貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
113 / 1,110
逃れられぬ運命

第113話 下水道の異変

しおりを挟む
「――やっぱりあった、ここからなら下水道に入れそうだ」


ナイは下水道に繋がる場所を探すと、路地裏の方にて地下に繋がる梯子を発見した。目立たない場所に存在したので探すのに苦労したが、ここでナイは梯子の傍に魔物の足跡を発見する。


(やっぱり魔物はここから出てきたみたいだ。あいつら下水道を通って入ってきたのか……待てよ、という事は地下にはまだ魔物がいるのかな?)


下水道から魔物が街に侵入してきたのであればまだ地下に魔物が残っている可能性も存在し、もしも下水道を通っていくのであれば慎重に進まなければならない。ナイは他の人間に気付かれる前に梯子を下りていく。

下水道から魔物が侵入してきた事は兵士は知らない様子だったが、流石に子供のナイでも気付いたのに他の人間全員が気づいていないとは考えにくい。この出入口は閉鎖されていないが、頭が切れる人間ならば既に魔物の侵入経路は見抜いているだろう。


(結構深いな、気を付けないと……)


梯子を下りたナイは下水道の様子を伺い、通路内は薄暗くてよく見えないが水が流れる音は聞こえた。ここでナイは掌を翳すと、回復魔法の応用で掌に光を灯す。


「よし、これぐらいの光なら大丈夫かな……」


回復魔法は肉体に負担が掛かるので本来は控えるべきだろうが、緊急事態なので体力が尽きる前に迅速に行動して下水道を抜けることにした。


「よし、これなら先に進めそうだな……それにしても下水道って、汚い場所だと思っていたけど全然臭いがしないな……どうしてだろう?」


下水道の知識はアルから聞いた事があるが、実際に訪れてみると彼が聞いていたよりも汚い場所とは思えず、悪臭も全く感じない。その事に不思議に思ったナイは床を調べてみると、床の方に何か埋め込まれている事に気付く。


「何だろう、この茶色の大きな石……いや、水晶玉かな?」


下水道の通路の床には茶色の水晶玉が存在し、不思議に思ったナイは屈んでみると、ここで彼は水晶玉から嫌な臭いを感じとる。慌ててナイは鼻を抑えて離れると、臭いは全く感じなくなった。


「臭っ!?何だこれ……もしかして、嫌な臭いはこれで吸い取っているとか?」


調べた限りでは茶色の水晶玉が下水道内の臭気を吸収しているようであり、この水晶玉のお陰で通路内には臭いは充満せず、あまり汚れていない様子だった。


(これって……もしかして魔石という奴かな?魔道具や魔法を使用する際に利用される特殊な水晶とか聞いてたけど……)


ナイは茶色の水晶玉の正体を「魔石」と呼ばれる代物ではないかと考え、魔石の知識に関する知識はナイも噂程度にしか知らないが、魔力を宿した特殊な水晶だと聞いている。

魔法金属の原材料となる鉱石などとは異なり、魔石の類は全て水晶製であり、魔道具の製作の際にもよく利用されるという。魔石は魔法の力の源である「魔力」を宿し、魔法使いは魔石を利用して自らの魔法を強化するという。


(そういえばヨウ先生やイン先生の十字架のペンダントにも小さな水晶が嵌められていたけど、あれも魔石なのかな?)


陽光教会の修道女は十字架のペンダントを身に付けており、彼女達が装備しているペンダントにも小さな魔石が取り付けられる。魔石にも魔法と同じく様々な種類が存在し、彼女達が身に付けている十字架の形をしたペンダントも実は魔道具の一種である。

修道女が身に付けている十字架型のペンダントは聖属性の魔石が取り付けられ、魔石を使用すれば魔法の効果が高まり、更に魔力の消費を抑える事が出来る。ナイも回復魔法は覚えたが十字架のペンダントは渡されておらず、ペンダントを身に付ける事ができるのは正式に陽光教会に所属する人間だけであるため、ナイは装着する事が許されなかった。


(こんな場所にも魔石があるなんて驚いたな……あれ、この足跡、まさか!?)


ナイは床を照らした際に複数の足跡を発見し、その足跡の形を見て人間の物ではない事に気付く。足跡の大きさと形から考えてもゴブリンの物と思われ、やはり魔物は下水道から入り込んできたらしい。


「やっぱりそうだ。奴等は下水道から侵入してきたのか……という事はまだ魔物が残っているかもしれない。気を付けて進まないと……でも、一応は上の人に知らせた方がいいかな?」


魔物の足跡を発見したナイは念のために地上へと引き換えし、兵士や冒険者に魔物の足跡を下水道で発見した事を報告するか悩む。流石にナイ以外の人間も下水道から魔物が入り込んできた事は気づいているかもしれないが、もしかしたら知らない可能性もある。

しかし、ここでナイは地上に繋がる梯子の方から人の声が聞こえてきた事に気付き、不思議に思ったナイは梯子の方を見上げると、兵士達の声が聞こえてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...