貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
218 / 1,110
王都での騒動

第217話 王国騎士の驚嘆

しおりを挟む
――時は少し前に遡り、街道を白馬に乗り込んだ騎士達が駆け抜け、バーリの屋敷へと向かっていた。騎士達を指揮するのは「銀狼騎士団」の副団長である「リン」という女性だった。

リンは銀狼騎士団の副団長にして国内では三本指に入ると言われるほどの剣の達人であり、彼女に従う騎士達も精鋭揃いである。リンは赤色の煙を確認しながら屋敷へと辿り着くと、そこには既に屋敷の前に待ち構える騎士団の姿が見えた。


「副団長、金狼騎士団です!!」
「……先を越されたか」


屋敷の前に待機しているのは漆黒の兜に漆黒の鎧を装着した騎士達であり、その先頭に立っているのは一人だけ黄金の鎧と兜を身に付けた女性だった。その顔を見たリンは眉をしかめ、一方で相手の方もリンに気付いて笑みを浮かべる。


「あら、リンさんではないですか。貴女も来たのですね」
「これはこれは……金狼騎士団の副団長殿、まさか先を越されるとはな」
「そう悲観される事はありませんわ。私達もここへ到着したばかりですもの」


金狼騎士団の副団長を務めるのはドリスという名前の女騎士であり、リンと彼女は同期である。二人とも17歳で同い年であり、年齢よりも外見が大人びている。

どちらも絶世の美女といっても過言ではない容姿だが、その雰囲気だけで他の人間は圧倒され、声をかける事もできない。リンはドリスが先に辿り着いていた事に内心は悔しく思うが、今は私情を挟むわけにはいかない。


「状況は?」
「屋敷の中にいる人間の殆どは保護しましたわ」
「殆ど?全員ではないのか?それよりどうして屋敷に入り込まない?」


ドリスの言い回しにリンは気になったが、そんな彼女に対してドリスは屋敷の敷地内を指差す。その行為にリンは戸惑うが、屋敷の様子を見て彼女は目を見開く。


『シャアアアアッ!!』
「うおおおおっ!!」


一人の少年がガーゴイル亜種を相手に戦っており、斧と剣が合わさったような武器を手にして戦っていた。その光景にリンは動揺を隠せず、一方でドリスも興味深そうに彼の戦いぶりを観察する。


「先ほどからあの子供がガーゴイル亜種を相手に戦い続けていますわ」
「戦い続けている、だと……どうして助けに向かわない!?」
「よく考えてください、あんな子供が一歩も引かずにガーゴイル亜種に立ち向かっているんですのよ。明らかに只者ではありませんわ」


ドリスの言う通りにナイはガーゴイル亜種を相手にたった一人で挑み、傍から見ても優勢に立ち回っていた。その様子を見てリンも驚くが、だからといって子供一人にガーゴイル亜種を相手にさせるなど納得できるはずがない。


「あの少年を援護する、お前達も私に続け!!」
「お待ちください、リン副団長……ここは見守るべきです」
「見守る!?何を言っている、あんな化物をあの少年に任せて私達はここで傍観しろというのか!?」
「そうは言いませんわ、もしもあの少年が窮地に立たされたら……その時は私が奴を仕留めます」


リンの言葉にドリスは自分が持っている紅色の「ランス」を握りしめ、その様子を見たリンは彼女が本気で言っている事を察する。確かに彼女ならばこの距離からでもガーゴイル亜種を仕留める事ができるだろう。

だが、ドリスはガーゴイル亜種を相手にたった一人で立ち向かうナイに強い興味を抱き、彼が何者なのか見極めたかった。だからこそ敢えて屋敷内には踏み込まず、様子を観察する。リンの方もナイの正体は気にかかるが、それでも心配そうに告げた。


「もしも少年が殺されそうになったら私は動くぞ……文句はないな?」
「ええ、構いませんわ」


ドリスもリンの言葉は否定せず、先ほどから彼女はランスを強く握りしめていた。この距離からでもドリスはガーゴイル亜種をで仕留める自信があり、もしもナイが追いつめられたときはその時は彼女がガーゴイル亜種を仕留めるつもりだった――





――失敗した!!


ナイは心の中で刺剣を利用して盾から衝撃波を繰り出した事を後悔していた。確かに衝撃波を受けたガーゴイル亜種は怯み、全身に亀裂が広がる程の損傷を与える事に成功した。

しかし、その反面にナイの方は左腕が痺れてしまい、刺剣も衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。左腕がまともに動けなければ右腕に頼るしかなく、ナイはガーゴイル亜種の右足に食い込んだ旋斧を引き抜く。


「このぉっ!!」
『アガァッ!?』


旋斧を引き抜いたナイはガーゴイル亜種から距離を取り、左腕の様子を伺う。痺れているせいで力が上手く入らず、しばらくの間は動かせない。魔操術で腕を回復させる事も考えたが、そんな時間をガーゴイル亜種が与えるはずがない。


『グゥウッ……!!』
「くっ……!!」


ナイとガーゴイル亜種は対峙し、次の攻撃で勝負が決まるとお互いに気付いていた。ガーゴイル亜種も損傷は激しいが、ナイの方もモモに回復して貰ったとはいえ、ここまでの戦闘で限界に近い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している ~平凡冒険者の迷宮スローライフ~

結城絡繰
ファンタジー
平凡な冒険者である俺は、手頃に抱きたい女が欲しいので獣人奴隷を買った。 ただ性欲が解消できればよかったのに、俺はその奴隷に溺愛されてしまう。 爛れた日々を送りながら俺達は迷宮に潜る。 二人で協力できるようになったことで、冒険者としての稼ぎは抜群に良くなった。 その金で贅沢をしつつ、やはり俺達は愛し合う。 大きな冒険はせず、楽な仕事と美味い酒と食事を満喫する。 主従ではなく恋人関係に近い俺達は毎日を楽しむ。 これは何の取り柄もない俺が、奴隷との出会いをきっかけに幸せを掴み取る物語である。

処理中です...