貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第464話 リノの苦悩

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(――すまない、こんな騙す様な真似をして……本当にすまない)


住民達が力を合わせて自分の指示通りに動く姿を見てリノは内心、涙を流したい気分だった。彼が考えた作戦は確かに大勢の住民を生かせる可能性があるが、同時に大勢の人間を確実に死なせてしまう策でもあった。

街中にゴブリンの軍勢を引き寄せるという事は、誰かが軍勢を食い止める必要があり、当然だがその役目は兵士が行う。兵士達はゴブリンの軍勢を足止めしている間に住民を下水道に逃がす必要があり、当然だが彼等だけは逃げる事は許されない。

もしも戦闘の際中に兵士が下水道に逃げ出したら、ゴブリンの軍勢にも下水道の存在が知られ、その場合は下水道に先に逃げた住民の命が危険に晒される。下水道までゴブリンの軍勢が追いかけてきた場合、戦う力を持たない街の住民は一方的に蹂躙されるだろう。

それを避けるためには地上で誰かがゴブリンの軍勢を注意を引く必要があり、その役目を担えるのは戦う力を持つ者だけである。つまり、地上の兵士がゴブリンの軍勢の囮役を担い、その間に街の住民だけは避難させる。


(他に方法はない……皆が生き残る方法などない)


リノとしてもこの作戦を思いついた時は実行するのに非常に悩んだ。しかし、もっと早く行動に移していれば被害を今よりも減らせたかもしれない。ゴブリンの軍勢が街から退去している間に街に防衛網を形成していれば、確実に被害を最小限に抑える事ができた。


(他に本当に方法なかったのか?今からでも作戦を立てなおすか?いや、そんな暇はもうない……やるしかないんだ!!)


自分を言い聞かせる様にリノは頭を抑え、その様子を見ていた民兵の一人が彼の元に近寄る。民兵は思い悩む表情を浮かべるリノに対し、はっきりと告げた。


「王子様、あんたは間違ってない」
「えっ……」
「俺には家族がいる、その家族を守れるのなら俺の命なんてくれてやる……あんたのお陰で家族が助かるんだ。なら、俺はあんたのする事が間違いだとは思わないよ」


リノに話しかけた民兵は昨日の時点では外に出る事を訴えていた兵士だった。少し前まではリノに対して反感を抱いていたにも関わらず、今の兵士は家族を守るために命を捨てる覚悟を決めていた。


「この街が今日まで無事だったのはあんたのお陰だ……だから、これだけは言わせてくれ。ありがとう……王子様、あんたは良い人だ」
「あ、うっ……」
「俺からも言わせてくれ、最後に俺の愛する人を守れる機会をくれてありがとう」
「王子様も危なくなったら逃げてくれ……後の事は俺達に任せてくれよ」


続々と民兵がリノの元に集まり、自分達が死ぬ前に礼を告げる。そんな彼等に対してリノは涙を浮かべ、申し訳なさそうに告げる。


「すまない、本当にすまない……」
「何を謝ってんだよ。悪いのは王子様じゃないべ」
「そうだそうだ、あんたはよくやってくれたよ……俺達の事を見捨てないでくれてありがとよ」
「本当に、すまない……」


今までは騎士や正規の兵士と比べれば民兵はリノと距離を置いていたが、この作戦を告げられた時に彼女が街の住民の事をどれほど大切に思っているのかを思い知り、彼等はリノに心を許した。

これから死ぬかもしれないというのに民兵はリノの事を誰も責めず、むしろ愛する人が生き残る機会を与えてくれた事に感謝した。だが、その様子を遠目で見つめる人物がいた。


「…………」


屋根の上からリノの様子をシノビは長め、彼は意味深な表情を浮かべると黙ってその場を立ち去った――





――それから時は流れ、夕方を迎えてもゴブリンの軍勢は襲撃を仕掛けず、その間に着々と街の中では防衛網が築かれていた。街道には大量の家具が置かれ、更には建物を跳び越えてやってくる魔物の対策のために罠も設置する。

ホブゴブリンなどの魔物は身体能力が高いため、屋根を飛び移る事で封鎖した街道を無視して侵入する可能性を考慮し、街の中心部に存在する建物は事前に燃やす準備を行う。

今回の作戦はあくまでも住民全員が避難するまでの時間稼ぎであり、建物を燃やす事でゴブリンの軍勢の侵攻を食い止める。当然だが建物に火を放てば危険は増すが、炎を前に擦ればいかにゴブリンの軍勢だろうと怯むのは間違いない。


「大変な事になって来たな……イーシャンよ」
「ああ、お前もそろそろ逃げる準備をしたらどうだ?」


ナイの恩師であるドルトンは現在は屋敷のベッドで横たわり、彼は先日に街中に入り込んできたホブゴブリンに襲われ、負傷してしまった。現在はイーシャンの治療を受けており、左足が骨折して碌に動けない状態だった。

回復薬や薬草の予備がないため治療も順調とは言い難く、既にドルトンは死ぬ覚悟は決まっていた。リノの作戦では一般人を先に逃がす予定だが、足を負傷したドルトンでは逃げる時に足手まといになってしまう。
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