貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
176 / 1,110
王都での騒動

第175話 ヨク・バーリの屋敷

しおりを挟む
「嘘だろ、この建物が人攫いの組織の本拠地なのか……?」
「ウォンッ……」


ナイとビャクは建物から離れた場所から様子を伺い、とてもではないが悪の組織の本拠地としてはあまりにも目立ち過ぎていた。だが、地図に指示されているのはこの建物である事は間違いなく、ナイは思い悩む。

地図の場所に辿り着けば何か手がかりが掴めるかもしれないと思ったナイだが、もしかしたらこの地図を記しているのは敵の本拠地ではなく、人攫いの組織が狙う次の標的の場所ではないかと思う。


(もしかしてこの地図を持っていた奴、次はこの屋敷を狙っていたのか?どっちにしても、ここに忍び込むのはまずそうだな……)


敵の本拠地かは不明だが屋敷に忍び込むとしたら難しそうだった。屋敷は周囲を鉄柵に取り囲まれ、更に兵士の姿も多く見られる。敷地内にも兵士が巡回しており、厳重な警備が敷かれていた。

仮にナイが忍び込めたとしても、この場所が悪党の本拠地でなければナイは只の侵入者になってしまう。しかし、他に手がかりがない以上はこの場所に忍び込むしかない。


(どうやって入り込めばいいんだろう……ん?あれは……!?)


山で育ったナイは視力が優れており、遠目からでも屋敷の様子を確認する事ができた。そして彼は屋敷の中に馬車が存在する事に気付き、その馬車には見覚えがあった。


(あの時、声をかけてきた男の馬車だ!!)


ナイが王都へ訪れたばかりの頃、悪党と繋がっていたと思われる商人の馬車が屋敷内に存在した。それによくよく確認すると馬車の傍にはナイに話しかけてきた男が存在し、兵士と何やら話して込んでいる様子だった。


(やっぱり、ここが敵の本拠地なのか……)


自分を罠に嵌めようとした男がここにいる事からナイはこの屋敷が敵の本拠地だと判断し、もしかしたらミイナもここに捕まっているのかもしれないと考える。すぐにナイは男の様子を観察していると、男は馬車に乗り込む。

どうやら馬車は屋敷の正門から出て行こうとしており、それに気づいたナイは絶好の好機だと判断して馬車の後を追う――





――馬車が屋敷から十分に離れた後、ナイは馬車を襲撃するために後を追う。そして人気の無い場所に馬車が通りがった時、ナイは馬車に乗り込む。


「うわっ!?何だお前……ぐはっ!?」
「や、止めっ……ぎゃああっ!?」
「ひいっ!?ま、待て……げふぅっ!?」
「……これで全員か」


馬車の中には護衛と思われる者達も紛れていたが、全員がナイの敵ではなく、呆気なく気絶させる。ナイは馬車を止めると、捕まえた3人を縛り付けて路地裏の方へと移動させて尋問を行う。


「おい、起きろ」
「うっ……はっ!?こ、ここは何処だ!?おい、俺達を誰だと思って……ひいっ!?」
「グルルルッ……!!」


ナイは自分を騙して悪党が待ち構えている空き地に送り込んだ商人の男を起こすと、彼はナイの傍に立つビャクの顔を見て怯える。そしてすぐにナイに気付いて顔面蒼白となった。

どうやら男もナイの事はしっかりと覚えていたらしく、彼は自分が捕まった事を知って絶望した。そんな彼に対してナイは情報を聞き出すためにビャクを利用して彼を脅す。


「大声を上げたり、抵抗しようとすればどうなるか分かってるな?うちのビャクは肉が大好きだからな……今日はたらふく食えそうだ」
「ひいいっ!?」
「だから、大声を上げるなって……食われたいのか?」
「ウォンッ……」


ビャクはナイの言葉を聞いて複雑そうな表情を浮かべ、彼は人肉など食べたりはしない。だが、脅しとしては十分な効果があったらしく、男は必死に首を縦に振る。


「な、何だ……俺達をどうするつもりだ?」
「とりあえず聞きたいのは……最初に会った時、僕を襲うように指示したのはあんただな?」
「あ、ああ……頼む、許してくれ」
「余計な事は言わなくていい。そんな事より、僕を襲った奴等とお前は仲間でいいんだな?」
「そ、そういう事になるな……」


予想通りというべきか商人の男も悪党とグルだったらしく、こうなると商人の格好をしているが本当に商人なのかも怪しかった。しかし、今は聞き出さなければならないのは敵の親玉だった。


「さっき、あんたが出てきた屋敷は貴族の屋敷か?」
「貴族?いや、違う……あの屋敷はバーリ様の屋敷だ」
「バーリ?」
「知らないのか?この王都でも有名なバーリ商会の会長だぞ!?」
「バーリ商会……という事は商人の屋敷なのか?」


男によると彼が先ほどまで立ち寄っていた屋敷は貴族の屋敷ではなく、王都の商人の屋敷だという。確かに商人の中には屋敷を所有する者もいるが、バーリの屋敷はドルトンの屋敷の倍近くの広さがあり、建物も豪勢だった。

商会の会長を務めるバーリはこの王都では有名な大商人であり、本名は「ヨク・バーリ」という。そのバーリという男が人攫いの組織とどのような関係なのかナイは気になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...