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忌み子と呼ばれた少年
第80話 岩をも砕く一撃
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「ふうっ……」
意識を集中させるようにナイは目を閉じると、やがて瞼を開いて目の前に存在する大岩を視界に捉える。そして覚悟を決めた様にナイは勢いよく足を踏み込む。
「はああああっ!!」
あまりに力強く踏み込んだせいで地面に足が付いただけで土煙が舞い上がり、ナイは旋斧を大岩に向けて上段から振り下す。山中に轟音が鳴り響き、岩の破片が周囲に飛び散った。
ナイが振り下ろした旋斧は一撃で大岩の破壊に成功し、大岩が存在した場所は粉々に砕け散った岩の破片だけが散らばっていた。その光景を見届けたナイは旋斧を持ち上げる。
「……やった、のか」
目の前に散らばる岩石の欠片を見てナイは呆然とした表情で呟き、遂に岩を完全に破壊できるほどの腕力を身に付けた事を実感する。訓練を開始してから二年近くが経過しており、ナイは目的を成し遂げた。
以前は両手を使わなければ持ち上げる事ができなかった旋斧だったが、この二年間鍛え続けたお陰でナイは片手で持ち上げる事もできるようになった。二年前と比べても現在のナイは筋力を身に付けており、今ならばどんな物でも切れそうな気がする。
「この力ならきっとあいつに勝てる」
大岩を破壊した事でナイは自分が強くなった事を自覚し、目つきを鋭くさせる。不意に彼は流れている川に視線を向けると、いつの間にか自分の髪の毛が伸びている事に気付く。
(そういえば髪はいつも爺ちゃんに切って貰ってたっけ……意外と爺ちゃん、器用だったからな)
髪の毛が伸びている事にも気づかぬ程にこの二年間は訓練に励んだ。その理由は養父の仇である赤毛熊を討つためであり、ナイは旋斧に視線を向けた。
(……大分無理をさせたな)
毎日岩を切るために利用し続けたため、旋斧の刃はあちこちが刃毀れを引き起こしていた。アルの家系に伝わる家宝であるが、もう限界は近いと思われた。
これ以上に無理をさせれば壊れるかもしれないが、この旋斧以外に今のナイの力に耐え切れる武器等存在せず、ナイは覚悟を決める。
「あいつを倒す」
赤毛熊を倒すために必要な筋力は身に付けた。ならばナイがやるべき事は最後の準備であり、彼は村へ戻るために引き返そうとした時、ここで狼の鳴き声が響く。
「ウォオオンッ!!」
「この声は……ビャクか」
ナイは鳴き声を耳にして振り返ると、川原の上流から近づく影を発見し、その正体がビャクだと知る。二年前と比べてビャクも成長しており、現在では馬とそれほど変わらない大きさにまで成長していた。
二年前に赤毛熊からナイ達を救うために囮になったビャクだったが、無事に森の中で赤毛熊を撒く事に成功し、その後は定期的にナイの元へ訪れていた。今現在は赤毛熊が森に住み着いたので住処を変えて山の中で暮らしている。
「よしよし、お前も随分と大きくなったな……やっぱり魔獣だから成長が早いのかな」
「クゥ~ンッ」
大きくなってもビャクはナイに懐き、彼に甘えるように頭を擦りつける。そんなビャクをナイは優しく撫で回していると、後ろの方から更に聞き覚えのある声が響く。
「お~い!!ナイ、やっぱりここにいたのか!!」
「その声は……ゴマン?」
「ウォンッ!!」
「うわ、びっくりした!?ビャクも一緒にいたのか……お、驚かせるなよ!!」
声がした方向を振り返ると、そこには家宝の盾と大きな斧を背負い込んだゴマンの姿が存在し、ビャクは彼に気付くと嬉しそうに鳴き声を上げた。その声を耳にしたゴマンは驚くが、相手がビャクだと知って安心する。
16才を迎えたゴマンは立派に成長し、現在は大人と一緒に村の見張り役の仕事も任されている。二年前と違ってナイと行動を共にする事はできなくなったが、それでも定期的に彼の元へ訪れていた。
「全く、またこんな場所に来てたのか……探すのに苦労したぞ」
「ゴマンは一人で来たの?途中で魔物に襲われなかった?」
「馬鹿にするなよ、僕だって強くなったんだ!!ゴブリンや一角兎程度にやられるかよ!!」
「そっか……」
ゴマンは誇らしげに胸を張り、この1年の間に彼も魔物との実戦経験を積んでいた。彼の場合は家宝である魔法金属で作り上げられた盾もあるため、村の大人達の中では一番の戦力だった。
彼が装備している盾は外部から受けた衝撃を倍にして跳ね返す性質を持ち合わせているため、それを利用すれば大抵の相手は吹き飛ばす事が出来る。最近ではゴマンも盾以外に斧を扱うようになったため、もう山の中に生息する魔物など相手ではない。
「おっと、忘れるところだった。ナイ、商人さんが村に来たぞ。お前が頼んでいた物が用意できたから、受け取りに来てくれって……」
「ドルトンさんが……分かった、すぐに戻ろう。ビャク、また後でね」
「ウォンッ!!」
