貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都での騒動

第244話 ナイVSミノタウロス

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「逃がすかっ!!」
「ブフゥッ……!?」


逃げ惑うミノタウロスに対してナイは旋斧で大振りの攻撃を繰り返し、それに対してミノタウロスは必死に避け続ける。先ほど攻撃を受けた時からミノタウロスはナイの事を警戒して距離を取ろうとした。

しかし、ナイはミノタウロスに接近するため、剛力を発動させて跳躍を行う。一瞬にしてミノタウロスの懐に潜り込むと、ナイは旋斧を放つ。


「はああっ!!」
「ギャアアッ!?」


人間のような悲鳴を上げてミノタウロスは胸元から血飛沫を舞い上げ、ナイが繰り出した旋斧の一撃を受けてミノタウロスの上半身に傷が入る。しかし、攻撃を仕掛けたナイは信じられない表情を浮かべた。


(硬いっ!?)


ミノタウロスに傷を与える事には成功したが、ナイはすぐに自分が斬ったのは表面の皮膚だけであり、肉体の内部には刃が届いていない事に気付く。

攻撃を放った後にナイが距離を取ると、ミノタウロスは胸元の傷口を抑え、怒りを抱いた表情をでナイを睨みつける。その様子を見てナイは冷や汗を流し、旋斧を握りしめる両手を見た。


(腕が少し痺れた……こいつを斬るにはもっと力を込めないと駄目か)


接近するために足元に力を集中し過ぎたせいで切りつける時は思うように力が入らず、今度こそナイはミノタウロスを仕留めるために剛力で腕力を強化させる。だが、それに対してミノタウロスは胸元から手を離すと、思いもよらぬ行動を起こす。


「ブモォオオッ!!」
「なっ!?」


ミノタウロスは胸元から流れ落ちる血を利用してナイに向けて腕を振り払い、掌にこびり付いた血を放つ。ナイはミノタウロスが自分の血を利用して目潰しを行おうとした事に気付き、咄嗟に顔面を覆い隠す。

放たれた血はナイの顔に当たる事はなかったが、その際にナイは腕で顔を覆い隠してしまい、その隙にミノタウロスは接近して前蹴りを繰り出した。


「ブモォオオオッ!!」
「っ……!?」


まともに衝突すれば煉瓦の壁を粉々に破壊するミノタウロスの攻撃に対し、咄嗟にナイは「迎撃」の技能を発動させ、体勢を屈んで攻撃を避けた。まさか自分の攻撃を避けられる思わなかったミノタウロスは片足を前に繰り出した状態で驚愕の表情を浮かべるが、ナイは即座に反撃行動へと移る。


「はああっ!!」
「ブモォッ!?」


片足だけを伸ばした状態で体勢を崩したミノタウロスに対してナイは旋斧を繰り出し、身体を支える軸足に向けて刃を放つ。

上半身と同様に下半身の方も非常に硬く、毛皮が少し切れた程度で致命傷は与える事はできなかった。それでも軸足に衝撃を受けたミノタウロスは立っていられず、体勢を崩してしりもちを着く。その間にナイは跳躍を発動させて距離を取る。


(助かった……迎撃が上手く発動してくれた)


咄嗟に迎撃を発動してナイは窮地を脱するが、その一方でミノタウロスの方は立ち上がると、攻撃を受けた左足を抑える。致命傷ではないが先ほどの攻撃で影響を受けたらしく、悔しがるように足元を抑えながらナイを睨みつけてきた。


「ブフゥウウッ……!!」
「はあっ、はあっ……」


時間的には戦闘が開始されてからまだ数十秒程度だろうが、ナイは既に疲労していた。精神的に追い詰められると体力も大きく削られ、勝負が長引く程にナイが不利に陥る。それは分かっているが、ミノタウロスの肉体は予想以上に硬い。

上半身は毛皮で覆われていないので攻撃が通じやすいが、皮膚を斬るのが精いっぱいで内側までは切れない。恐らくはミノタウロスの肉体は筋肉が高密度に圧縮されており、そのせいで旋斧を以てしても攻撃が通じにくい。


(岩を叩き斬る方がまだ楽だな……こいつを仕留めるには限界まで身体強化するしかない)


かなり肉体に負担をかける事になるが、ここでナイは魔操術を利用して全身の魔力を活性化させ、一時的に強化薬を使用した時のように肉体の筋力を限界まで強化させる。この状態は「剛力」の技能を全身に発動させる事に等しく、肉体の負荷は大きい。


(この一撃で決めるんだ……それしか勝ち目はない)


ナイはミノタウロスと向き直り、旋斧を構えるとミノタウロスの方もナイの雰囲気の変化に気付き、警戒したように両腕を構えて防御の体勢を取った。致命傷を避けるためか、ミノタウロスは負傷した左足の膝を地面に付いた状態で両腕で上半身を覆い込む。


(くそ、狙いに気付かれたか……けど、やるしかない)


相手が防御に徹しようとナイがやる事に変わりはなく、もう引く事は出来ない。そう思ったナイは全身の筋力を強化させ、ミノタウロスとの距離を縮めようとした時、ここでミノタウロスの背後から思いもよらぬ人物の声が上がった。


「ナ、ナイ君!?」
「っ……!?」
「ブモォッ……!?」


ミノタウロスの後方に現れたのは普段の給仕服ではなく、ワンピースに着替えたモモであり、彼女はここまで走ってきたのか息切れした状態で立っていた――
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