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旋斧の秘密
第351話 王妃と聖女騎士団
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「アルトよ、二つの魔剣を操る事が出来る剣士など儂は一人しか知らん。そしてその者はこの世にはいない……」
「……王妃様の事ですね」
国王の言葉にアルトはすぐにこの国の第一王妃にしてかつては世界最強の騎士団と謳われた「聖女騎士団《ワルキューレ》」の団長を務めた女性を思い出す。
――第一王子のバッシュと第二王子のリノの実母であり、国王が最初に愛した女性でもある。彼女は結婚した後に王族となった後、聖女騎士団を結成した。この騎士団にはテンも所属しており、結成の時は彼女はまだ団員だった。
彼女は王妃という立場でありながら自由奔放で破天荒な性格をしており、騎士団を引き連れて戦地を渡り歩き、数々の功績を上げる。当時は国王が王子の頃に管理していた猛虎騎士団よりも知名度が広まり、いつの間にか王国最強の騎士団だと認識される。
実際に団長を務めた王妃の実力は確かであり、驚くべき事に彼女は火属性と水属性の相反する二つの属性の魔剣を扱えた。普通ならば相性が悪い二つの属性の魔力を扱える人間は滅多にいないのだが、彼女は生まれが特別のせいか火属性と水属性の魔力を扱えた。
何時しか王妃は「剣姫」と呼ばれるようになり、本人はこの異名を始めて聞いた時は大いに笑った。自分は王妃なのに何故「姫」という名前が付けられるのかと異名で呼ばれる度に笑いがこみ上げる。
子供が生まれた時は性格も落ち着いて戦地に自分が赴く事はなくなったが、ある時に彼女は病にかかり、唐突に死亡してしまう。その時の国王は深く嘆き悲しみ、彼女の騎士団は解体され、副団長に昇格していたテンも辞めてしまう。
最初はテンを団長にして聖女騎士団をただの騎士団として残そうとしたそうだが、テン本人はこれを拒否し、彼女は国王に告げた。
『聖女騎士団の団長は後にも先にも王妃様だけです……あたしでは荷が重すぎる』
副団長であるテンが団長に昇格する事を辞退した事で他の者達も脱退し、他の騎士団に加入するか、あるいは騎士を辞めてしまう。テンは未だに王妃が死んだ事を引きずっており、彼女が王国騎士を辞したのは王妃が原因だった。
「――我が妻、ジャンヌは誰よりも強かった。この儂よりもな……そんな妻でも二つの魔剣を扱う事までにどれだけの鍛錬と時間を費やしたかはお主も知らんだろう。あのナイという少年にジャンヌと同程度の力量があると思うのか?」
国王は目つきを鋭くさせ、アルトを睨みつける。その国王の態度と言葉にアルトは冷や汗を流すが、それでも彼は言い返した。
「ナイ君が亡くなった王妃様と同等の力量があるかどうかと言われれば……今の彼は王妃様には及ばないでしょう」
「ならば……」
「ですが15才の頃の王妃様ならば話は別です」
「な、何?」
アルトの言葉に国王は意表を突かれ、その一方でアルトは鋭い指摘で言い返す。
「王妃様が偉大な御方である事は僕も承知しています。しかし、王妃様が名を上げられたのはあくまでも成人した後……成人を迎える前の王妃様が特に目立った功績を上げた話は聞いた事がありません」
「……何が言いたい?」
「王妃様の事をよくご存じの父上にお尋ねします。王妃様は10才そこらでホブゴブリンを倒せますか?14才で赤毛熊を殺す事が出来ますか?15才でガーゴイル亜種やミノタウロスを倒せる程の実力をお持ちだと思いますか?」
「そ、それは……」
亡くなった王妃の事をよく知っている国王はアルトの言葉に言い返せず、確かに子供の頃の王妃がナイと同じ真似が出来るのかと問われれば、答えは否だった。昔から王妃は剣の才能に恵まれていたが、ナイと同じ年齢ナイが戦ってきた魔物を倒せるとは思えない。
確かに今のナイは聖女騎士団を率いていた王妃には及ばないかもしれない。だが、ナイと同じ年齢だったときの王妃が彼と同じことをできるとも思えない。二人の違いをアルトは指摘した。
「王妃様とナイ君との違い、それはナイ君が未だに成長の余地がある事です。まだまだ彼はこれから強くなれる、そして彼が全盛期を迎えた時、王妃様を越える力を僕は身に着けていると確信しています」
「……そこまで、言い切れるのか?」
「現にナイ君は結果を残しています。訓練とはいえ、聖女騎士団の副団長であるテンを追い詰め、銀狼騎士団のリン副団長を相手にして一歩も引かずに戦い抜き、手傷を負わせています。彼はまだ15才、まだ成人にも達していないのにこの強さ……何よりも彼は魔剣に認められている」
「…………」
国王はアルトの言葉を聞いて俯き、やがて彼は意を決したようにアルトに告げた。
「お主がそこまで言うのであれば……儂にもあの少年の力を見せて貰おうか」
「ええ、構いません。明日、また闘技場で彼は戦います。父上も拝見しますか?」
「うむ……よかろう」
アルトは国王の言葉を聞いて笑みを浮かべ、明日の闘技場でナイの戦いぶりを見せれば必ず父親が認めてくれると確信していた。しかし、国王の方は考え込んだ素振りを行い、アルトに提案した。
