貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
314 / 1,110
旋斧の秘密

第305話 強化術と再生術

しおりを挟む
――モモのお陰でナイとテンは治療してもらい、魔力を回復する事が出来た。彼女の魔力量は二人よりも多いとはいえ、流石に一度に二人を治療したせいでかなりの魔力を消耗し、ヒナに身体を支えてもらう。


「う~んっ……やっぱりきついよう」
「お疲れ様、モモ……よく頑張ったわね」
「ウォンッ!!」


ナイを助けてくれた事に感謝したビャクはモモの身体に擦り寄り、ヒナの代わりにモモを支える。白狼種の温かく柔らかい毛皮で覆われたモモは気持ちよさそうな声を上げる。


「わあっ、もふもふだぁっ……気持ちいいよ」
「良かったわね、それで……どうして二人はこんな事を仕出かしたのかしら?」
「ううっ……」
「ちょっと待ってくれよ。少し休ませな……」


モモの事をビャクに任せると、ヒナは深い溜息を吐きながら地面に座り込むナイとテンに視線を向けた。一応はモモのお陰で肉体は回復した二人だが、流石に疲労の色は濃く、どちらも疲れ切った表情を浮かべていた。

肉体は治せても体力はまだ完全回復しておらず、ナイとテンはお互いに背中を合わせた状態で座り込み、そんな二人にヒナは呆れた表情を浮かべる。


「全く、もう……二人とも無茶をし過ぎよ。いくら魔力が休めば回復するからって、無理に使いすぎれば下手をしたら死んじゃうのよ?」
「ごめんなさい……」
「悪かったね……でも、こっちもおふざけで戦っていたわけじゃないんだよ」


テンは頭を抑えながらもどうにか立ち上がり、自然回復の技能を持っているナイよりも立ち直りが早い。彼女も人間離れした回復力を身に付けているらしく、ナイの腕を掴んで無理やりに立ち上がらせる。


「久々に身体を動かして鈍った肉体と勘を取り戻そうと思ったんだけどね……思っていた以上にこいつは大した奴だよ。まさかあたしに強化術を使わせるなんてね」
「えっ……強化術?」
「何だい、あんた知らずに使ってたのかい?魔操術と肉体強化系の技能を応用すれば全身の筋力を強化できる事はもう知ってるだろう?あたし達の間ではこれは強化術と呼ばれているのさ。ちなみに肉体を再生する方は再生術と呼ばれているんだ。一応は覚えておきな」
「あ、はい……分かりました」」


テンの説明によるとこれまでにナイは「全身強化」と呼んでいた魔操術の肉体強化は「強化術」という名前が付けられていたらしく、これは魔操術を操れる人間ならば誰もが知っている言葉らしい

全身強化改め「強化術」は魔操術を習得している人間の中でも聖属性の適正が高い者しか扱えず、そういう意味ではヒイロなどのように他の属性の適正が高い人間は強化術は残念ながら発動できない。もう一つの「再生術」ナイが超再生と呼んでいた聖属性の魔力を利用した回復方法だと判明する。


「それで……女将さんから見てナイ君はどうなの?見た限りだとかなり追い込まれていた様だけど」
「そうだね……まあ、正直に言わせてもらうと予想以上だよ」


ヒナの言葉にテンは素直にナイの力を認め、あと少しで自分が敗北する所だった事を考えてもナイの力は彼女の想像を超えていた。

バッシュやリンダとの戦闘を見た時からナイの実力は把握していたつもりだが、まさか強化術を自力で発動できる段階にまで至っているとは夢にも思わなかった。


(あたしが魔操術を習得して強化術まで出来るようになったのに数年はかかったのに……この坊主は半年で身に付けたのか。才能がない自分が恨めしいね)


ナイは魔操術を身に付けたのは半年前という話はテンも聞いていたが、まさか半年程度で強化術や再生術を習得した人間などテンの知る限りは一人もいない。これは最早才能があったという話ではなく、元々ナイが魔力を操る術を身に付けていた節がある。


(そういえば王子の話によるとあの旋斧とやらは所有者の魔力を吸い上げる機能があるとか言ってたね……という事は、こいつは魔操術を身に付ける前の段階からあの武器を使っていたという事は、魔力を吸収され続けたせいで知らず知らずに鍛えられていたのかもしれないね……)


旋斧は触れた人間の聖属性の魔力のみを吸収する機能が備わっており、どうして使用者に負担をかける様な機能がある事にテンは疑問を抱いてたが、もしかしたらナイが魔操術を半年で身に付ける事が出来たのは旋斧のお陰ではないかと考える。

まだ魔操術を身に付ける前の段階からナイは常日頃から旋斧に魔力を吸い上げられる生活を送っていた。それは肉体にかなりの負担を与えるが、逆に普段から魔力を吸い上げられているお陰でナイは無意識に魔力を吸い取られる感覚を知っていた。

以前にテンは魔術師が自分の持っている魔力を増やす場合、毎日限界まで魔力を消耗し、身体を休める事で魔力の限界量を伸ばす訓練を行うという話を聞いた事がある。それと同じ要領でナイは旋斧に毎日の様に魔力を搾り取られ、その反面に魔力の限界量を伸ばしていたのかもしれない。

だからこそナイは最初の頃は旋斧を武器として扱うだけでも精いっぱいだったが、年齢を重ねるごとに使いこなせるようになったのは彼が腕力を身に付けたからではなく、旋斧でも吸収しきれない程の魔力を手に入れたのだろう。




※初期のナイの魔力量は一般人と大差はありませんが、旋斧を使い始めてから伸び始め、現在はテンと同程度の魔力を持ち合わせています。ちなみにモモはナイの3倍、マホの場合は10倍以上の魔力量です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

処理中です...