貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
154 / 1,110
逃れられぬ運命

第154話 人間離れした力

しおりを挟む
(馬鹿な……僕は、恐れているのか!?こんな少年に!?)


ナイが武器を構えた途端、コウは自分の目の前にいる少年が非常に恐ろしい存在に変貌したかのように感じられた。一見すれば少女にも見えなくはない顔立ちをした少年に対し、自分が恐れているという事実にコウは唖然とする。

肉体から冷や汗が流れ、現在のコウはナイに合わせて防具の類を外してしまった。そのせいで彼が頼れるのは木刀だけだが、ナイを前にしているとコウは自分が手にした木刀がそこいらに落ちている木の枝のように便りがない物に変化したように感じられた。


(有り得ない!!こんな子供を恐れるなんて……だが、彼はあの赤毛熊を殺したと言っていた。普通の子供じゃないのか……?)


ここにきてコウは冷静にナイの話を思い返し、彼は毒物の類でナイは赤毛熊を殺したと思い込んでいた。しかし、話を思い返せばナイは毒を使用したというだけで毒で赤毛熊を殺したとは言っていない。


(赤毛熊には毒の耐性がある、だから毒物で殺すのは難しいはず……じゃあ、本当にこの少年は赤毛熊を剣で殺したのか!?)


見た限りではナイは木刀を扱うのは初めてらしく、先ほどからコウを真似て剣を構えている。だが、やはり気になるのかナイは木刀に視線を向け、ある事を思いついた様に木刀の刃の先端部部を掴む。


「えいっ」
「なっ!?」


軽い掛け声と共にナイは木刀に力を込めると、あろう事か握力だけで木刀を二つにへし折る。その光景を見たコウは信じられない表情を浮かべ、一方でナイの方は二つに分かれた木刀を見比べる。


「うん、これぐらいがちょうどいい長さかな」
「な、何を言って……」
「じゃあ、行きますよ!!」


木刀の柄の部分を放り投げると、ナイは刃の部分を掴み、ちょうど「短剣」程度の大きさになった木刀を逆手に構える。刃物の類はナイは旋斧や短剣ぐらいしか使いこなせず、長剣の類はどうにも苦手だったため、敢えて木刀を折って短剣程度の大きさへと変えたのだ。

先日は長剣を使う機会もあったが、やはり子供の頃から短剣を扱っているので刃は短い方が使いやすく、短剣を逆手に持ち替えたナイはコウの元へ駆けつける。


(まずいっ!?)


正面から接近してきたナイに対してコウは本能的に防御を構えると、その判断は間違っておらず、ナイはコウへ向けて跳躍を行う。


「はああっ!!」
「くっ!?」


迫りくるナイに対してコウは咄嗟に木刀を構えた瞬間、二人の木刀が重なり合い、その衝撃でコウの身体は地面に倒れ込む。


「ぐはぁっ!?」
「おっとと……大丈夫ですか?」


コウは派手に後ろに倒れたのに対し、ナイは少し離れた場所に着地すると、心配するようにコウへ振り返る。コウの方は背中の痛みを耐えながらも自分の木刀に視線を向け、先の衝撃で真っ二つに折れてしまった。

一方でナイが身に付けていた木刀の方も砕けてしまい、原型すら残していなかった。ナイはもうただの木片と化した木刀を見た後、コウへと振り返り、率直に告げた。


「あの……武器が使えなくなったんでもう止めませんか?」
「……あ、ああ、そうしておこう」


これ以上に自分のプライドが砕かれる前にコウはナイの提案を受け入れるしかなかった――




――その後、コウは落ち込んだ様子で背中を摩りながら屋敷へと立ち去り、その様子をナイは見送る。勝負は結局は互いの武器が使えなくなったので中断されたが、状況的に考えてもナイの優勢勝ちである。

子供と思って油断していた相手に圧倒的な力の差を思い知らされたコウは大人しく実家に帰ると思われ、これでもう勝負をしに来ないだろうとナイは思っていたが、この日を境に思いもよらぬ事態に陥ってしまう。


「頼もう!!ここに赤毛熊を倒した少年がいると聞いた!!どうか手合わせを願いたい!!」
「ここに赤毛熊を倒した剣士がいるという話は本当ですか!?ぜひ、うちの商会の護衛として雇わせて頂きたい!!」
「私は吟遊詩人です!!赤毛熊を倒した時の武勇伝を是非お聞きしたい!!この街中、いや他の街でも知らせましょう!!」


コウを倒した日の翌日からドルトンの屋敷にナイを尋ねる者が激増し、どうやら彼を倒した一件が何故か街中に広がったらしく、ナイの存在が遂に世間にも知られてしまった――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...