貧弱の英雄

カタナヅキ

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グマグ火山決戦編

第401話 ゴブリンキング

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「私が出発する前は既にイチノの街は攻撃を受けていました……それが一か月前の出来事です、私も急いで馬を何度も乗り換えてここまで駆けつけましたが、時間が掛かり過ぎました……」
「むうっ……という事は既に二か月も前からイチノという街では籠城戦が行われているという事か」
「二か月だと……くそ、どうして今まで連絡がなかった!!」
「仕方ありませんわ、火竜の件で王都も色々とありましたし……それにゴブリンが軍団を率いて街を攻め寄せたなんて内容の連絡を簡単に信じる事などできませんわ」


イチノが既に二か月も前から攻撃を受けている事を国王達は初めて知り、急いで援軍を派遣させる必要があった。しかし、イチノは辺境の地に存在する街のため、移動するにしても時間が掛かり過ぎる。

馬で移動したとしても二か月は掛かり、仮に馬よりも早い魔獣を用意して移動したとしてもそれなりの時間が掛かってしまう。しかも二か月も前からイチノが攻撃を受けているとしたら最悪の場合は既に陥落している可能性もあった。


「リノを見捨てるわけにはいかん!!すぐに将軍達を呼び出せ!!」
「はっ!!」
「陛下、我々も行かせてください!!リノ王子の危機とあれば我等が行かなければ誰が行くのです!!」
「うむ、良かろう。しかし、ゴブリンの軍団とは……これはゴブリンキングが現れたと考えるしかあるまい」


ゴブリンキングはゴブリンの最上位種にして普通のゴブリンとは比べ物にならない力を持つ。しかも他のゴブリンを従えさせる力を持ち、ある意味では竜種にも匹敵する危険で厄介な存在だった。

火竜の件が解決した途端にゴブリンキングという新たな脅威の出現に国王は頭を悩ませ、自分の子供であるリノが無事な事を祈る――





――同時刻、イチノでは酷い有様だった。連日の様にゴブリンの軍団が攻撃を仕掛け、防壁を守護する兵士達も数が足りず、街の住民から戦力になりそうな人材を兵士にして戦う程である。

兵士の指揮を執るのはリノであり、彼は自分の騎士団を四つに別れさせて四方の城壁の守護を任せ、更に自分自身も指示だけではなく共に戦う。


「王子様、ここにおったんですか。こんな所で寝ていると風邪ひきますぞ」
「うっ……ああ、すまない」


リノは誰かに揺り起こされて目を覚ますと、自分がいつの間にか城壁で寝ていた事に気付き、彼を起こしたのは民兵だった。元々はこの街で鍛冶師をしていた小髭族の老人であり、彼はリノに笑いかける。


「王子様も大分お疲れのようですな……しかし、ちゃんとご飯を食べないと駄目ですぞ」
「あ、ああ……そうだな」


馴れ馴れしく話しかけてくる老人に対してリノは苦笑いを浮かべ、少し前のリノならば身分も弁えずに話しかけてきた事を叱咤していたかもしれない。

しかし、二か月近くも一緒に戦っていると自然と仲間意識が芽生え、既にリノはこの街を守るために戦う民兵の事を自分の騎士団の団員と同じぐらいに信頼していた。リノは老人が差し出したおにぎりを受け取り、口に含む。


「中々に美味いな……お前が作ったのか?」
「ははは、これはうちの嫁が作った物で……さっき、わざわざ持ってきてくれたんですよ。どうですか、うちの嫁のおにぎりは最高でしょう」
「ああ、美味しいな」
「儂はこれまでの色々な料理人が作った料理を味わってきたが、やっぱり俺のために作った嫁の料理より美味しい物はないですな」
「そ、そういう物なのか?」
「王子様も誰かと結婚されたら嫁さんの料理を作って貰えば分かりますよ。きっと……」
「嫁?私が……あ、ああ、そうだな」


何故か老人の言葉にリノは歯切りが悪く、自分が結婚するなど考えもしなかった。おにぎりを食すとリノは身体を起き上げ、改めて城壁の外の様子を伺う。


「ゴブリン共が……また、数を増やしたか」
「奴等、どれだけ集まるんでしょうかね……」


城壁の外ではゴブリンの軍団が待ち構え、一定の距離を保った状態で近付く様子がない。敵の数は数百は存在し、しかもその殆どが上位種のホブゴブリンだった。

一か月前までは通常種のゴブリンの姿も見られたが、現時点ではもう通常種のゴブリンは殆ど見かけられず、ほぼ全てのゴブリンがホブゴブリンと進化を果たす。ただのゴブリンならばともかく、ホブゴブリンは一般人では到底太刀打ちできない力を持つ。


(もうここまでかもしれない……父上、申し訳ございません)


数百のホブゴブリンを前にしてリノは既に心が折れかかっており、あと一週間も立たずにこのイチノは陥落する事は間違いなかった。仮に王都に連絡が届いていたとしても王都の援軍は間に合うはずがない。それでもリノは最後まで抗う事を決め、決意を新たに武器を握りしめる――
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