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逃れられぬ運命
第105話 丸太
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「丁度いいのがあるな……」
「え、君……何をする気だ!?」
「グギィッ!?」
ホブゴブリンが数匹がかりで持ち上げた丸太を見下ろしたナイは手を伸ばす。先ほどの攻撃で半分に切り裂かれたとはいえ、それでも普通の人間の子供ならば持ち上げられる重量ではない。
しかし、地面に落ちた丸太を手にしたナイは気合を込め、この時に「剛力」を発動させようとした。何となくではあるが、今の自分なら剛力を発動する事が出来ると確信を抱く。
(大丈夫だ……今ならきっとできる)
ナイは力を込めると徐々に丸太が持ち上がり、遂に剛力を発動させる事に成功する。ホブゴブリン達はたった一人で丸太を持ち上げたナイに驚愕の表情を浮かべるが、そんな彼等にナイは丸太を振りかざす。
「喰らえっ!!」
『グギャアアアッ!?』
『嘘ぉっ!?』
丸太をナイが全力で振り払うと、ホブゴブリン達は逃げるのも間に合わずに吹き飛ばされた。その光景を見ていた屋敷の人間は呆気に取られるが、一方でナイは勢いあまって危うく転びそうになる。
「おっとと……やっぱり、持ちにくいな」
流石に丸太を振り回すのは無理があり、用事を終えると丸太を床に置く。殴りつけられたホブゴブリン達は気絶したのか地面に倒れたまま動かない。
これで邪魔者を排除したナイは改めて屋敷へ振り返ると、唐突に現れてホブゴブリンを蹴散らした子供に対して屋敷の人間は警戒心を抱く。
「な、何だ君は!?冒険者なのか!?」
「おい、待て……あの子、もしかして会長に懐いていた村の子供じゃないか?」
「え?あ、言われてみれば確かに……もしかして、ナイ君か!?」
「はい!!皆さん、お久しぶりです!!」
ナイの事を覚えていた人間もいたらしく、慌てて屋敷の中に隠れていた者達は門を開いて迎え入れてくれた。ナイは屋敷の敷地内に入ると、彼等からドルトンの居場所を尋ねる。
「あの、ドルトンさんはここにいますか!?」
「会長か……ああ、ここにいるぞ」
「本当ですか!?」
ドルトンが屋敷にいるという言葉を聞いてナイは安堵するが、すぐに他の人間達の顔色が悪い事に気付いて嫌な予感を抱く。
「ドルトンさんは今どこに!?」
「今は屋敷の中で休んでいる。治療を受けているが……意識は失っている」
「医者?それって……イーシャンさんの事ですか?」
「ああ、そうだ。ここで話すより実際に会った方がいい……おい、誰かこの子を連れて行ってやれ」
ナイはこの街で暮らす医者と言われればイーシャンしか心当たりはなく、彼もこの屋敷にいるのかと驚く。商会の護衛を任されている兵士はとりあえずはナイを屋敷へ案内する事にした――
――ドルトンの屋敷に訪れたのはナイは一度しかないが、前と比べて屋敷内の人間の雰囲気は暗く、誰もが沈痛な表情を浮かべていた。
街に魔物が侵入してきたのだから皆が不安に思うのは仕方ない事かもしれないが、彼等が追いつめた表情をしているのは魔物のせいだけではない、この屋敷の主が危機に晒されているからである。
ナイはドルトンの部屋に尋ねると、彼は顔面に包帯を巻いた状態で横たわっており、意識を失っているのかナイが部屋に入ってきても反応もしない。そしてドルトンの傍にはイーシャンが控えていた。
「イーシャンさん……」
「お前は……ナイか!?久しぶりだな、またでかくなったな……いや、そんな事よりも無事で良かった」
「あの……ドルトンさんの容体は?」
イーシャンは久しぶりに遭遇したナイに驚くが、ナイの方は横たわっているドルトンに視線を向け、彼が今はどのような状態なのかを尋ねる。すると、イーシャンは言いにくそうな表情を浮かべ、やがて意を決したように告げる。
「正直に言えば……あまり良い状態とは言えない。こいつも年だからな、肉体の回復機能が衰えている」
「そんな……何処を怪我したんですか!?」
「身体中、あちこちをやられたんだ。だが、治療自体は終わっている。あとはこいつの精神力次第だ……意識が戻れば希望はある」
「ドルトンさん!!目を覚まして、ナイです!!」
ナイは必死にドルトンに呼び声を掛けるが、ドルトンは僅かに身体を震わせた程度でそれ以上の反応を示さない。そんなナイに対してイーシャンは彼の肩を掴み、首を振る。
「安静にさせてやれ。今はこいつを休ませる必要がある」
「そんな……」
「焦る気持ちは分かるが、それよりもお前にはやるべき事があるだろう」
「やるべき事……?」
この状況でナイは自分に何が出来るのかとイーシャンを振り返ると、イーシャンは部屋の隅に置かれている木箱を指差す。いったい何だと思いながらもナイは木箱の中身を確認すると、そこには予想外の代物が収納されていた。
「これは……!?」
「こいつは気絶する前、もしもお前さんが来たらそいつを渡す様に言われてたんだよ」
