貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
469 / 1,110
ゴブリンキングの脅威

第456話 船の見張り

しおりを挟む
――その日の夜、ナイは船の見張りのためにヒナとモモと行動を共にしていた。ガオウは試合後に部屋に引きこもってしまい、ハマーンは船の整備を終えて疲れたのか眠ってしまった。

本来ならば船に乗っている間は団体行動を義務付けられているのだが、ガオウもハマーンも大分疲れた様子であり、ナイは船の見張りを行う際は他の人間と組んで見張りを行う事になった。そして雑用として船の仕事を手伝っていたヒナとモモも参加する。


「わあっ!!凄い綺麗な星空だよ!!」
「本当に綺麗ね……でも、少しはしゃぎすぎよ」
「ウォンッ」


甲板にてモモはビャクの背中の上で星空を眺め、王都で見える星空よりも綺麗で星の数も多かった。ナイ達は甲板の上から見張りを行い、不審者が忍び込もうとした利、あるいは船から去ろうとする人間がいないのかを見張る。

内通者の存在はアッシュは部下にも伏せており、ナイ達にも伝わっていない。しかし、彼は警戒態勢を高めて船に乗り込もうとする存在や、あるいは船から出て行こうとする存在を見つけた場合はすぐに知らせる様に厳命した。


(昨日よりも見張りが厳しくなっているな……きっと、何かあったんだろうな)


ナイ達にはまだ暗殺者達が死んだ事を伏せられており、暗殺者が死んだ事を知っているのは最初に発見した兵士とガオウとハマーンだけが目撃している。その後はアッシュも報告を受け、彼はドリスとリンとマホと彼女の弟子たちにだけ伝えた。

今回の一件はあくまでも王国関係者で重要な立場の人間にしか知らされておらず、アッシュは実の娘であるリーナにも隠していた。だからこそナイ達は暗殺者を始末し、空賊と繋がっている内通者の存在は知らされていないが、モモ以外の人間は隠し事をされている事に勘付いていた。


(今日は皆、表情が固かったな……きっと、何か気付いているんだ。でも、それを僕達に伝える事ができないんだ)


今日の間に出会った人物の中でナイは何人かが表情が固い事を見抜き、まるで何かを警戒している様子だった。ガオウもハマーンも表面上はナイに普通に接してきたが、何処となくだがナイは二人の態度がおかしい事に気付く。

この二人だけではなく、試合を見学していたリンの態度もおかしかった。リンはナイの事を内心では気に入っているため、普段ならばナイを見かけたら声を掛けてくる事が多かった。しかし、今回の彼女は試合を終えるとすぐに船に退散してしまい、ナイは話す暇もなかった。


(ヒイロやミイナはいつも通りだったけど、エルマさんはちょっと様子がおかしかったな。それにマホさんも見かけないし……)


ナイは船に乗った人間の中でも態度がおかしい者とそうでない者がいる事に気付き、いったい彼等が何を隠しているのか気になる。しかし、問い質そうにもそれが重大な秘密だとしたら聞きにくい。

仲間同士で隠し事などナイとしては心が落ち着かないが、きっとアッシュたちも何か考えがあって黙っているのだと信じ、見張りに集中する。


(明日にはイチノへ辿り着けるんだ……皆、待っててね)


ナイはイチノにいる大切な人たちの事を思い出し、必ず自分が助けに行く事を心の中で誓う。アルトに言われた通り、既にイチノが壊滅してドルトン達も死んでいる可能性もある。しかし、それでも少しでも可能性が残っているのならばナイは希望を捨てない。


(きっと、皆は大丈夫のはずだ。ドルトンさん達が死ぬはずがない……必ず皆を助けるぞ)


祈りを込める様にナイは夜空を見上げ、確かにモモの言う通りに美しい星空が広がっていた。こんな状況でもなければ美しい星空を眺めなければ心を落ち着かせる事が出来るのだが、ここでビャクが何かに気付いた様に鼻を鳴らす。


「スンスンッ……ウォンッ!?」
「わっ!?ビャク君、どうしたの?」
「クゥ~ンッ……」
「渋い表情を浮かべているわね……何か臭うのかしら?」
「ビャク、どうしたの?」


ビャクの反応に気付いたナイ達は不思議に思いながら周囲を見渡すと、ここで船の船首の方が明るい事に気付き、異臭が漂ってきた。ビャク以外の者も顔をしかめ、鼻を摘まむ。

船首で何者かが灯りを付けている事に気付いたナイ達は慌てて移動すると、そこには見覚えのある人物が存在した。それは薬品器具を床の上に並べ、歪な形をした仮面を装着したイリアの姿が存在した。


「ちょっ……イリアさん!?何をしているの、こんな場所で?」
『ん?ああ、すいませんね。ちょっと明日からは私も戦う事になりそうなので武器を作っていたんですよ』
「武器って……」
「えっ……ちょっと待って、それって私達が倉庫で見つけた物じゃないの!?」
「あ、本当だ!!」
「ウォンッ!?」


イリアの傍には暗殺者が持ち込んだ小包が存在し、その中身は火属性の魔石を粉状にまで磨り潰した代物が入っていた。イリアはこれを利用し、自分だけの武器を作ろうとしている事を説明する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...