貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第546話 仲直りしよう

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「あんたがあたしに怒る気持ちは分かる。けどね、だからといって他の人間まで巻き込んだら駄目だよ。あんたの怒りを引き受けるのはあたしだけで十分だ」
「テン……?」
「……ごめんね、あたしが悪かった。あんたを見捨てて……すまなかった」
「あっ……」


ルナはテンに抱きしめられ、彼女は思い出す。昔、喧嘩した頃はよく彼女からこのように抱きしめられていた。聖女騎士団に所属していた時は二人はよく喧嘩していたが、いつも仲直りする時はこうして抱き合っていた。

久々のテンの抱きしめる感触にルナは無意識に涙を流し、テンの謝罪を受けて彼女は我慢できず、泣き叫ぶ。


「ずっと……ずっと、待ってたんだぞ!!お前が、こうして迎えに来てくれるって……ずっと信じて待ってたのに!!」
「ああ……遅くなってすまなかったね」
「うう、ああっ……うわああああっ!!」


まるで子供のように泣きじゃくるルナに対してテンは逃げずにしっかりと抱きしめ、彼女が満足するまで抱きしめてやる。その様子を見ていた者達もルナの姿を見てもう怒る気にはなれず、しばらくの間は二人だけにさせておくために部屋から出ていく――




――部屋から出た後、ナイ達は他の聖女騎士団の団員に何が起きたのかを話すと、レイラは申し訳なさそうに事情を話す。。


「そんな事が起きていたのか。あの子が迷惑をかけてすまなかった、でもあの子も恨まないでくれ……あの子はずっと孤独で生きてきたんだ」
「孤独?」
「私達もルナに会うのは十数年ぶりだが、まるで姿も言葉使いも何も変わっていなかった。そう、まるで聖女騎士団に居た時のままだった」
「それは……どういう意味ですか?」
「きっと、あの子は聖女騎士団が解散された時から精神が成長してないんだ。まるで心だけが子供のままなんだ」


団員達によるとルナは年齢こそは大人だが、精神はずっと子供のままで何も変わっていないように感じたという。人というのは他の人間と接していく事で精神は自然と成長していくが、ルナの場合はその様子が見られない。

きっと彼女は聖女騎士団が崩壊してから今まで孤独に生きてきたのだ。勿論、生きるために他の人間と接する機会はあっただろう。だが、彼女は心まで許す相手には恵まれず、だからこそ彼女は実年齢の割には子供っぽく、そして情緒不安定な所が見られた。


「ルナは自分の異能のせいで思い悩んでいた時期があってね……それで自分と互角に戦える君と出会って混乱したんだろう。もしかしたら君も自分と同じ立場の人間じゃないかと思ったのかもしれない」
「同じ立場の人間……でも、急に襲い掛かってきたんですけど」
「そこはまあ、ルナは脳筋だから……ほら、小さな子供だって訳が分からない出来事に直面すると、暴れ出してしまう事があるだろう?あれと一緒だよ」
「ええっ……」


ナイはルナに襲われた理由を説明されても戸惑うが、他の団員達はルナの代わり謝罪する。


「いや、本当に君達に迷惑をかけてすまない。これからはあいつの事は私達が責任を以て面倒を見るから……」
「とりあえず、警備兵にも連絡しなければな……」
「エリナの方もまだ怒ってるでしょうね……イレーネにもちゃんと謝らせないと……」
「……皆さんも苦労されてるんですね」
「「「分かる?」」」


昔から聖女騎士団の他の団員達はルナが起こした問題に迷惑を掛けられており、それでも彼女の事を見放さないのは彼女の事が好きだからだった。聖女騎士団の中でもルナは一番幼く、未熟だった。そんな彼女だからこそ他の者も放ってはおけない。

それに昔と何も変わっていない彼女を見ると団員達も安心してしまい、昔に戻れた気がして嬉しかった。こうしてルナの一件は一先ずは解決し、後々にナイ達はルナの謝罪を受けたという――





――ちなみに同時刻ではルナの捜索に向かっていたクノだったが、彼女の手がかりが掴んだ時には既にルナは屋敷に戻っている事を知り、出るに出られない状況だった。


「ううっ……何だか今は入りにくい雰囲気でござる」
「チュチュッ?」
「おろ?お主、誰の使い魔でござるか?」


この時にクノは鼠の使い魔を発見し、後々に彼女の使い魔の主と出会って意気投合する事になるのだが、それはまた別の話である――





――黄金級冒険者にして鍛冶師でもあるハマーンは王都へ帰還した後、冒険者の仕事は一時休業してとある作業に励む。それは火竜の経験石を利用し、煌魔石を作り上げる実験だった。


「親方、竜種の経験石から煌魔石なんて作れるんですか?」
「やってみないと分からんな……」
「でも、経験石を煌魔石に変えるなんて聞いた事がありませんよ?」


経験石は魔石の一種に捉えられているが、基本的には経験値を得るだけの魔石としか認識されていない。しかし、ゴーレムや火竜の一部の魔物の経験石は良質な火属性の魔石としても価値がある。

ハマーンは魔力を失われた火竜の経験石に火属性の魔力を送り込み、煌魔石を作り出せないのかを試す。ちなみにこの作業はマグマゴーレムの経験石では利用できず、マグマゴーレムは経験石が無事ならば再生する能力を持つため、下手に魔力を与えると取り返しのつかない事態に陥る。


「確かに普通の経験石ならば煌魔石に変えるなど不可能じゃろう。だが、これまでに火竜の経験石を手に入れた者が何人おる?その中で経験石を煌魔石に変えようと試みた奴はどれくらいおる?おらんじゃろう、だから試す価値はあるんじゃないか?」
「親方……」
「さあ、お前達はもう休め。ここから先は儂一人でやる」


煌魔石を作り出すには魔術師の協力が本来は必要なのだが、ハマーンはマグマの中に魔力を失った魔石を沈むと、魔力が回復する事を知っている。

それならば火竜の経験石も熱する事で魔力を復活させる事が出来るのではないかと考え、特別な炉の中に経験石を放り込み、常に熱し続ける。この実験が正しいのかどうかは分からないが、試してみる価値はあると思った。



――だが、残念ながらハマーンの実験は失敗し、2日ほど熱し続けても火竜の経験石に代わりはなかった。この事からただ熱するだけでは駄目だと判明し、彼は他の方法を探す。



(マグマの中に放り込むしかないか?いや、それだと回収できるかどうかも分からん、運に頼る真似はしたくないのう……)



ハマーンの実験は終わらず、彼は何としても火竜の経験石を復活させる方法を模索する。
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