ゴマンの話を聞いてナイはすぐに村に引き返す事に決め、ビャクと別れの挨拶を告げる。ナイはゴマンと共に急いで村へと戻り、ドルトンに会う事にした――
意識を集中させるようにナイは目を閉じると、やがて瞼を開いて目の前に存在する大岩を視界に捉える。そして覚悟を決めた様にナイは勢いよく足を踏み込む。
「はああああっ!!」
あまりに力強く踏み込んだせいで地面に足が付いただけで土煙が舞い上がり、ナイは旋斧を大岩に向けて上段から振り下す。山中に轟音が鳴り響き、岩の破片が周囲に飛び散った。
ナイが振り下ろした旋斧は一撃で大岩の破壊に成功し、大岩が存在した場所は粉々に砕け散った岩の破片だけが散らばっていた。その光景を見届けたナイは旋斧を持ち上げる。
「……やった、のか」
目の前に散らばる岩石の欠片を見てナイは呆然とした表情で呟き、遂に岩を完全に破壊できるほどの腕力を身に付けた事を実感する。訓練を開始してから二年近くが経過しており、ナイは目的を成し遂げた。
以前は両手を使わなければ持ち上げる事ができなかった旋斧だったが、この二年間鍛え続けたお陰でナイは片手で持ち上げる事もできるようになった。二年前と比べても現在のナイは筋力を身に付けており、今ならばどんな物でも切れそうな気がする。
「この力ならきっとあいつに勝てる」
大岩を破壊した事でナイは自分が強くなった事を自覚し、目つきを鋭くさせる。不意に彼は流れている川に視線を向けると、いつの間にか自分の髪の毛が伸びている事に気付く。
(そういえば髪はいつも爺ちゃんに切って貰ってたっけ……意外と爺ちゃん、器用だったからな)
髪の毛が伸びている事にも気づかぬ程にこの二年間は訓練に励んだ。その理由は養父の仇である赤毛熊を討つためであり、ナイは旋斧に視線を向けた。
(……大分無理をさせたな)
毎日岩を切るために利用し続けたため、旋斧の刃はあちこちが刃毀れを引き起こしていた。アルの家系に伝わる家宝であるが、もう限界は近いと思われた。
これ以上に無理をさせれば壊れるかもしれないが、この旋斧以外に今のナイの力に耐え切れる武器等存在せず、ナイは覚悟を決める。
「あいつを倒す」
赤毛熊を倒すために必要な筋力は身に付けた。ならばナイがやるべき事は最後の準備であり、彼は村へ戻るために引き返そうとした時、ここで狼の鳴き声が響く。
「ウォオオンッ!!」
「この声は……ビャクか」
ナイは鳴き声を耳にして振り返ると、川原の上流から近づく影を発見し、その正体がビャクだと知る。二年前と比べてビャクも成長しており、現在では馬とそれほど変わらない大きさにまで成長していた。
二年前に赤毛熊からナイ達を救うために囮になったビャクだったが、無事に森の中で赤毛熊を撒く事に成功し、その後は定期的にナイの元へ訪れていた。今現在は赤毛熊が森に住み着いたので住処を変えて山の中で暮らしている。
「よしよし、お前も随分と大きくなったな……やっぱり魔獣だから成長が早いのかな」
「クゥ~ンッ」
大きくなってもビャクはナイに懐き、彼に甘えるように頭を擦りつける。そんなビャクをナイは優しく撫で回していると、後ろの方から更に聞き覚えのある声が響く。
「お~い!!ナイ、やっぱりここにいたのか!!」
「その声は……ゴマン?」
「ウォンッ!!」
「うわ、びっくりした!?ビャクも一緒にいたのか……お、驚かせるなよ!!」
声がした方向を振り返ると、そこには家宝の盾と大きな斧を背負い込んだゴマンの姿が存在し、ビャクは彼に気付くと嬉しそうに鳴き声を上げた。その声を耳にしたゴマンは驚くが、相手がビャクだと知って安心する。
16才を迎えたゴマンは立派に成長し、現在は大人と一緒に村の見張り役の仕事も任されている。二年前と違ってナイと行動を共にする事はできなくなったが、それでも定期的に彼の元へ訪れていた。
「全く、またこんな場所に来てたのか……探すのに苦労したぞ」
「ゴマンは一人で来たの?途中で魔物に襲われなかった?」
「馬鹿にするなよ、僕だって強くなったんだ!!ゴブリンや一角兎程度にやられるかよ!!」
「そっか……」
ゴマンは誇らしげに胸を張り、この1年の間に彼も魔物との実戦経験を積んでいた。彼の場合は家宝である魔法金属で作り上げられた盾もあるため、村の大人達の中では一番の戦力だった。
彼が装備している盾は外部から受けた衝撃を倍にして跳ね返す性質を持ち合わせているため、それを利用すれば大抵の相手は吹き飛ばす事が出来る。最近ではゴマンも盾以外に斧を扱うようになったため、もう山の中に生息する魔物など相手ではない。
「おっと、忘れるところだった。ナイ、商人さんが村に来たぞ。お前が頼んでいた物が用意できたから、受け取りに来てくれって……」
「ドルトンさんが……分かった、すぐに戻ろう。ビャク、また後でね」
「ウォンッ!!」
ゴマンの話を聞いてナイはすぐに村に引き返す事に決め、ビャクと別れの挨拶を告げる。ナイはゴマンと共に急いで村へと戻り、ドルトンに会う事にした――
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