貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
352 / 1,110
旋斧の秘密

第342話 脂肪の鎧VS改良型刺剣

しおりを挟む
「アガァッ……フガァアアアッ!!」
『おおっと!!ここでトロールは遂に全ての餌を食べつくしました!!クロノ選手、万事休すか!?』
「や、やべぇっ!!早く逃げろ!!」
「殺されるぞっ!!」


トロールは地面に落ちていた全ての餌を食いつくすと、唐突に態度が一変させて雄叫びを上げる。それを見た観客が一斉に騒ぎ出し、その反応を見てナイは嫌な予感抱く。

餌を食べつくしたトロールは腹を抑え、あれほど食べていたというのに腹の音が鳴り響く。貪欲なゴブリンや赤毛熊以上のとんでもない食欲であり、先ほどまでは大人しかったトロールは血走った目でナイを見つめると、彼を「餌」だと判断したのか腕を伸ばす。


「フガァッ!!」
「うわっ!?」


意外にもトロールは俊敏な動作で腕を振り下ろすと、ナイは「跳躍」の技能を発揮して後方に回避する。その判断は功を奏し、トロールの腕は地面に叩きつけられた瞬間に振動が走る。


(この力……赤毛熊よりもやばい!?)


トロールは赤毛熊を上回る膂力を誇り、更にナイを捕まえようと腕を振り下ろす。先ほどとは打って変わって空腹の状態に陥ったトロールはナイを捕まえようと全力で動く。

自分に向けて伸ばされる腕を躱しながらもナイは隙を伺い、振り下ろされた腕に対して「迎撃」の技能を発動させ、反魔の盾で弾き返す。


「ここだっ!!」
「フガッ!?」
『は、弾き返した!?クロノ選手、信じられない力です!!』
「嘘だろ、おい!?」
「マジかよ!!」


ナイは反魔の盾を利用して上から振り下ろされたトロールの右腕を受けると、衝撃波が発生してトロールの攻撃を弾き返す。トロールは大きく体勢を崩し、その隙を逃さずに畳み込む。

ナイは旋斧を振りかざして今度は足元に目掛けて放つ。先ほどは大きな腹の脂肪によって攻撃を弾かれたが、他の箇所ならば攻撃が通じるかもしれないと判断して攻撃を仕掛ける。


「ここならどうだ!!」
「フギャッ!?」


左足の脛の部分にナイは旋斧を叩き込むと、トロールは初めて悲鳴らしきを越え上げて倒れ込む。だが、攻撃を仕掛けた際にナイはまたもや刃を弾かれてしまい、腹以外の部分もトロールの全身は「脂肪の鎧」で覆いつくされている事に気付く。


(駄目だ、腹以外の場所も柔らかくて弾き返される……これは生半可な攻撃は通じなさそうだな)


先ほどの攻撃でトロールは左足の脛部分にが残る程度の損傷は与える事に成功した。しかし、この様子では戦闘不能に追い込むには難しく、ここでナイは新しい装備を試す事にした。


(よし、アルトから改良して貰った刺剣を試そう)


ナイは旋斧を背中に戻すと、刺剣を一本取り出す。ナイが常備している刺剣の数は三本だが、まずは最初の一本目を投擲した。


「このっ!!」
「フガァッ……!?」


刺剣を構えたナイは「剛力」を発動させ、腕力を強化した状態で全力で「投擲」を行う。投げ放たれた刺剣はトロールの腹部に的中したが、刃が腹部に突き刺さる事はなく、先ほどの旋斧のように弾かれてしまう。

貫通力の高い刺剣ならばあるいはトロールの肉体にも損傷を与えられるのではないかと思ったが、やはり通常攻撃でトロールに損傷を負わせるのは難しい。それを理解した上でナイは新しい刺剣を取り出す。


(普通に投げても通じないか……なら、これならどうだ!?)


アルトの改造が加えられた刺剣の柄の部分には小型の風属性の魔石が嵌め込まれており、こちらはフックショットに取り付けた風属性の魔石と同じく、手元で操作するだけで作動する。

魔石を捩じった瞬間に刺剣の刃に風の魔力が送り込まれ、渦巻状の風の魔力が纏う。それを確認したナイはもう一度トロールに向けて放つ。


「喰らえっ!!」
「フガァッ……!?」


またもや短剣を投げてきたナイに対してトロールは構わずに近寄ろうとしたが、この時に投げ込まれた短剣は風の魔力の影響で高速回転を行う。

渦巻状の風の魔力によって回転しながら加速した刺剣がトロールの腹部に的中した瞬間、血飛沫が舞い上がる。回転を加えた事でトロールの腹部に突き刺さった瞬間に肉を巻き込み、そのまま皮膚を引きちぎって内部にまで到達する。


「フギャアアアアッ!?」
『ええっ!?し、信じられません!!トロールが……あのトロールがを上げています!!』
「そんな馬鹿なっ!?」
「ど、どうなってるんだ!?」


トロールが悲鳴を上げる姿に観衆は驚き、これまでのトロールの試合で損傷を受けた事は一度もなかった。どんな相手だろうとトロールの脂肪の鎧を突破できず、損傷を与える事もできなかった。

しかし、アルトの改造が施された刺剣はトロールの腹部を貫き、トロールの腹から血が滲み出す。だが、あまり長時間の効果は発揮できないのか、刺剣は数秒ほどで魔力が消えてしまい、回転も止まってしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...