貧弱の英雄

カタナヅキ

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旋斧の秘密

第325話 急報

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「まあ、それはともかく……この岩砕剣は僕が管理しておくよ。兄上と父上に報告しておかないと……」
「そうだね、なら……」
「王子様!!アルト王子様!!」


ナイは岩砕剣をアルトに渡そうとした時、ここで訓練場に焦った様子の兵士が駆けつけてきた。唐突に訪れた兵士にナイ達は驚愕するが、アルトは態度を切り替えて兵士に尋ねる。


「どうした?何かあったのか?」
「お、王子様……すぐに玉座の間へ!!陛下がお呼びです!!」
「玉座の間?何があったんだ?」
「先ほど、グマグ火山に調査に出向いていたマホ魔導士が帰還されました!!すでに大将軍とマジク魔導士も到着されております!!」
「マホ魔導士が……!?」


王城にマホが戻ってきた事を知ったナイ達は驚くが、アルトは兵士の反応から察するにマホが何らかの重要な情報を持ち込んできたと判断し、ナイ達を残して玉座の間へと向かう。


「皆はここに残っていてくれ!!僕は玉座の間へ向かう!!」
「アルト王子、あたしも行くよ!!」


テンも只事ではないと判断して彼女もアルトに同行し、ナイ達を残して走り去る。いったい何が起きたのかは分からないが、ナイは嫌な予感がした。こんな時に彼の予感は今まで外れた事はなかった――




――その頃、ナイとの試合を終えたリンは鞘の修復のために工場区へと赴く。魔剣を収める鞘は魔法の力を抑え込む特別な魔法金属のため、修理するには並大抵の鍛冶屋ではできない。

彼女が行きつけの鍛冶屋はこの王都で一番と有名な鍛冶師であり、現役の黄金級冒険者を務める人物が経営者である。リンが王国騎士になった頃からの付き合いであり、彼が冒険者活動を行っている間は店の管理は弟子たちに任せている。


「失礼する。ハマーン殿はいるか……むっ」
「あら……リンさんではないですか」


店の中に入り込むと先客が存在し、それは黒狼騎士団の副団長のドリスであった。彼女の顔を見るとリンは眉をしかめ、ドリスの方も面倒くさそうな表情を浮かべるが、そんな彼女の元に数名の小髭族が訪れ、彼女の魔槍を渡す。


「どうぞ、ご依頼の品です。依頼通りに調整は終わりました」
「ありがとうございますわ」


小髭族の店員が数人がかりで運び出したのは真紅のであり、普通の人間ならば持ち上げるのに苦労するだろう大きさのランスをドリスは軽々と持ち上げる。

その様子を見ていた店員は驚いた表情を浮かべるが、ドリスはランスを握りしめると頷き、ここまで運んできてくれた店員に感謝の言葉を告げた。


「流石はいい仕事をしますわね。丁度いい具合ですわ」
「い、いえ……」
「では、私はこれで失礼しますわ」


ランスを手にしたままドリスは何事もなかったように立ち去ろうとしたが、リンとすれ違う際に彼女の壊れた鞘に気付き、意外そうな表情を浮かべた。


「あら、その鞘は……何かありましたの?」
「……お前に答える理由はない」
「気になりますわ、どうか教えてくださいませんか?」
「断る」


ドリスの言葉にリンは断固として答えず、そんな彼女の態度にドリスは眉をしかめ、不機嫌そうな表情でリンに詰め寄る。


「……どうやらお忘れのようですが、前回の勝負は私の勝ちですわ。ならば敗者は勝者を敬うべきでは?」
「ふざけるな、まだ私の方が勝ち越している」
「あらあら、何を言っているのですか?勝ち越しているのは私の方ですわよ!!」
「何だと……やるか!?」
「お、お辞め下せえっ!!」


ドリスとリンは睨み合うと、互いの武器を握りしめる。その様子を見ていた店員たちが慌てて間に割って入り、ドリスは興奮した様子でリンに告げた。


「ならばここで決着をつけましょうか!?」
「望むところだ!!」
「ひいいっ!?」



リンとドリスとは同期だが、昔から性格が合わずによ喧嘩をしていた。お互いに騎士団の副団長になってからは立場を考えて喧嘩を控えるようにしていたが、就任する前は二人が顔を合わせる度に剣を抜いていた。

ドリスもリンもお互いの事が気に入らず、互いにどちらが強いのかよく争う。それは武芸だけには拘らず、足の速さや力比べ、時には合同訓練で互いの隊員同士で競い合う。

この二人の関係は他の者も把握しているが、敢えて誰も咎める真似はしない。競い合いの精神は決して割る事ではなく、互いに切磋琢磨する関係だからこそドリスもリンもここまでの実力を身に付けた。

お互いに負けないために鍛錬を繰り返してきたからこそ、リンもドリスも大きく成長して遂には副団長の座に就いた。リンにとってドリスは好敵手であり、同時に弱みを見せたくない友人だった。


