貧弱の英雄

カタナヅキ

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グマグ火山決戦編

第394話 魔石型爆弾

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「ぐふぅっ……がはぁっ!?」
「マジク!?大丈夫か……お前、その血は!?」
「は、ははっ……どうやら儂の命もここまでのようですな」


マジクは口元を抑えると、彼の手が真っ赤に染まり、どうやら先ほどの魔法で肉体に大きな負担を与えたらしい。バッシュを自分を救うために彼に無茶させた事を理解すると、申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「すまない、俺のせいで……」
「王子……貴方はいずれ王となられる御方、ならば儂も家臣として貴方のために命を捧げましょう」
「マジク……!!」
「今はこの場を切り抜ける事だけを考えてくだされ……仮に他の者が犠牲になったとしても、貴方だけは生き延びなければ……!!」


バッシュはマジクの言葉を聞いてゴーレムキングを見上げると、王国騎士や魔術兵を相手にゴーレムキングは攻撃を繰り出し、次々と犠牲者が生まれる。ゴーレムキングに挑んだ自分の判断は過ちだったのかとバッシュは思ったが、仮にあの時に逃げていたとしても状況は変わらないだろう。

本来のゴーレムは鈍重だが、ゴーレムキングの場合は身体が大きいだけではなく、攻撃動作も素早い。もしも逃げていたとしても討伐隊は追いつかれ、一方的に蹂躙されていただろう。

しかし、いくら立ち向かうとしても対抗手段がなければどうしようもなく、誰もが諦めかけていた。だが、たっただけゴーレムキングの真正面に向けて挑む者がいた。



「――うおおおおっ!!」



その声を聞いた瞬間、誰もが耳を疑った。声の主は火竜との戦闘で倒れたはずの人物であり、全員が振り返るとそこには青色の魔石を握りしめたナイの姿が存在した。


「ナイ!?」
「ナイさん!?」
「まさか!?」


ナイを見たテン達は驚きの声を上げるが、それよりも彼が持っている物を見て更に驚く。ナイが所有しているのは出発前にアルトから渡された「対大型ゴーレム用」の魔道具だった。



――火竜との戦闘では使う暇もなかったが、ナイは出発の前にアルトから火山に出現した大型ゴーレムの対策として彼の作り出した魔道具を渡されている。それはナイが経験石を破壊する時に利用する「壊裂」と呼ばれる魔道具と、魔石を組み合わせた様な不思議な形をしていた。


『いいかい、ナイ君。この魔道具は風属性の魔石を動力にしているんだ。だから、この魔石の部分を回転させれば自動的に魔道具が動いて内部に固定している水属性の魔石を破壊する』
『へえ……フックショットにも使われているのと同じなんだ』
『そういう事だ。但し、こちらの場合は発動すると途中で止める事はできない。いや、止める前に内蔵されている魔石の方が砕けてしまう。魔石が砕ければどうなるのか君も知っているだろう』
『うん……内部に蓄積されている魔力が一気に解放されて大変な事になるんだよね?』
『そういう事だ。火属性の魔石なら爆発、風属性の魔石ならば暴風、そして水属性の場合は……ともかく、扱う時は気を付けてくれ』


アルトからの言葉を思い出したナイは壊列と水属性の魔石を組み合わせた魔道具、正式名称はまだないがアルトは「魔石型爆弾」と仮名を付けている。

魔石型爆弾を手にしたナイは剛力を発動させ、大型ゴーレムに目掛けて放つ。投げ込む際に魔道具に内蔵された風属性の魔石も作動させると、水属性の魔石を固定していた万力の部分が自動的に動き出す。


「凍れぇっ!!」
『オァアアアッ……!?』


空中に放り込まれた魔石型爆弾は万力に固定された水属性の魔石が罅割れ、やがて亀裂から青色の光が毀れると、魔石の内側から水属性の魔力が解放された。

水属性の魔石が破壊された場合、大量の水が生み出される。しかし、この水はただの水ではなく、触れた物を一瞬にして凍結化させる液状化した魔力その物であり、大型ゴーレムの胴体の部分が凍り付く。


『ゴガァッ……!?』
「や、やった!?」
「凍り付いた!!今なら動けない!!」
「今だ、攻撃を仕掛けろ!!」


胴体を中心に徐々にゴーレムキングの身体が凍り付いていき、完全に凍ってしまえば勝機はある。落ちかけていた士気が再び盛り上がるが、即座にゴーレムキングは胸元の宝石を光り輝かせる。


「ゴァアアアッ……!!」
「なっ!?こ、こいつまた……」
「氷を溶かすつもりだよ!!僕の時と同じだ!!」
「リーナ!?」


何時の間にかリーナも駆け寄り、彼女は回復薬を飲んだ事で体力だけは回復したらしく、蒼月を構えて皆の元へ急ぐ。昨夜に彼女はゴーレムキングに対して蒼月の能力を発動して戦ったが、氷像と化そうとゴーレムキングは胸元の宝石から火属性の魔力を生み出して氷を溶かす。

通常のゴーレムならば凍り漬けにした時点で倒せるだろうが、ゴーレムキングの場合は胸元に嵌め込まれた宝石のように輝く経験石から今まで蓄積してきた魔力を利用し、身体を発熱させる。そのため、いくら表面を凍り付かせても内部から熱を発して溶かしてしまうのだ。
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