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王都の異変
第576話 表と裏の世界
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「――待ち合わせの場所はここでござるが……」
「なるほど、いかにもあの婆さんが好みそうな場所だね」
廃墟と化した教会へテンとクノは辿り着くが、まだネズミの姿は見えなかった。テンは周囲を見渡し、人気がいないのを確認すると落ちている瓦礫の上に座り込む。
「ふむっ……妙な気配を感じるでござるな」
「あんたもかい……おい、出てきな」
『チュチュッ……』
廃墟に入った時点で二人とも奇妙な気配を感知しており、テンが声を掛けると瓦礫の隙間から灰鼠が出現する。それも一匹や二匹ではなく、数十匹の灰鼠があちこちから湧き出してきた。
普通の人間がいれば卒倒しそうな光景だが、テンは顔色一つも変えず、クノも無表情を保つ。やがて廃墟の柱の陰から目的の人物が姿を現す。
「……久しぶりだね、テン。こうして会うのは……20年ぶりぐらいかい?」
「さあね、もう覚えてもいないよ」
「つれない娘だね」
ネズミと顔を合わせたテンは彼女が幼少期の頃に自分を育てた相手だと知り、不機嫌そうな表情を浮かべた。その一方でネズミの方は小さな瓦礫に腰かけ、向かい合うように二人は座る。
「ネズミ、一つだけ聞かせな……あんた、どうしてあたしの前から姿を消した?盗賊の奴等から逃げた後、あんたを何度もあたしは探した。けど、見つからなかった……あの後に何があったんだい?」
「別に何もないさ。あたしは盗賊から逃げた後、外国まで足を運んでいたのさ。それで少し前にここへ戻って来た。それだけの話さ」
「嘘を吐くんじゃないよ。あんた、わざとあたしに見つからない様に暮らしてたんだね」
「どういう意味でござる?」
テンはネズミの話を聞いても全く信じず、彼女の真意は別にあると見抜いていた。クノがその理由を問うと、テンはネズミが姿を消した理由を見抜いていた事を告げた。
「盗賊共から逃げた後、ずっとあたしは不思議に思っていたんだ。勘のいいあんたがあんな盗賊なんかに簡単に捕まるはずがない。ましてや自分を囮にしてあたしだけを逃がすなんてね……あんたはあたしを捨てたんだろう?」
「す、捨てた!?」
「……そうさ、あたしは足手まといのあんたを見限った。それだけの話さ」
テンの言葉にネズミは否定せず、その場で彼女はパイプを取り出して口元に運ぶ。そんな彼女に対してクノは動揺するが、テンは至って冷静に話を続ける。
「嘘だね、確かにあの時のあたしが足手まといだったのは本当だろうけどね。だからといってわざと盗賊に捕まってあたしだけを逃がすふりなんて回りくどい真似をするぐらいなら、そこいらの貴族や商人にでもあたしを売り払えば良いはずだ」
「人を売るなんて簡単な事じゃないんだよ。この国では人身売買は禁止されているしね」
ネズミはテンの言葉を聞いても全く動揺せず、あくまでも彼女を見捨てたと言い張る。しかし、テンは気づいていた。ネズミは自分から離れた本当の理由、それは自分のためである事を――
――時は遡り、テンは盗賊から捕まった後に警備兵に助けを求めた。しかし、ネズミは当時は悪党として名前を知られ、そんな彼女に育てられたテンも警備兵に顔を知られていた。結局はテンは警備兵に捕まった。
その後、一応は警備兵はテンの伝えた盗賊の隠れ家へと向かうと、既に盗賊とネズミは姿を消していた。残されたテンは警備兵の元で保護され、この後に彼女は聖女騎士団のジャンヌと巡り合う。
盗賊であるネズミの仲間として捉えられたテンだったが、ジャンヌは彼女の存在を知るとテンを引き取る。その後、テンが犯した罪は全てネズミの指示であるため、彼女本人の意志ではないという理由で正式に釈放される。
幼い子供を拾い上げて自分の命令を聞かせる悪党としてネズミは指名手配され、現在もそれは解けていない。だが、一方でテンの仲間として悪事を働いていたテンは幼いながらに悪党に利用されていた不憫な子として同情を集め、罪を免除される結果となった。
「あんたは警備兵と裏で取引して、自分一人が罪を背負ってあたしを表の世界で生かそうとしてたんだろう?王妃様がこっそり調べて教えてくれたよ……けど、あの時のあたしはまだ子供で王妃様が励ますために嘘を吐いたと思ってたけど、まさか本当の話だったとはね」
「ちっ……余計な事を」
「ではネズミ殿は……本当にテン殿の事を愛していたのでござるな?」
「止してくれよ、気持ち悪い……昔の話さ、まだ悪党になり切れていなかった頃の話さ」
ネズミはテンを助けるために芝居を行い、結果的にはテンは王妃ジャンヌと出会えた。ジャンヌはテンをネズミの代わりに立派に育て上げ、今では聖女騎士団の団長を務める程に立派な人物になった。
