貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
485 / 1,110
ゴブリンキングの脅威

第472話 最後の踏ん張り

しおりを挟む
「さあ、皆……もうひと踏ん張りだ。ここまで来たら死ぬまで抗おうじゃないか」
「王子様……いえ、王女様。死ぬときは一緒ですよ」
「へへっ……こんな美人の王女様と一緒に死ねるのなら本望だな」
「ここまで色々と大変な目に遭ったが……王女様を守って死ぬなんて格好いいじゃないか」
「お前達……」


リノが女性だと知っても冒険者も民兵も士気は下がらず、むしろ真実を伝えてくれた彼女に好感を抱く。シノビとクノは王女に戻ったリノに対し、自分達はどうするべきかを考える。


(兄者、これからどうするのでござる?)
(我々だけならばいつでも逃げ出せる……の気が変わるまで説得を続けるぞ)
(それは本心から言っているのでござるか?兄者も王女様を助けたいと思っているのでは?)
(……黙れ)


クノはシノビが残る理由は彼自身も王女を守りたいと思ったからではないかと指摘するが、シノビはあくまでも自分の目的のためには王女が必要だと言い張り、認めようとしない。

どちらにせよシノビもクノも王女を見捨てる事は出来ず、最後まで彼女に付き合う事にした。そして遠方からゴブリンの軍勢の鳴き声が響き渡り、遂に最後の攻撃を仕掛けてきた。



――グギィイイイッ!!



街のあちこちからホブゴブリンの鳴き声が響き渡り、それを聞いたリノは重い鎧兜を脱いだことで身軽になって生き残った者達に命じた。


「来るぞ、第二防衛陣を発火させろ……これが最後の戦いとなる!!」
「リノ王女、火を点ける役目は拙者達が!!」
「仕方あるまい……王女はここから離れないように」
「お前達……ああ、任せたぞ」


シノビとクノの言葉にリノは驚き、てっきり彼女は二人が自分達を置いて立ち去ると思っていた。だが、二人の言葉を聞いて彼女は任せると、二人は目にも止まらぬ速度で駆け出す。

第二防衛陣は第一防衛陣の際にりようされた建物よりも燃やす数は少なく、屋根の畝を自由に駆け巡る事が出来るシノビとクノならば二人だけで建物を燃やす事は出来た。ゴブリンの軍勢が押し寄せる前に二人は建物に向けて次々と火矢を放ち、燃やしていく。


「グギギッ……!?」
「グギィイッ……!!」


燃え盛る建物のせいでホブゴブリンの軍勢は街の中心部に簡単には近づく事が出来ず、炎が恐れて近付けない。だが、これは一時しのぎにしか過ぎず、炎が消えた時は街の中心部にホブゴブリンの大群が殺到する。


(ここまで、か……)


街中に入り込んだホブゴブリンの軍勢は少なくとも1000は超え、しかも大半がホブゴブリンと進化を果たして武装までしている。連日に人間達と戦い続けた事で個々の戦闘技術も高められ、他の地方に存在するホブゴブリンとは桁違いに戦闘力は高い。

この場に集まったのは世界最強のホブゴブリンの軍隊といっても過言ではなく、シノビはもうここに残った人間は助からないと判断した。リノも説得して連れ戻す事は不可能に近く、彼は夜空を見上げた。


(もうすぐ夜が明ける……日が照らすまでにが尽きるかもしれんな)


シノビは死ぬ覚悟は出来ており、ここでリノを見捨てればもう自分達には後は無い事を理解していた。ならば彼女と共に運命を共にしようかと考えた時、クノが声を上げる。


「兄者、一か八か……あの建物に逃げ込むのはどうでござる?」
「建物、だと……?」
「陽光教会でござる」


クノの言葉にシノビは目を見開き、彼女が指差す方向に視線を向ける。そこにはホブゴブリンの軍勢が唯一近寄れない場所が存在し、陽光教会の建物だけは未だに健在だった。



――陽光教会が作り出した建物は特殊な素材が使用され、何故か魔物は寄り付く事が出来ない。それはホブゴブリンも例外ではないらしく、半年前に魔物の襲撃を受けた時も教会は無事だった。



今更ながらに教会に逃げ込めば助かる可能性を失念していた事にシノビは頭を抑え、諦めるのが少し早過ぎた。教会へ逃げ込めば全員が助かる可能性もあり、どうしてもっと早く伝えなかったのかとクノを責め立てる。


「クノ、何故もっと早く教えなかった!?」
「い、いや……拙者も今あの建物に気づいたので……」
「くっ……すぐに戻るぞ!!」


クノも先ほど陽光教会の建物が視界に入ったのでその存在を思い出し、今の今まで二人とも陽光教会の存在を忘れていた。だからこそシノビはクノを責める事は出来ず、急いで王女の元へ戻ろうとした――





――同時刻、陽光教会の方ではヨウが祈りを捧げ、彼女以外の修道女も怪我人たちさえも祈りを捧げる。陽光教会が進行する陽光神に祈り続け、奇跡が起こるのを待つ。


(陽光神様……どうか、どうか彼等をお救い下さい。そして、あの子も……)


ヨウは先ほどから嫌な予感を感じており、自分の身はどうなってもいいので街の住民が助かる事と、そしてがこの地に戻らぬ事を祈る――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...