「切り刻んでやる!!」
「黒焦げにしてあげますわ!!」


二人がお互いの武器を抜こうとした瞬間、大慌てした兵士が駆けつけてきた。


「リン副団長!!大変です!?あっ、ドリス副団長もここにいらしたのですね!?」
「何事だ!?」
「今は取り込み中ですわ!!くだらない用件なら後で……」
「王命です!!今すぐ二人は王城へ戻って下さい!!」
「「っ!?」」


兵士の言葉にドリスとリンは雰囲気を一変させ、国王からの命令とあらば無視することはできず、二人は急いで王城へと戻る。


「ちっ、話は後だ!!必ずお前とは決着を付けてやる!!」
「望むところですわ!!ならば先に王城へ戻った方が勝利ということでよろしいですわね!?」
「望むところだ!!」


二人は王城に向かって競争を始めた――





――それからしばらくした後、アルトとテンが玉座の間に辿り着くと、そこには既にこの国の重要人物が揃っていた。玉座の間にはアルトの兄であるバッシュ王子、他にも金狼騎士団の副団長のドリス、銀狼騎士団の副団長のリンも揃っていた(何故かドリスとリンは息切れしている)。

玉座にはこの国の王であり、アルトとバッシュの父親でもある国王が座っていた。国王は黒髪に黒髭を生やした男性であり、息子たちと比べてもかなり大きく、実年齢以上に外見は若々しい。昔は騎士団を率いていた事もあって筋骨隆々の身体をしており、王家の紋章が刻まれた王冠を被っていた。


「アルト、遅いぞ。お前で最後だ……テン、お前も来ていたのか」
「はっ……申し訳ありません」
「陛下、お久しぶりです」


流石のアルトもテンも国王を前にすると普段の態度で接する事は出来ず、跪く。国王は全員が集まったことを確認すると、隣に立っている老人に話しかける。


「シン、まずは全員にお前の方から状況を説明してくれ」
「はっ……分かりました」


シンと呼ばれた男性はこの国の宰相であり、彼が国王に代わってこの場に集まった全員に状況の説明を行う。この際にアルトとテンはマホの姿が見えない事に気付き、彼女が戻って来たと聞いていたがこの場にいない事に不思議に思う。


「この場の何人かは既に事情を察していると思われるが、今一度最初から状況確認を行う。まず、先ほどマホ魔導士がここへ戻られた事は知っているな?」
「ええ、先ほど兵士から報告を受けましたが……」
「はあ、はあっ……マ、マホ魔導士はどこにおられるんですの?」
「ふうっ、ふうっ……先ほどから姿は見えないが……」
「あんたら、何で息切れしてるんだい?」


何故か疲れた表情を浮かべながらリンとドリスにテンは疑問を抱くが、玉座の間にマホがいない事に誰もが疑問を抱き、シンは神妙な表情を浮かべて答えた。


「マホ魔導士は現在治療を受けておられる。ここへ戻る際、相当な魔力を消耗してお戻りになられた。今は意識を失って眠っているとイシから報告が届いている」
「マホ魔導士が……!?」
「いったいどうして!?何があったのですか!?」
「静まれ」


マホが倒れて現在は治療を受けているという言葉にドリスもリンも戸惑い、理由を問い質そうとするがそれを制したのはバッシュだった。

バッシュは二人を落ち着かせると宰相と向き直り、何故マホが倒れたのかを尋ねる前に彼女が王城へ戻って来た理由を尋ねる。


「マホ魔導士は何を知らせにここへ戻って来たかを先に教えてくれ」
「はっ……ひと月ほど前、マホ魔導士はグマグ火山の調査のために弟子を連れて出向きました。そして本日、飛行魔法を使用してこの王都へ戻られました」
「飛行魔法!?それは風属性の上級魔法の事かい?」
「その通りだ。マホ魔導士はグマグ火山から引き返す際、想定外の事態に陥り、飛行魔法を使用して弟子と共に王都へ戻ってこられた。だが、報告を行う前に魔力を使い果たして倒れられた」


グマグ火山へ調査に出向いたマホは王都へ帰還する際、彼女は飛行魔法と呼ばれる風属性の上級魔法を使用した影響で彼女は魔力を使い果たした。しかし、彼女と同行していた弟子のエルマが代わりにグマグ火山の調査報告を行う。


「マホの弟子の報告によればグマグ火山にて大型の魔物の存在が確認された。早急に対応せねばとんでもない事態に陥るかもしれん」
「大型の魔物……!?」
「グマグ火山……まさか、火竜が!?」


火山に生息するような魔物は限られており、しかも大型となると火竜が復活したのかとアルト達は驚愕の表情を浮かべる。だが、宰相は首を振ってマホが報告した魔物の名前を告げた。
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