木箱の中を開くと、そこにはナイが半年前にドルトンに渡した装備品の一式が揃えられており、新しく打ち直されたのか刃毀れ一つも残さずに修復された旋斧も保管されていた。
「え、君……何をする気だ!?」
「グギィッ!?」
ホブゴブリンが数匹がかりで持ち上げた丸太を見下ろしたナイは手を伸ばす。先ほどの攻撃で半分に切り裂かれたとはいえ、それでも普通の人間の子供ならば持ち上げられる重量ではない。
しかし、地面に落ちた丸太を手にしたナイは気合を込め、この時に「剛力」を発動させようとした。何となくではあるが、今の自分なら剛力を発動する事が出来ると確信を抱く。
(大丈夫だ……今ならきっとできる)
ナイは力を込めると徐々に丸太が持ち上がり、遂に剛力を発動させる事に成功する。ホブゴブリン達はたった一人で丸太を持ち上げたナイに驚愕の表情を浮かべるが、そんな彼等にナイは丸太を振りかざす。
「喰らえっ!!」
『グギャアアアッ!?』
『嘘ぉっ!?』
丸太をナイが全力で振り払うと、ホブゴブリン達は逃げるのも間に合わずに吹き飛ばされた。その光景を見ていた屋敷の人間は呆気に取られるが、一方でナイは勢いあまって危うく転びそうになる。
「おっとと……やっぱり、持ちにくいな」
流石に丸太を振り回すのは無理があり、用事を終えると丸太を床に置く。殴りつけられたホブゴブリン達は気絶したのか地面に倒れたまま動かない。
これで邪魔者を排除したナイは改めて屋敷へ振り返ると、唐突に現れてホブゴブリンを蹴散らした子供に対して屋敷の人間は警戒心を抱く。
「な、何だ君は!?冒険者なのか!?」
「おい、待て……あの子、もしかして会長に懐いていた村の子供じゃないか?」
「え?あ、言われてみれば確かに……もしかして、ナイ君か!?」
「はい!!皆さん、お久しぶりです!!」
ナイの事を覚えていた人間もいたらしく、慌てて屋敷の中に隠れていた者達は門を開いて迎え入れてくれた。ナイは屋敷の敷地内に入ると、彼等からドルトンの居場所を尋ねる。
「あの、ドルトンさんはここにいますか!?」
「会長か……ああ、ここにいるぞ」
「本当ですか!?」
ドルトンが屋敷にいるという言葉を聞いてナイは安堵するが、すぐに他の人間達の顔色が悪い事に気付いて嫌な予感を抱く。
「ドルトンさんは今どこに!?」
「今は屋敷の中で休んでいる。治療を受けているが……意識は失っている」
「医者?それって……イーシャンさんの事ですか?」
「ああ、そうだ。ここで話すより実際に会った方がいい……おい、誰かこの子を連れて行ってやれ」
ナイはこの街で暮らす医者と言われればイーシャンしか心当たりはなく、彼もこの屋敷にいるのかと驚く。商会の護衛を任されている兵士はとりあえずはナイを屋敷へ案内する事にした――
――ドルトンの屋敷に訪れたのはナイは一度しかないが、前と比べて屋敷内の人間の雰囲気は暗く、誰もが沈痛な表情を浮かべていた。
街に魔物が侵入してきたのだから皆が不安に思うのは仕方ない事かもしれないが、彼等が追いつめた表情をしているのは魔物のせいだけではない、この屋敷の主が危機に晒されているからである。
ナイはドルトンの部屋に尋ねると、彼は顔面に包帯を巻いた状態で横たわっており、意識を失っているのかナイが部屋に入ってきても反応もしない。そしてドルトンの傍にはイーシャンが控えていた。
「イーシャンさん……」
「お前は……ナイか!?久しぶりだな、またでかくなったな……いや、そんな事よりも無事で良かった」
「あの……ドルトンさんの容体は?」
イーシャンは久しぶりに遭遇したナイに驚くが、ナイの方は横たわっているドルトンに視線を向け、彼が今はどのような状態なのかを尋ねる。すると、イーシャンは言いにくそうな表情を浮かべ、やがて意を決したように告げる。
「正直に言えば……あまり良い状態とは言えない。こいつも年だからな、肉体の回復機能が衰えている」
「そんな……何処を怪我したんですか!?」
「身体中、あちこちをやられたんだ。だが、治療自体は終わっている。あとはこいつの精神力次第だ……意識が戻れば希望はある」
「ドルトンさん!!目を覚まして、ナイです!!」
ナイは必死にドルトンに呼び声を掛けるが、ドルトンは僅かに身体を震わせた程度でそれ以上の反応を示さない。そんなナイに対してイーシャンは彼の肩を掴み、首を振る。
「安静にさせてやれ。今はこいつを休ませる必要がある」
「そんな……」
「焦る気持ちは分かるが、それよりもお前にはやるべき事があるだろう」
「やるべき事……?」
この状況でナイは自分に何が出来るのかとイーシャンを振り返ると、イーシャンは部屋の隅に置かれている木箱を指差す。いったい何だと思いながらもナイは木箱の中身を確認すると、そこには予想外の代物が収納されていた。
「これは……!?」
「こいつは気絶する前、もしもお前さんが来たらそいつを渡す様に言われてたんだよ」
木箱の中を開くと、そこにはナイが半年前にドルトンに渡した装備品の一式が揃えられており、新しく打ち直されたのか刃毀れ一つも残さずに修復された旋斧も保管されていた。
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