貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都での騒動

第223話 王国騎士の観察

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「ほら、こいつがあんた達が待ちわびていた子だよ。自己紹介してやりな」
「うわっ……!?」
「ほう、その子が……」
「確かに昨日見た子ですわね」


急に背中を押されたナイが前に出ると、リンとドリスの目つきが代わり、彼を品定めするように見つめる。一見は普通の少年にしか見えないが、昨日のナイとガーゴイル亜種の戦いぶりを見ている二人はナイが只者ではない事は重々承知している。

リンとドリスに見つめられたナイは恥ずかしそうに視線を逸らし、美女二人に見つめられて照れてしまう。その態度はまるで普通の子供のようにしか見えないが、リンとドリスはナイを見て不思議に思う。


(こうしてみると本当に若いな……とても強そうには見えない)
(女の子の様に可愛らしい顔立ちですわね)


二人がナイを見て抱いた感想は可愛らしい顔立ちの少年にしか見えず、もしも昨日の出来事を見届けていなかったら二人は彼がガーゴイル亜種を倒す実力者だとは思わなかっただろう。


「あんた達、何時まで見つめ合ってるんだい。さっさと本題に入りな、こっちも暇じゃないんだよ」
「え、ええ……そうですわね」
「これは失礼した。では、早速だが本題に入ろう。とりあえず、座ってくれ」


テンの言葉に二人はナイを観察するのを止め、椅子に座るように促す。その言葉に従ってナイは椅子に座ろうとすると、テン達は座らない事に気付く。


「あれ?座らないんですか?」
「あたしの役目はあんたをここまで連れてくる事さ、こいつらもひよっこだからね。この面子で座る度胸はないんだろう」
「そ、そういう事です」
「……こう見えて私達も緊張してる」


王国騎士見習いであるミイナとヒイロは銀狼騎士団と金狼騎士団の副団長を前にして緊張していた。立場的には二人からすればどちらも違う騎士団に所属しているとはいえ、明確な差がある。そのためにとても向かい合って座る事などできない。

一方でテンの方は先ほどのオウソウの態度もあってか、彼女なりに遠慮して座ろうとはしない。現役を引退した身の自分が我が物顔で座る事はできないと考えていた。


「……失礼します」
「そう緊張する事はない、取って食うわけじゃないんだ」
「誰か、飲み物を用意してあげなさい」


ナイが緊張気味に座り込むとリンもドリスも笑みを浮かべ、彼のために飲み物まで用意してくれる。だが、内心ではナイの事を見定める様に一挙一動の様子を観察し、彼がどんな人物なのかを見極めようとしていた。


(この齢でガーゴイルを倒せる程の実力……普通の子供のはずがない)
(テンさんもこの子が何者なのかは知らないと言っていましたわ。その正体、見極めさせてもらいますわ)


表面上は優しく接しながらもドリスとリンはナイの様子を観察し、彼の正体を見抜こうとする。その一方でナイの方はじっと見られて気が落ち着かない。


(あのオウソウという人、ずっと俺の事を睨みつけてるよ……何だか居心地が悪いな)


使用人が用意してくれた飲み物を口に含みながらナイはいたたまれない気持ちを抱き、早く用事を済ませて帰りたいと思っていた。しかし、そんなナイの願いとは裏腹に事態は面倒な方向へ進む。


「さて……では本日、君を呼び出した用件だが、その前に君はテンさんから何処まで話を聞いている?」
「えっと……」
「あたしが伝えられた内容は全部話してあるよ」
「そうですの、なら事情は把握してますわね」


昨日の騒動は偶然に起きた事故ではなく、最初から王国騎士が計画していた出来事である事に仕立て上げようという話はナイも聞いていた。しかし、問題があるのは騒動が起きた際にナイだけが事件の真相を知っている事である。

一般人でありながら当時者であるナイは昨日の出来事の真相を知っており、それを他の人間に知らせられると王国側としても都合が悪い。そこでリンとドリスがナイを呼び出した理由、それは昨日の事件の口止めと、もう一つ理由があった。


「単刀直入に言わせてもらうが、昨夜に君が体験した出来事は今後誰にも話さない事を約束して欲しい」
「あ、はい……それは構わないんですけど」
「こんな事を急に言われて戸惑うのも無理がありませんが、私達としては昨日の件が世間に伝わると色々と問題が多いんです。仮にも王国騎士の立場にある人間が悪党に捕まるなど……これが知られたら王国騎士の信用を失いますわ」
「あうっ……」
「も、申し訳ありません!!」


事の発端となったミイナとヒイロはドリスの言葉に返す言葉もなく、落ち込んだように項垂れる。昨日の事件の切っ掛けは二人がバーリと繋がる組織の暗殺者に襲われ、ミイナが捕まった事が原因だった。

世間では王国騎士はこの国を代表する最強の騎士という認識を抱かれており、仮にも王国騎士(見習いとはいえ)の立場の人間が悪党に後れを取るなどあってはならない出来事である。
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