貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
472 / 1,110
ゴブリンキングの脅威

第459話 最悪の事態

しおりを挟む
――イチノを襲撃したゴブリンの軍勢、飛行船がではまだイチノは健在だった。それどころかここ最近の間は襲撃すらなく、街を守る銀狼騎士団も兵士も休む事ができた。


「奴等……いったい何を考えている?」
「分かりません……ですが、今日も恐らくは攻めてくる様子はありませんね」


第二王子であるリノは城壁から外の様子を伺い、街を包囲していたはずのホブゴブリンの軍勢は姿を消した。少し前まではこちらの様子を伺うホブゴブリンが何体か残っていたが、それさえも消えてしまう。

ホブゴブリンの軍勢の包囲が解除された事で街の住民達は歓喜したが、リノはホブゴブリンの軍勢の行動が信じられず、油断せずに警戒を行う。しかし、既に包囲が解除されてからかなりの時間が経過したが、ホブゴブリンは姿を見せない。


「あ、あの……王子様、あいつらもういなくなったんじゃないですか?」
「きっと、ここは落ちないと思って他の街に向かったんですよ!!」
「もしかしたら他所の街の冒険者か傭兵団がやってきて戦ったとか……」
「…………」


民兵の間ではゴブリンの軍勢は逃げ出し、もう街の安全は確保されたと思い込む者も多く、すぐに彼等は街の封鎖を解除して他の街に救援を求める様に促す。


「王子様、今の内です!!奴等が戻ってこない間に逃げましょう!!」
「この街はボロボロだ……次に襲われたら守り切れません」
「いや、駄目だ……罠の可能性もある。もうしばらく、様子を見るんだ」
「あんた、昨日もそう言っていたけどいつまでここにいるんだ!?俺たちはもう戦い何て懲り懲りだぞ!!」
「貴様等!!誰に向かってそんな口を!!」


民兵の言葉にリノは同意できず、もうしばらくだけ残るように指示を出す。しかし、そんな彼に対して民兵も我慢の限界だった。

彼等がここに残ったのは街を守るためではあるが、その街も既に被害が多く、もう街として機能するのも難しい状態だった。東西南北の城壁は度重なる襲撃で損害が酷く、しかも街の中にまで何度も侵入を許した事で住民も被害を受けている。

このままでは街を守るどころではなく、ゴブリンの軍勢が消えた今の内に他の街に避難する事を民兵は訴えた。しかし、リノはどうしても不安を感じてならない。


「あと一日だけ待ってくれ……もしも明日になってもゴブリンの軍勢が現れなかった場合、お前達の言う通りにしよう」
「よし、約束だぞ!!」
「本を正せばあんた達のせいでこうなったんだからな!!あんた達が不用意に奴等の住処に踏み入らなければこんな事にはならなかったのに……」
「ふざけるな!!我々はお前達を守るために……」
「いや、いいんだ」


民兵の中にはゴブリンが拠点としていた場所に銀狼騎士団が攻め入り、しかもこの街に逃げ帰ったせいでゴブリンの大群に襲撃されたと思い込む輩も多い。

実際の所はリノが率いる銀狼騎士団がゴブリンの軍勢が潜む拠点に奇襲を仕掛けたのは街を守るためであり、既にゴブリンの軍勢は街に襲撃を仕掛ける準備を整えていた。だからこそリノは無謀でありながらもゴブリンの軍勢に奇襲を仕掛ける。

しかし、ゴブリンの軍勢が住処にしていた山は外敵への対策も講じられ、逆にリノ達は罠を嵌められて最初の襲撃の時に戦力が半減してしまう。どうにか街に引き返す事はできたが、その後にゴブリンの軍勢が強襲してきた。民兵からすればリノが街に逃げ帰ったせいでゴブリンの軍勢が街に襲ってきたようにしか思えない。


「すまなかった、本当にお前達には悪い事をした」
「ふ、ふん……なら、明日だ。明日までは待ってやるからな!!」
「約束、忘れるなよ!?」
「貴様等……」
「私なら平気だ……行かせてやれ」


あまりの民兵の態度に銀狼騎士団の騎士は激高するが、そんな彼等をリノは抑える。もしも逆の立場だったらリノだろうと怒るはずであり、理屈はどうであれ街の住民からしたらリノは厄介者だろう。

それでもゴブリンの軍勢が襲撃を仕掛けて来た時はリノに頼るしかなく、実際に今日まで生き延びる事が出来たのはリノの存在が大きい。王子である彼がここにいれば必ず救援が派遣され、王国に忠誠を尽くす兵士は命懸けで戦う。

しかし、度重なる襲撃で騎士と兵士が減った事で民兵に頼るしかなく、彼等は王国に真の忠誠を誓っているわけでもなく、戦う事にも慣れていない。それなのに連日に無理やり戦わされ、さらにゴブリンの軍勢が消えたのに街を離れる事を許さないリノに我慢の限界を迎えようとしていた――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...