「アルトよ、明日のナイの対戦相手だが――」
――この翌日、ナイは闘技場で最大の強敵と相対する事になる事を知らない。
「……王妃様の事ですね」
国王の言葉にアルトはすぐにこの国の第一王妃にしてかつては世界最強の騎士団と謳われた「聖女騎士団《ワルキューレ》」の団長を務めた女性を思い出す。
――第一王子のバッシュと第二王子のリノの実母であり、国王が最初に愛した女性でもある。彼女は結婚した後に王族となった後、聖女騎士団を結成した。この騎士団にはテンも所属しており、結成の時は彼女はまだ団員だった。
彼女は王妃という立場でありながら自由奔放で破天荒な性格をしており、騎士団を引き連れて戦地を渡り歩き、数々の功績を上げる。当時は国王が王子の頃に管理していた猛虎騎士団よりも知名度が広まり、いつの間にか王国最強の騎士団だと認識される。
実際に団長を務めた王妃の実力は確かであり、驚くべき事に彼女は火属性と水属性の相反する二つの属性の魔剣を扱えた。普通ならば相性が悪い二つの属性の魔力を扱える人間は滅多にいないのだが、彼女は生まれが特別のせいか火属性と水属性の魔力を扱えた。
何時しか王妃は「剣姫」と呼ばれるようになり、本人はこの異名を始めて聞いた時は大いに笑った。自分は王妃なのに何故「姫」という名前が付けられるのかと異名で呼ばれる度に笑いがこみ上げる。
子供が生まれた時は性格も落ち着いて戦地に自分が赴く事はなくなったが、ある時に彼女は病にかかり、唐突に死亡してしまう。その時の国王は深く嘆き悲しみ、彼女の騎士団は解体され、副団長に昇格していたテンも辞めてしまう。
最初はテンを団長にして聖女騎士団をただの騎士団として残そうとしたそうだが、テン本人はこれを拒否し、彼女は国王に告げた。
『聖女騎士団の団長は後にも先にも王妃様だけです……あたしでは荷が重すぎる』
副団長であるテンが団長に昇格する事を辞退した事で他の者達も脱退し、他の騎士団に加入するか、あるいは騎士を辞めてしまう。テンは未だに王妃が死んだ事を引きずっており、彼女が王国騎士を辞したのは王妃が原因だった。
「――我が妻、ジャンヌは誰よりも強かった。この儂よりもな……そんな妻でも二つの魔剣を扱う事までにどれだけの鍛錬と時間を費やしたかはお主も知らんだろう。あのナイという少年にジャンヌと同程度の力量があると思うのか?」
国王は目つきを鋭くさせ、アルトを睨みつける。その国王の態度と言葉にアルトは冷や汗を流すが、それでも彼は言い返した。
「ナイ君が亡くなった王妃様と同等の力量があるかどうかと言われれば……今の彼は王妃様には及ばないでしょう」
「ならば……」
「ですが15才の頃の王妃様ならば話は別です」
「な、何?」
アルトの言葉に国王は意表を突かれ、その一方でアルトは鋭い指摘で言い返す。
「王妃様が偉大な御方である事は僕も承知しています。しかし、王妃様が名を上げられたのはあくまでも成人した後……成人を迎える前の王妃様が特に目立った功績を上げた話は聞いた事がありません」
「……何が言いたい?」
「王妃様の事をよくご存じの父上にお尋ねします。王妃様は10才そこらでホブゴブリンを倒せますか?14才で赤毛熊を殺す事が出来ますか?15才でガーゴイル亜種やミノタウロスを倒せる程の実力をお持ちだと思いますか?」
「そ、それは……」
亡くなった王妃の事をよく知っている国王はアルトの言葉に言い返せず、確かに子供の頃の王妃がナイと同じ真似が出来るのかと問われれば、答えは否だった。昔から王妃は剣の才能に恵まれていたが、ナイと同じ年齢ナイが戦ってきた魔物を倒せるとは思えない。
確かに今のナイは聖女騎士団を率いていた王妃には及ばないかもしれない。だが、ナイと同じ年齢だったときの王妃が彼と同じことをできるとも思えない。二人の違いをアルトは指摘した。
「王妃様とナイ君との違い、それはナイ君が未だに成長の余地がある事です。まだまだ彼はこれから強くなれる、そして彼が全盛期を迎えた時、王妃様を越える力を僕は身に着けていると確信しています」
「……そこまで、言い切れるのか?」
「現にナイ君は結果を残しています。訓練とはいえ、聖女騎士団の副団長であるテンを追い詰め、銀狼騎士団のリン副団長を相手にして一歩も引かずに戦い抜き、手傷を負わせています。彼はまだ15才、まだ成人にも達していないのにこの強さ……何よりも彼は魔剣に認められている」
「…………」
国王はアルトの言葉を聞いて俯き、やがて彼は意を決したようにアルトに告げた。
「お主がそこまで言うのであれば……儂にもあの少年の力を見せて貰おうか」
「ええ、構いません。明日、また闘技場で彼は戦います。父上も拝見しますか?」
「うむ……よかろう」
アルトは国王の言葉を聞いて笑みを浮かべ、明日の闘技場でナイの戦いぶりを見せれば必ず父親が認めてくれると確信していた。しかし、国王の方は考え込んだ素振りを行い、アルトに提案した。
「アルトよ、明日のナイの対戦相手だが――」
――この翌日、ナイは闘技場で最大の強敵と相対する事になる事を知らない。
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