身体の構造が違うんです」
「なるほど……」


吸血鬼は外見は人間にそっくりのため、牙を削り出して人間社会に溶け込む吸血鬼もいる。他に吸血鬼を見分ける方法があるとすれば蝙蝠のような羽根や尻尾を生やしているというが、これらの類すらも吸血鬼は隠し通せるという。


「牙と同じように羽根や尻尾も切り落としているのでしょう」
「切り落とす!?」
「人間に完全に化けるためにはそれぐらいは必要です。それに切り落とすといってもすぐに生えてきます。魔人族ですから再生能力も普通の人間とは比べ物になりません」
「そ、そうなんですか……」
「吸血鬼を見分けるには裸を確認する以外に方法はありません。しかし、そんな方法を実践するわけにはいきませんので……」


吸血鬼を完璧に見分ける方法があるとすれば片っ端から街の住民を裸にして身体を確認するしかない。しかし、そんな方法を実践できるはずがなく、他に吸血鬼を見分ける手段もない以上は現状ではどうしようも出来なかった。


「吸血鬼を見分ける方法があればいいのですが、どうしようもありませんね」
「何か、被害者に共通点はないんですか?」
「そうですね……強いて言えば犯罪を犯した者は全員が男性です。ですが、年齢も種族も外見もバラバラで特に共通点はありません」
「そうなんですか……」
「我々も連日、見回りを行っていますが吸血鬼らしき存在は確認できず……」
「ですが、被害を受けているのはお金に余裕のある貴族や商人です。吸血鬼の目的は一般人を利用し、彼等が貴族や商人から強奪した金銭や金品を回収して姿を消しています」


これまでの強盗の件数は五件であり、被害を受けた全員が裕福な貴族や商人だと判明している。吸血鬼は一般人を利用して強盗させ、自分は決して危険を犯さない。


「犯人は卑劣です。自分の身を危険に晒さず、一般人を利用して自分は安全な場所で待機し、仮に一般人が捕まったとしても自分の正体は気づかれない……このような輩を放置するわけにはいきません」
「おおっ、ではリンダ様もご協力下さるのですか!?」
「お嬢様に許可を貰う必要はありますが、正義感の強いお嬢様なら断るはずはありません。この際に黒狼騎士団にも連絡しておきます」
「それは心強い!!」


リンダが協力を申し出ると警備兵達は嬉しそうな声を上げ、この際にリンダはナイに視線を向けると、彼女はこの際にナイにも頼み込む。


「ナイ様も私達に力を貸してくれませんか?」
「えっ!?」
「勿論、これは正式な依頼です。もしも引き受けて下さるのならば相応のお礼をしましょう。どうでしょうか?」


いきなり助力を申し込まれたナイは戸惑うが、先ほどの強盗の事を思い出す。もしもナイが助けなかった場合、一人の少女が死んでいたかもしれない。

城下町に吸血鬼なる危険な存在がいるのであれば人々も安心して暮らす事は出来ず、それはナイにとっても無関係ではない。相手が吸血鬼だろうがなんだろうとナイは放置できないと判断し、協力を承諾する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...