貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第532話 巨鬼ダイダラボッチ

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「――遥か昔、この周辺の地域は和国の領地だったでござる」
「えっ……クノさん?」
「おい、急に何を……」
「いいから、最後まで聞いてほしいでござる」


唐突に語り出したクノに討伐隊の一行は戸惑いの表情を浮かべるが、彼女は表情を青ざめながら建造物を前にして身体を震わせ、地中に埋まる巨大生物を見下ろす。


「拙者も兄者も和国から逃れた人間の子孫でござる……先祖によれば和国は緑色の皮膚に覆われた巨大な鬼によって滅ぼされたと言っていたそうでござる。そして、その巨大な鬼の名前は「ダイダラボッチ」と和国の人間は名付けたそうでござる」
「ダイダラボッチ、だと……?」
「聞いた事もありませんわ……」
「この国の人間が名前を知らないのも無理はないでござる。の事をそんな風に読んでいた当時の和国の人間だけでござるから……」
「……話を続けてくれ」


クノの言葉を聞いてもドリスとリンは「ダイダラボッチ」なる存在は知らず、首を傾げる。恐らくはこの国に暮らす人間の中で「ダイダラボッチ」なる魔物を知っている人間はいないと思われるが、アッシュは彼女の話を続けさせた。


「ダイダラボッチは和国を破壊した後、姿を消したそうでござる。その理由は不明でござるが、結局は国は滅びた後、和国の領地は王国の管理下に置かれたそうでござる」
「和国という名前は聞いた事があるが……確か、王国の歴史ではゴブリンキングに滅ぼされたと聞いているが」
「この国ではそういう風に呼ばれているのでござるか?恐らく、そのゴブリンキングがダイダラボッチと同じ存在でござる」
「ちょっと待ってください!!ゴブリンキングなら私達はもう既に倒したではありませんか!?」


ゴブリンキングがダイダラボッチと同じ存在だと言われ、ドリスは口を挟む。確かに先日にナイ達はイチノを襲撃した「巨人」を倒したばかりであり、誰もがあの巨大なゴブリンこそがゴブリンキングだと思い込んでいた。

ナイ達が倒した巨人は他のゴブリンとは比べ物にならない力を持っていたが、現実にその巨人よりも遥かに大きく、強大な力を宿す存在がこの地に眠っている事も確かである。


「確かに先日、イチノに現れた個体もゴブリンキングと呼ばれる存在で間違いはないと思うでござる。しかし、それはあくまでもこの時代のゴブリンキングではなかったのでは?」
「ど、どういう意味ですの?」
「……思い出したぞ、ゴブリンキングは一定の周期で何度も現れたと伝えられている。その度に各国が軍隊を派遣して討伐を果たしたはずだが……」
「……拙者達の時代のダイダラボッチ、この国ではゴブリンキングと呼ばれているそうでござるが……は確認されていないはずでござる」


クノの言葉に全員に衝撃が走り、歴史上で確実に討伐が確認されていないのは和国を滅ぼした「ダイダラボッチ」と呼ばれるゴブリンキングだけだった。

和国を滅ぼした後、ダイダラボッチは姿を消した。それから何百年も姿を現さなかった事から人々の間では存在を忘れられていた。

だが、この世界においては実は強い力を持つ魔物ほど寿命が長い。一番の例は火竜などの竜種であり、彼等の場合は数百年以上の時を生き長らえる事が出来る。しかもゴブリンの場合、上位種に進化する程に寿命が延びると言われている。

通常種のゴブリンは十年も生きれば長生きだが、ホブゴブリンの場合は数十年は生きると言われており、更に上位種のゴブリンキングの場合はもっと長生きできる可能性もある。だが、歴史上のゴブリンキングはその危険性からすぐに討伐されてきたため、具体的な寿命は判明していない。

ゴブリンキングとダイダラボッチが同一の存在の場合、明確な寿命は判明していないので和国を滅ぼしたダイダラボッチが今現在も生きている可能性は否定しきれ以内。そして現実にナイ達は地中に埋まるゴブリンキングと同じ特徴を持つ巨大生物を発見した



――数百年前に和国を滅ぼしたダイダラボッチは未だに死んでおらず、山の中に封じられていた事が判明した。そして地上のゴブリン達はダイダラボッチが眠る場所を突き止めた様に穴を掘り、この場所まで到達した。これがただの偶然のはずがない。




ダイダラボッチの胸元に突き刺さった巨大な剣の事も気にかかるが、クノからすれば彼女の先祖の国を滅ぼした存在を発見した事になり、動揺を隠せない。もしもシノビがいればどんな反応をしたのかも分からず、彼女は呆然と呟く。


「どうすればいいのでござる……これから、どうすればいいのか教えてほしいでござる」
「クノ、さん……」


クノは地中に埋まる圧倒的な大きさを誇る巨大生物に視線を向け、もしも彼女の予測通りにこの生物の正体がダイダラボッチならば彼女は先祖が恨みを抱いた存在を前にした事になる。

しかし、地中に埋まる存在はあまりに強大過ぎてクノは戦う気など全く起きない。仮にここのシノビが居たとしても何も出来ず、佇む事しか出来ないだろう。

討伐隊の全員は隊を指揮するアッシュに視線を向け、彼に判断を仰ぐ。アッシュは真剣な表情を浮かべ、やがて意を決したように告げた。
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