しかし、その代わりにテンの罪を被ったネズミは指名手配された悪党として生きていき、もう表の世界には戻れなくなった。今は裏の世界で情報屋として生きてきた事を伝える。
「なるほど、いかにもあの婆さんが好みそうな場所だね」
廃墟と化した教会へテンとクノは辿り着くが、まだネズミの姿は見えなかった。テンは周囲を見渡し、人気がいないのを確認すると落ちている瓦礫の上に座り込む。
「ふむっ……妙な気配を感じるでござるな」
「あんたもかい……おい、出てきな」
『チュチュッ……』
廃墟に入った時点で二人とも奇妙な気配を感知しており、テンが声を掛けると瓦礫の隙間から灰鼠が出現する。それも一匹や二匹ではなく、数十匹の灰鼠があちこちから湧き出してきた。
普通の人間がいれば卒倒しそうな光景だが、テンは顔色一つも変えず、クノも無表情を保つ。やがて廃墟の柱の陰から目的の人物が姿を現す。
「……久しぶりだね、テン。こうして会うのは……20年ぶりぐらいかい?」
「さあね、もう覚えてもいないよ」
「つれない娘だね」
ネズミと顔を合わせたテンは彼女が幼少期の頃に自分を育てた相手だと知り、不機嫌そうな表情を浮かべた。その一方でネズミの方は小さな瓦礫に腰かけ、向かい合うように二人は座る。
「ネズミ、一つだけ聞かせな……あんた、どうしてあたしの前から姿を消した?盗賊の奴等から逃げた後、あんたを何度もあたしは探した。けど、見つからなかった……あの後に何があったんだい?」
「別に何もないさ。あたしは盗賊から逃げた後、外国まで足を運んでいたのさ。それで少し前にここへ戻って来た。それだけの話さ」
「嘘を吐くんじゃないよ。あんた、わざとあたしに見つからない様に暮らしてたんだね」
「どういう意味でござる?」
テンはネズミの話を聞いても全く信じず、彼女の真意は別にあると見抜いていた。クノがその理由を問うと、テンはネズミが姿を消した理由を見抜いていた事を告げた。
「盗賊共から逃げた後、ずっとあたしは不思議に思っていたんだ。勘のいいあんたがあんな盗賊なんかに簡単に捕まるはずがない。ましてや自分を囮にしてあたしだけを逃がすなんてね……あんたはあたしを捨てたんだろう?」
「す、捨てた!?」
「……そうさ、あたしは足手まといのあんたを見限った。それだけの話さ」
テンの言葉にネズミは否定せず、その場で彼女はパイプを取り出して口元に運ぶ。そんな彼女に対してクノは動揺するが、テンは至って冷静に話を続ける。
「嘘だね、確かにあの時のあたしが足手まといだったのは本当だろうけどね。だからといってわざと盗賊に捕まってあたしだけを逃がすふりなんて回りくどい真似をするぐらいなら、そこいらの貴族や商人にでもあたしを売り払えば良いはずだ」
「人を売るなんて簡単な事じゃないんだよ。この国では人身売買は禁止されているしね」
ネズミはテンの言葉を聞いても全く動揺せず、あくまでも彼女を見捨てたと言い張る。しかし、テンは気づいていた。ネズミは自分から離れた本当の理由、それは自分のためである事を――
――時は遡り、テンは盗賊から捕まった後に警備兵に助けを求めた。しかし、ネズミは当時は悪党として名前を知られ、そんな彼女に育てられたテンも警備兵に顔を知られていた。結局はテンは警備兵に捕まった。
その後、一応は警備兵はテンの伝えた盗賊の隠れ家へと向かうと、既に盗賊とネズミは姿を消していた。残されたテンは警備兵の元で保護され、この後に彼女は聖女騎士団のジャンヌと巡り合う。
盗賊であるネズミの仲間として捉えられたテンだったが、ジャンヌは彼女の存在を知るとテンを引き取る。その後、テンが犯した罪は全てネズミの指示であるため、彼女本人の意志ではないという理由で正式に釈放される。
幼い子供を拾い上げて自分の命令を聞かせる悪党としてネズミは指名手配され、現在もそれは解けていない。だが、一方でテンの仲間として悪事を働いていたテンは幼いながらに悪党に利用されていた不憫な子として同情を集め、罪を免除される結果となった。
「あんたは警備兵と裏で取引して、自分一人が罪を背負ってあたしを表の世界で生かそうとしてたんだろう?王妃様がこっそり調べて教えてくれたよ……けど、あの時のあたしはまだ子供で王妃様が励ますために嘘を吐いたと思ってたけど、まさか本当の話だったとはね」
「ちっ……余計な事を」
「ではネズミ殿は……本当にテン殿の事を愛していたのでござるな?」
「止してくれよ、気持ち悪い……昔の話さ、まだ悪党になり切れていなかった頃の話さ」
ネズミはテンを助けるために芝居を行い、結果的にはテンは王妃ジャンヌと出会えた。ジャンヌはテンをネズミの代わりに立派に育て上げ、今では聖女騎士団の団長を務める程に立派な人物になった。
しかし、その代わりにテンの罪を被ったネズミは指名手配された悪党として生きていき、もう表の世界には戻れなくなった。今は裏の世界で情報屋として生きてきた事を伝える。
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