貧弱の英雄

カタナヅキ

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逃れられぬ運命

第96話 回復魔法「ヒール」

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「酷い……この傷、魔物にやられたんですか?」
「う、うむ……儂を襲った魔物は刃物を持っていてな。馬車に乗り込んできたときに切られてな」
「すぐに治してあげますね」
「治す?どうやって……ぬおっ!?」
「癒しの光よ、この者の傷を癒したまえ……ヒール!!」


ナイは傷口に掌を翳すと、意識を集中させるように目を閉じた。そして彼は小声で何か呟いた瞬間、掌から光が放たれるとドルトンの腕の怪我を照らす。

光を浴びた途端にドルトンの腕も光輝き、すぐに傷口に変化が起きる。傷口が徐々に塞がり始め、皮膚の色も健康的になり、わずか数秒ほどでドルトンの腕の怪我は跡形もなく消え去る。その様子を見たドルトンは驚愕し、一方でナイの方は額の汗を拭う。


「ふうっ……良かった、これで大丈夫です」
「ナイ、これは……まさか、回復魔法か!?」
「はい、でも他の人には内緒にしてください」


ドルトンはナイが自分の怪我を治した方法を「回復魔法」だと悟り、動揺を隠しきれない。あのナイが回復魔法を覚えていた事を彼は初めて知り、何時から彼が回復魔法を扱えるようになったのかを問う。


「ナイ、お前はいつから回復魔法が扱えるようになったのだ?」
「ここへ来たばかりの頃、新しい儀式を受けたんです。その時にどうやら俺には聖属性の魔法の適性があったみたいで……」
「そ、そうだったのか……」


三か月前、ナイが陽光教会にて保護された後、彼はまた儀式を受けた。儀式といっても子供の頃に受けた「ステータス」を習得するための儀式ではなく、今回はナイに魔法の適性があるかどうかを調べるための儀式だった。

この世界では魔法を扱う人間は必ずや儀式を受ける必要があり、魔法といっても複数の属性や種類が存在する。適性が高い属性の魔法ほど極めやすく、逆に適性が低い属性の魔法は扱いにくい。

ナイの場合は魔法の適性を確かめるための儀式を行った結果、彼は「聖属性」の魔法の適性が非常に高い事が判明する。聖属性は主に回復魔法を主体とした属性魔法であり、この聖属性の適性が高いほどに回復効果の高い回復魔法を扱える。


「ヨウ先生によると僕は聖属性の適性が高いから回復魔法を覚えておいた方がいいと言われて、それで三か月前に回復魔法の基礎を教えてもらったんです」
「何と……そういう事だったのか」
「最初は萎れた花を元気にする練習から始めたんですけど、中々上手くいかなくて……でも、練習していくうちに魔力を操る感覚も覚える事が出来ました」


回復魔法は自分の体内の魔力を外部の生物に送り込み、その魔力を利用して肉体の再生機能を強化させ、怪我の類を治す魔法である。ナイの場合は回復魔法の基礎しか教わっていなかったが、毎日の練習を繰り返していくうちに自分の魔力を操作する技術を学ぶ。



――最初の頃はナイは枯れかけている植物に回復魔法を施し、それを元気にさせるのが練習方法だった。ナイは花壇の世話を任されていたため、枯れかけている植物を見かければ回復魔法を施し、元気にさせようとした。

初めて使った時は体内の魔力の操作が上手く行かず、花を何度も枯れさせてしまったが、繰り返して練習していくうちに魔力を制御する術を身に付けていく。

ナイが育てた花壇の花々が美しく育ったのはこの回復魔法の成果でもあり、ナイが育てている花壇の花が枯れない理由はナイが定期的に回復魔法を施して花たちに元気を分け与えているからである。

人に対して回復魔法を使ったのは実はドルトンが初めてではあるが、やはり小さな植物を元気にさせる事よりも、人間のような大きい生物の怪我を治す方が魔力を消耗しやすい。しかし、無事にナイはドルトンの怪我を治す事に成功して安堵する。


(回復魔法は自分には使えないけど、他の人の役に立てるのなら覚えておいて本当に良かったな……)


残念ながら回復魔法の類は自分自身の怪我を治す事は出来ず、あくまでも他の生物の治療にしか扱えない。しかし、他の人間が扱う回復魔法の場合は別であり、回復魔法を習得している人間でも他の人間の回復魔法ならば受け付けられる。

また、回復魔法を覚える以外にも利点はあり、聖属性の適性が高い人間は普通の人間よりも再生能力や運動能力が高いらしく、そのお陰でナイも以前と比べて怪我をした時の傷の治りが早くなっていた。


(こうやってまた人の役に立てるなら……回復魔法を覚えておいてよかったな)


こんな自分でも人の役に立てた事にナイは喜びを感じ、そんな彼を見てドルトンは複雑な感情を抱く。彼は元々、ナイを陽光教会へ預けるのは反対だった。教会に保護されればもうナイは一生をこの街で過ごさなければならず、気軽に外へ出向く事も許されない。

まだ子供であるナイがこれからの人生を教会で過ごす事にドルトンは不憫に思い、彼に自分の元へ来ないのか説得した事もある。しかし、ナイの答えは変わらず、もう誰にも迷惑を掛けたくはないナイはドルトンの申し出を断った。
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