貧弱の英雄

カタナヅキ

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逃れられぬ運命

第129話 久々のレベルリセット

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――翌朝、ナイはドルトンの屋敷の一室にて目覚めると、久々に身体が筋肉痛と脱力感に襲われ、頭を抑えながらもナイはベッドから起き上がる。


「いててっ……久しぶりだな、この感覚」


日付が変わった事でどうやら「貧弱」の効果が発揮したらしく、昨日の時点でナイが倒した魔物から得た経験値で上げた分のレベルがリセットされたらしい。そのせいでナイは半年ぶりにレベルリセットによる影響を味わい、机の上に置いていたイーシャンが渡した丸薬を口に含む。

イーシャン特製の薬草の丸薬は滋養強壮の効果も高く、しばらく休んでいると身体も楽になり、普通に動かせるようになった。ナイは「自然回復」の技能も覚えているので回復力も強く、更に現在は聖属性の魔法を習得してから身体の治りもより早くなっていた。


(昨日は大分魔物を倒したからな、結構レベルが上がってSPも貯まったと思うけど……新しい技能を覚えられないのは残念だな)


現在のナイは水晶の破片をヨウに返却したため、いくらレベルを上げても新しい技能を覚える事はできない。だが、昨夜の内に現在覚えている限りの技能はほぼ全て復活しており、特に問題なく発動できた。


(よし、隠密も無音歩行も気配感知も普通に発動できる……あとは迎撃だけか)


久々に魔物との戦闘を繰り広げたことでナイは勘を取り戻し、戦闘に役立ちそうな技能の殆どは復活した。だが、最も戦闘で役立ちそうな「迎撃」に関してはまだ復活する様子はない。


(早く迎撃が使えるようにならないと……ん?)


身体を軽く解した後、他の者が起きる前にナイは外に出て鍛錬を行おうとした時、窓の外で動く影が存在した。気になったナイは視線を向けると、そこには裏庭の方で鋼鉄製の棍棒で素振りを行う巨人族のゴンザレスの姿が存在した――




――ゴンザレスは毎朝誰よりも早く起きると、棍棒で素振りを1000回行うのが彼の日課だった。他の仲間達が眠っている間もゴンザレスは真面目に鍛錬を行う。


「997、998、999……1000!!」


目標の1000回を達成すると、ゴンザレスは最後に思い切り棍棒を振りかざす。素振りをやり遂げたゴンザレスは汗を拭おうとした時、後ろからナイが近付いていることに気が付く。


「ん?お前は……ナイ、だったか」
「あ、ごめんなさい……邪魔でしたか?」
「いや、気にするな。丁度素振り終わった所だ。」
「素振りは……?」


ゴンザレスの言い回しにナイは不思議に思うと、ゴンザレスは額の汗を拭うと棍棒をその場に降ろし、今度は腕立て伏せを開始する。素振りを1000回も終えた後に腕立て伏せを同じく1000回行う、こちらも彼の日課だった。

棍棒を下ろして今度は腕立て伏せを始めたゴンザレスを見てナイは呆気に取られるが、彼を見て自分もそういえば昔はこんな風に朝起きたら鍛錬と称してアルから薪割りをやらされていた事を思い出す。子供の頃はナイは筋力と体力を身に付けるため、色々とアルに鍛えられた事を思い出す。


(そういえばここ最近は碌に身体を鍛える事もなかったな……)


陽光教会ではナイは身体を鍛える必要はなく、せいぜい建物内の掃除や花壇の世話や料理の手伝いぐらいしかしていない。他にも魔法の練習をしていた事もあったが、村で暮らしていた時と違って肉体鍛錬は行っていなかった。


(身体が訛らない様にこれからはちゃんと鍛えないとな……よし!!)


鍛錬に集中するゴンザレスを見てナイも負けてはいられないと思い、一旦部屋に戻るとナイは装備を整えて裏庭へと戻る。まずはゴンザレスに倣って素振りを行おうと旋斧を握りしめ、旋斧を振り下ろす。


「ふうっ……やあっ!!」
「っ……!?」


ナイは旋斧を握りしめ、剛力を発動させた状態で振り下ろす。だが、ここで勢いあまってナイは地面の上に刃を叩きつけてしまい、軽い衝撃が広がって腕立て伏せを行っていたゴンザレスは目を見開く。


(あ、しまった……つい、いつもの調子でやっちゃった)


地面に刃がめり込んだ旋斧を見てナイは慌てて引き抜き、村に暮らしていた頃はナイは赤毛熊を倒すため、山の中にある岩を利用して鍛錬を行っていた。

鉄の塊のような肉体の硬度を誇る赤毛熊を倒すため、ナイは一撃で岩を破壊できる程の力を得るために毎日山に登っては旋斧で岩を叩き込んでいた。常軌を逸した特訓ではあったが、そのお陰でナイはレベル1でありながら巨岩をも一撃で破壊する程の腕力を得た。

人間離れした腕力を持つナイを見てゴンザレスは腕立て伏せを中断し、ここで彼はナイが昨夜に自分の一撃を受け止め、あろう事か弾き返した事を思い出す。その事を覆い出したゴンザレスはナイに対して俄然興味を抱き、鍛錬を中断して話しかける。
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