貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
87 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年

第87話 因縁の再会

しおりを挟む
――ウガァアアアアッ!!


森中に響き渡る程の咆哮を放ちながら赤毛熊は渓谷に流れる川の中に浸かるナイとビャクに対し、自分も崖を滑り落ちるように移動する。身体が水中に浸かった状態ではまともに戦えないと思ったナイはビャクに逃げるように告げる。


「まずい……引き返すぞ、ビャク!!」
「ウォンッ!?」


慌ててナイとビャクは身体を反転させ、川の流れに逆らいながら元の場所へ戻ろうとするが、既に赤毛熊は崖を降りて川の中に入り込む。普段から餌を得るために川を泳ぐ事もあるのか、赤毛熊は川の中でも素早く動き、徐々に距離を詰めていく。

このままでは赤毛熊に追いつかれ、川に浸かった状態で戦闘が始まってしまう。川の中で戦うとなればナイ達が不利であり、身体が水に浸かった状態ではまともに動く事もできない。


「ビャク、急げ!!追いつかれるぞ!!」
「ウォンッ……!!」
「ガアアアッ!!」


必死にナイとビャクは川原に向かうが、遂に赤毛熊に追いつかれてしまい、水中で碌に身動きが取れないナイとビャクに大して赤毛熊は爪を振りかざす。


「ウガァッ!!」
「ギャインッ!?」
「ビャク!?」


赤毛熊の爪が遂にビャクの身体に触れ、ビャクは悲鳴を上げながら川の中に倒れ込む。その姿を見てナイは怒りを抱き、咄嗟に赤毛熊に目掛けて刺剣を放つ。


「このっ!!」
「ガウッ!?」


ナイは刺剣を投擲するが、腰まで身体が沈んだ状態では上手く動く事ができず、放り込んだ刺剣も赤毛熊の頬を掠めただけで当てる事は出来なかった。

しかし、刃物を投げつけてきたナイに対して赤毛熊は警戒したように距離を取り、その隙にナイはどうにか川原まで辿り着く。水中から身体を抜け出す事が出来れば十分であり、ナイは背中の旋斧を抜いて構える。


「さあ……勝負はここからだ!!」
「グゥウッ……!!」


武器を手にしたナイに対して赤毛熊は目つきを鋭くさせて向かい合う。赤毛熊の片目はかつてアルの矢によって射抜かれ、現在は隻眼だった。

二年前の時と比べても赤毛熊は体格が更に大きくなっており、恐らくは環境が変化した事によってそれに適応するために肉体も成長したらしく、より恐ろしい存在へと変貌していた。


「ウガアアアアッ!!」
「くっ!?」


赤毛熊はナイへ向けて突っ込むと、それに対してナイは咄嗟に「跳躍」の技能を発動させて横に飛ぶ。その結果、ナイに避けられた赤毛熊は渓谷の岩壁に目掛けて突っ込む。あまりの突進力に岩壁に体当たりした瞬間に派手な土煙が舞い上がる。

赤毛熊は岩石の破片を払いのけながら何事もなかったように振り返り、赤毛熊が突進した箇所は岩壁が砕けて凹んでいた。頑丈な岩の壁に突っ込んでも傷を負うどころか逆に破壊する程の怪力にナイは顔色を青ざめた。


(こ、こいつ……二年前よりも強くなっている!?)


二年前の時点でも驚異的な強さを誇る赤毛熊だったが、更に力を増しているという事実にナイは動揺を隠せない。しかし、もうここから先は引き返すわけにもいかず、ナイは即座に旋斧を地面に突き刺すと、毒瓶と刺剣を取り出す。

毒瓶の蓋を開き、その中に刺剣を突き刺すと数種類の毒草を組み合わせた毒を刃に塗り込む。その様子を見て赤毛熊は本能的に危険を察したのか、ナイが何か行動に移る前に襲い掛かろうとした。


「ガアアッ!!」
「くっ……このっ!!」


迫りくる赤毛熊に対してナイは毒瓶を放り捨てて刺剣を構える。この時にナイは赤毛熊の行動を「観察眼」の技能で捕らえ、久々に「迎撃」の技能を発動させて反撃に移ろうとする。


(これを奴に打ち込めれば……!?)


しかし、いつもならば敵が攻撃を仕掛けた時は勝手に発動する「迎撃」の技能だが、どういう事なのか赤毛熊の攻撃の射程距離に入っても反応できず、咄嗟にナイは跳躍の技能を発動させて赤毛熊の攻撃を躱す。


「うわっ!?」
「ガアアッ!!」


赤毛熊の振り下ろした右腕が地面に叩き込まれ、あまりの破壊力に地面が抉り取られる。その光景を目にしてナイは冷や汗を流し、どうして「迎撃」が発動しなかったのかと戸惑う。


(どうして迎撃が使えないんだ!?)


これまでに迎撃の技能を発動させた時はナイが強く意識せずとも、反撃が可能な状態ならば勝手に発動していた。だが、今回は何故か赤毛熊の攻撃に反応できず、咄嗟に回避行動に移っていなければナイは今頃は殺されていただろう。

迎撃の技能が発動しなかった理由を考え、ここでナイは思い出す。それはこの二年の間は迎撃ののだ。赤毛熊を倒すためにナイは訓練に励むようになってから迎撃を扱う機会が極端に減り、訓練を経て強くなったナイが迎撃を発動させるほどの相手と巡り合う事もなかった。

つまりナイは迎撃の技能を扱う機会が長期間なかったせいで、迎撃の発動が思う様にできなくなった可能性が高い。技能とはあくまでも特殊能力ではなく、技術の才能に過ぎない。どんなに優れた才能を持っていようと、技術を扱う事を怠れば鈍ってしまうのは当然の理だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

処理中です...