貧弱の英雄

カタナヅキ

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旋斧の秘密

第340話 魔力回復薬

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――ゴブリンナイトとの試合を終えた後、ナイは一度控室に引き返した。そこには既にアルトが待ち構えており、彼は神妙な表情を浮かべていた。


「やあ、お帰り……見事な試合だったね。観客も大満足だったよ、期待の新人が現れたと噂していたよ」
「アルト……」
「……その顔から察するにゴブリンナイトの死因が気になるようだね」


戻ってきたナイの顔が暗い事に気付き、貴賓席で試合を観察していたアルトもゴブリンナイトの死に方が普通ではない事に気付いていた。他の観客は気づいている様子はないが、ゴブリンナイトはナイに切られた時点ではまだ死ぬような状態ではなかった。

両腕を切り裂かれてゴブリンナイトが致命傷を負っていたのは確かだが、魔物は普通の動物よりも生命力が高いため、すぐに死ぬような怪我ではなかった。それでも死んだのはナイの旋斧から滲みだした闇属性の魔力のせいだと考えられた。


「僕が見た限りではゴブリンナイトの身体に闇属性の魔力が送り込まれた瞬間、ゴブリンナイトは苦しみ出して死んだように思えた」
「うん……まるで猛毒を流し込まれたみたいに苦しんで死んでいったように見えた」
「毒か……確かにその表現が一番しっくりくる」


ゴブリンナイトの死に方は毒によって身体が侵されたような苦しみ方であり、実際にゴブリンナイトに切り付けられた箇所は「黒色化」していた。但し、ゴブリンナイトが死んだ瞬間に皮膚は元に戻り、死骸には何も痕跡は残っていなかった。


「闇属性の魔力は聖属性とは相反する魔力、聖属性が生命力を司る魔力だとすれば闇属性はその真逆……死を司る魔力だと言われている」
「死を司る……」
「ナイ君、今後は闇属性の魔法剣を使う事は禁じてくれ。もしも下手に扱えば君自身にも悪影響があるかもしれない。どうしても使わなければならないときは扱いに気を付けてくれ」
「うん、そうするよ」


ナイはアルトの言葉に頷き、改めて旋斧を覗き込む。今までに自分の命を何度も救ってくれた相棒だが、闇属性の魔力を宿した時にナイは初めて旋斧が恐ろしい物に変貌したように感じた。

今後は闇属性の魔法剣は封じる事を決め、とりあえずは少し休む事にした。体力は問題ないが、思っていた以上に初めての試合という事で精神が消耗し、ナイは座り込む。


「ふうっ……」
「大丈夫かい?今日はもう午後からの試合を中断して帰るかい?」
「いや……大丈夫、出場するよ」


アルトからナイは今日は事前に午前と午後の部の試合に出場する事は聞かされており、予定ではもう一試合戦う事が決まっていた。休憩を挟んだ後、闘技場では午後の試合が行われるため、ナイは午後の部の第一試合に出場する予定だった。


「あまり無理はしない方が良い、気分が優れないのから試合は棄権した方が良いよ」
「大丈夫、少し休めば平気だから……それより、ゴブリンナイトだっけ?あんなのが闘技場にいるの?」
「ああ、あれは魔物使いに育て上げられた魔物だよ。野生の魔物と違い、人間の指導を受けてより強力な魔物を育て上げているんだ」
「人間から指導を受けていた割には兵士に襲い掛かろうとしたけど……」
「基本的に魔物使いの調教する魔物は主人にしか懐かないんだ。そもそも魔物を飼育する事が難しいからね。君のビャクのような性格が温厚な魔物自体が珍しいんだよ」
「そうなんだ……」


基本的には野生の魔物は人間に懐く事自体が非常に珍しく、ビャクのように最初から人間に危害を与えずに接する魔物など滅多にいない。そういう意味ではビャクは特別な存在と言える。


「そうだ、これを飲むかい?本当は魔力を回復を促す薬なんだけど、心を落ち着かせる効果もあるよ」
「これは……?」
「魔力回復薬《マナポーション》さ、僕の友達が調合した代物だよ」


アルトは思い出したように青色の液体が入った小瓶を取り出し、回復薬とは色合いが違う薬を見てナイは不思議に思うが、試しに飲んでみる。アルトの友人が作ったという魔力回復薬を飲み込んだ途端、不思議な味と触感にナイは驚く。


(何だこれ……液体じゃないのか?)


魔力回復薬はどうやら液体ではなく、まるでゼリーのような触感が広がり、飲み込んだ途端にナイは体内の魔力が活性化する感覚を覚える。

アルトの言う通りに薬を飲んだ途端に落ち込んでいたナイは気が楽になり、どうして自分はここまで思い悩んでいたのかと不思議に思う。そんなナイを見てアルトは薬の効果が現れた事を知り、感心したように頷く。


「流石はイリアだ。もう効果は出たのか……」
「イリア?」
「ああ、僕の昔からの友達の名前さ。今度、紹介するよ」
「そうなんだ……」
『ナイ選手、間もなく試合が始まります。迎えの兵士が来るまで控室で待機して下さい』


話し込んでいる間にどうやら休憩時間が終わりを迎えたらしく、ナイはアルトに礼を告げて次の試合の準備に取り掛かる。
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