貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
349 / 1,110
旋斧の秘密

第339話 闇属性の魔法剣の威力

しおりを挟む
「今のうちに早く逃げて!!」
「あ、ああっ……」
「おい、何をしてるんだ!!」
「早く下がれ!!」


ナイが救った兵士は他の兵士に担がれて城門の内側まで運び込まれ、その一方で右腕を切り裂かれたホブゴブリンは血を流しながらもナイを睨みつける。

ホブゴブリンは切り裂かれた右腕を見て戸惑いの表情を浮かべ、まさかこんな小柄の相手に自分の右腕が切り裂かれるとは思いもしなかった。その一方でナイはホブゴブリンに旋斧を向けた。


「お前の相手はこっちだ!!」
「グギギッ……!?」
『な、何という事でしょう!?あのゴブリンナイトの右腕を切り裂きました!!クロノ選手、見た目によらず凄い怪力です!!』
「嘘だろ、おい……」
「す、すげぇっ……あんな小さいのになんて力だ」


旋斧でホブゴブリンの右腕を切り飛ばしたナイを見て観衆は冷や汗を流し、実況の女性に至っては興奮した様子でナイの行動を観察する。


「グギギッ……ギィアッ!!」
「当たるか、そんなの」


ホブゴブリンは切り裂かれた右腕を抑えた状態で右足を突き出し、前蹴りを繰り出そうとした。だが、事前にナイは観察眼の技能でホブゴブリンの様子を先読みし、攻撃を避けるのと同時に「迎撃」を発動させる。


(ここだ!!)


迎撃を発動させた状態でナイは旋斧を振りかざし、ホブゴブリンの懐に潜り込むと胴体の部分に全力の一撃を叩き込む。この際にナイは全身の筋力を生かして刃を叩き込む。


「だああっ!!」
「アギャアッ!?」
『ふ、吹っ飛んだ!?クロノ選手の一撃でゴブリンナイトが倒れました!!』


テン仕込みの全身の筋力を使用した一撃を受けたゴブリンナイトは吹き飛び、まるで巨人族に殴り込まれたかのように地面に派手に転がり込む。

ナイが旋斧を撃ち込んだ箇所は亀裂が走り、鎧が砕けてしまう。ゴブリンナイトが身に着けていた鎧はあくまでも鋼鉄製であり、魔法金属で構成されているナイの旋斧には硬度が劣っていたために呆気なく破壊されてしまう。


「グギィッ……!?」
「これで終わりだ……あっ、しまった」
『おっと!?何故かクロノ選手、攻撃を止めました!!疲れたのでしょうか?』


いつも通りの戦法でゴブリンナイトを倒そうとしたナイであったが、今回の試合はあくまでも魔法剣の実戦経験を積むためであり、ただ倒すのでは意味がない事を思い出す。


(そうだった、普通に倒したら駄目だと言われてたっけ……危なかった)


止めを刺す前にアルトに言われた事を思い出したナイは旋斧を改めて構え直し、意識を集中させる。この際にナイは身に着けている魔法腕輪に意識を集中させ、魔石の魔力を旋斧に送り込む。


(大型ゴーレムとの戦闘では水属性の魔法剣が要になると言われたけど、水属性の魔石に拘らずに必要に応じて魔法剣を使い分けてもいいとアルトが言ってたし……この際にあの魔石の魔法剣を試すか)


ナイは魔法腕輪に嵌め込まれている「闇属性の魔石」に視線を向け、この魔石から引き出した闇属性の魔法剣だけは実験でも試し切りしていない。実験を行った時はあまりにも不気味な魔力を感じ取り、下手に扱うとまずい気がしたからだった。

旋斧の刃に闇属性の魔力が送り込まれると、元々黒の塗料で塗りつぶしていたため、表面上の変化はあまりない。だが、刃から黒煙を想像させる魔力が滲み出し、それを見たナイは冷や汗を流す。


(やるしかない!!)


闇属性の魔力を滲ませたナイはゴブリンナイトに目掛けて突っ込み、刃を振りかざす。それを見たゴブリンナイトは咄嗟に身を防ごうと左腕を構えるが、ナイの怪力の前では腕で防いだところで攻撃は止められない。


「はぁあああっ!!」
「グギャアアアッ!?」


ナイの旋斧が左腕に衝突した瞬間、ゴブリンナイトの腕は切り裂かれ、刃は胴体にめり込んだ。その結果、ゴブリンナイトの肉体に闇属性の魔力が流れ込み、直後にゴブリンナイトは苦悶の表情を浮かべる。

刃がめり込んだ箇所からゴブリンナイトの身体が黒く染まり、まるで猛毒でも流し込まれたかのようにゴブリンナイトは苦痛の表情を浮かべ、身体を震わせながら倒れ込む。その様子を見たナイは慌てて刃を引き抜くと、そこには絶命したゴブリンナイトの死骸が残っていた。


『き、決まったぁっ!!勝者、クロノ選手です!!』
『うおおおおおっ!!』


ゴブリンナイトが動かなくなったのを確認して実況のバニーガールは勝利を宣言すると、観客は沸き上がる。まさかナイがここまで強いとは誰も想像せず、圧倒的な強さでゴブリンナイトを屠ったナイに割れんばかりの拍手を行う。


「…………」


だが、ナイ自身は歓声を受けても全く嬉しくはなかった。ゴブリンナイトが死んだ本当の理由は怪我が原因ではなく、闇属性の魔力を帯びた攻撃を受けた瞬間、まるでかのようにゴブリンナイトが死んだ事を――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...