貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第407話 ガロの苦悩

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――火竜とゴーレムキングの討伐の一件は王都中に広まり、その噂は冒険者として活動していたガロの耳にも届いていた。彼は冒険者になった後、色々とあって王都を離れていたが最近になって戻ってきた。

冒険者登録した後のガロは手っ取り早く階級を上げるため、現在の自分が受けられる範囲の依頼を行う。依頼を達成すれば評価が上がり、上の階級に昇格しやすくなる。そのため、ガロは王都の商人の護衛を引き受けて同行する。

しかし、彼が護衛を行った商人の依頼内容は王都から別の街に行くまでの護衛ではなく、王都に戻る際まで護衛を務めるという内容だった。つまり、王都から別の街に往復するまでの間はガロは商人から離れられなかった。

結果から言えばガロはこの依頼を達成した。但し、予定よりも大分遅れての帰還であり、その理由は商人が王都に火竜が迫っているという噂を聞きつけて恐れて戻ろうとしなかったからである。ガロとしてはそんな噂など信じなかったが、依頼人の意志ならば逆らえない。

普段は横暴な態度のガロだが、ギルドマスターから聞かされた話もあって黄金級冒険者に対抗心を抱いた彼はどうしても手柄が必要だった。そのためには最初の依頼を失敗するわけにはいかず、我慢して依頼人に従う。



――しかし、火竜の討伐が果たされたと国王が大々的に発表した事で状況は一変し、商人は王都へと引き返す。この時に初めてガロは本当に火竜が現れた事、しかもゴーレムキングなる存在が復活したという話を知った。



彼からすれば火竜もゴーレムキングもまさか本当に出現した事に驚くが、問題なのは討伐隊の中にナイが含まれ、しかも聞くところによると彼も活躍したという話を聞く。


「おい、聞いたか。例の魔牛殺しの噂!!」
「聞いた聞いた、討伐隊に一緒に参加してたんだろう。一人だけ騎士の格好をしてなかったからな、すぐに分かったよ」
「凄いよな、あんな子供が討伐隊に選出されるなんて……騎士以外に同行した他の奴等は黄金級冒険者なんだろ?」
「じゃあ、その子は最低でも黄金級冒険者と同程度の実力者ってわけか?」
「そりゃそうだろう、ミノタウロスを殺すなんて白銀級冒険者でも簡単にできる事じゃねえよ。俺の見立てではあの子はきっと大物になるね」
「っ……!!」


とある酒場にてガロは街の人々の噂を聞いて歯を食いしばる。まさか討伐隊にナイが参加しているとは思わず、しかも人々は彼の事を評価していた。

ガロはナイの事を気に入らず、少し前までは見下していた。それが今では王都の人々の注目の的となり、しかも確かな実力を身に着けている。ミノタウロスなど今のガロでも一人で倒せるかは分からず、それだけに彼に差が付けられた気分に陥る。


「ちっ!!」
「あ、お客さん!!お金は!?」
「机の上に置いてるよ!」


酒場に居ても落ち着けずにガロは頼んだ食事を食べずに出ていくと、そんな彼を酒場の中に居た人々は戸惑いの表情を浮かべた――




――酒場を出た後のガロは何もやる気が起きず、人気のない場所に赴くと苛立ちを隠せずに地面に拳を叩きつける。ナイの噂を聞くたびに彼の顔が思い浮かび、いつから こんなに自分と差が出来たのかと考え込んでしまう。


「何が魔牛殺しだ!!あいつの何処が俺より優れてるんだ!!」


今まで同世代の中で自分よりも優れた存在と出会った事などガロにはないが、ナイは同世代どころか年下であり、しかも自分でも勝てるかどうか分からない相手を倒してきたと聞いて落ち着いていられない。

ナイよりも自分が劣っているという事実にガロは我慢ならず、彼は悔しくて堪らない。だが、今更マホの元には戻れなかった。マホが戻っているという話も聞いたが、彼はどの面を下げてマホに顔を合わせればいいのか分からない。


「やってやる……見てろよ、必ず俺は……!!」


ガロはもう誰の力も借りず、自分だけの力でのし上がる事を誓う。まずは冒険者として実績を重ね、そして黄金級冒険者を目指す。ギルドマスターのギガンによれば最短で黄金級冒険者なった人間はリーナという名で彼女は「二年」で昇格を果たした。しかし、ガロにはそんな時間はなかった。


「……必ずのし上がってやる」


自分とナイの差を認めたガロは底辺から成り上がり、必ずや彼を越える存在になる事を誓う。ガロのこの決意が後に彼の人生を大きく変える事になるのだが、その事に気付かぬままガロはマホの元を離れ、冒険者として活動する事を決めた――
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