貧弱の英雄

カタナヅキ

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逃れられぬ運命

第142話 ナイVSガロ

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(重いっ!?なんて一撃だ!!)


ガロが繰り出した攻撃の威力は巨人族のゴンザレスの一撃にも劣らない。それでもナイは反射的に剛力を発動させて弾き返す。


「このぉっ!!」
「ぐがっ!?」


ガロの双剣をナイは弾き返すと、急いでビャクの背中から下りて彼を庇うように旋斧を構える。それに対してガロは地上へ着地すると、忌々し気な表情を浮かべる。


「ぐぅううっ……!!」
「ガロ……さん、落ち着いて!!俺は敵じゃない!!」
「駄目だ、逃げろナイ!!その状態のガロは老師以外の人の言葉は聞かない!!」
「がああっ!!」


ゴンザレスはナイに逃げる様に促すが、ガロの方は既にナイを敵と定め、円を描くようにナイの周囲を走り回る。超高速に動き回るガロを目で追うのがやっとであり、ナイは次に攻撃を仕掛けられたときに反応できるか分からなかった。

コボルト亜種以上の移動速度と身軽さでガロはナイの周囲を駆け巡り、一方でナイの方は見逃さない様に視線だけは彼から外さない。一瞬でも視線を逸らせばナイは命がないと思った。


(頼む、上手く発動してくれ……!!)


遂にガロが痺れを切らしたのかナイに向けて飛び掛かってきた瞬間、ここでナイは「迎撃」を発動させ、彼の動きに合わせて自分も腕を振り抜く。


「うがぁああっ!!」
「このぉっ!!」


ガロが飛び込んできたのを見計らい、ナイは旋斧をその場に置いて左腕に装着した闘拳と、右腕に装着したゴマンの盾を構える。その結果、ガロが振り落とした双剣は闘拳と盾に衝突した。

ナイの左腕は闘拳に守られているとはいえ、剣を受け止めた際に左腕に強い衝撃が走る。しかし、右腕に装着した盾は衝撃を受けた瞬間に強烈な衝撃波を発生させ、ガロが手にしていた剣を弾き飛ばす。


「があっ……!?」
「ぐあっ……!?」
「ウォンッ!?」
「ナイ、大丈夫か!?」


ガロは空中で体勢を崩して地面に転がり込むと、ナイの方も左腕を抑えて膝を着き、その様子を見ていたゴンザレスは駆けつける。盾の衝撃で吹き飛ばされた際にガロは正気を取り戻したのか、彼は頭を抑えて周りを見渡す。


「ぐっ……な、何だ?何が起きたんだ?」
「ガロ、お前……!!」
「待って!!今は急いでここを離れないと……」
「グルルルッ……!!」


ゴンザレスは負傷したナイの身を案じてガロを睨むが、そんな彼をナイは抑えて急いで離れる様に提案する。ここは敵地であり、ナイ達は多数の魔物に取り囲まれた状況である事に変わりはない。



――グゥウウウッ……!!



魔物達は牙を剥き出しにしてナイ達を睨みつけ、既にナイ達の姿も見えていた。どうやら先ほどの攻防でナイも服の下に身に付けていた魔除けの護符が敗れて効果を失っていた。

ゴンザレスの魔除けの護符は無事だが、彼は自らの手で魔除けの護符を引き剥がし、姿を晒す。このままでは姿が見えるナイとガロに魔物が集中するため、彼も敢えて姿を晒して魔物の注意を引く。


「ナイ、ガロ……それにビャクといったな?ここは俺に任せろ、お前達だけでも先に逃げるんだ」
「ゴンザレス……?」
「ば、馬鹿野郎……お前だけでどうにかできるかよ」
「ウォンッ!!」


ゴンザレスは皆を庇うように両腕を左右に伸ばすが、それを見たガロが彼を止めようとした。ナイもこの状況で仲間を置いていけるはずがなく、そもそもナイの場合はもう誰かを犠牲にして生き延びるなど御免だった。


(あの時と同じだ……)


ナイはかつて赤毛熊に襲われた時、養父であるアルが自分を囮にしてナイとゴマンを逃がそうとした事を思い出す。あの時のナイは何も出来ず、結局は養父を助ける事はできなかった。しかし、今は違う。

皆を守るためならばナイは自分が魔物達の注意を引き、その間に他の皆を逃がす覚悟はあった。ナイはゴンザレスの横に立って旋斧を構える。


「僕も戦うよ……悪いけど、仲間を置いて逃げたら死んだ爺ちゃんに怒られるからね」
「ナイ……分かった、だが無理をするなよ」
「ま、待て……勝手に決めるな、お前等だけでどうにかなるはずがないだろ!?」
「ビャク!!ガロを連れて先に離れろ!!」
「ウォンッ!?」
「早く行けっ!!」


ナイがビャクに命じると、ビャクは驚いた表情を浮かべるがナイが厳しく言いつけると、ビャクは仕方がないとばかりに倒れ込んでいるガロを咥えて駆け出す。


「ウォンッ!!」
「お、おい待て!!何を勝手に……うわぁっ!?」
「ふうっ……これで全力で戦える」
「迷惑をかけるな……」


ガロを連れたビャクがその場を離れると、これで気兼ねなく戦えると判断したナイはゴンザレスと背中を合わせ、魔物達と向き直る。残された魔物達は完全にナイ達を標的と定め、一斉に襲い掛かってきた。
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