貧弱の英雄

カタナヅキ

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忌み子と呼ばれた少年

第76話 赤毛熊を倒す方法

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――時は遡り、まだアルが片足を失う前に彼は山の中に赴いていた。この日の彼はナイとは共に行動しておらず、一人で狩猟を行っていた。この日はナイの誕生日が近い事もあって彼は大物を仕留めようとする。

野生の熊か猪でも仕留めようと彼は普段はあまり踏み入れない山奥まで赴き、この時にアルは赤毛熊の縄張りと知らずに入ってしまった。赤毛熊は自分の縄張りを侵入したアルを発見すると、容赦なく襲い掛かった。

アルは必死に逃げたが、彼は運悪く渓谷に追い詰められる。この際に赤毛熊はアルに攻撃を仕掛けた時、彼は吹き飛ばされて渓谷に落ちてしまった。



次にアルが目を覚ました時は川辺で倒れており、どうやら運よく助かったようだがここで彼は右足が動かない事に気付く。渓谷に落とされた際に右足から赤毛熊の攻撃を受けて吹き飛ばされたらしく、この日にアルは命と引き換えに右足を失った。



右足を失った時は喪失感が大きく、ナイを筆頭に他の村人からも心配された。だが、アルは義足を作り出して自分で装着し、普通の生活が送れるまでには回復する。

しかし、右足を失ってはもう狩猟に出向く事も出来ず、まだ子供のナイに頼り切るの生活になる事に彼は苦悩する。そこで彼は一度は自ら拒んだ「鍛冶師」として生きていく事を決めた。

アルは狩人として生きていく以上は命の危険や大きな怪我を負う事は覚悟して生きてきたつもりだった。だが、赤毛熊によってアルはその狩人としての人生も奪われ、更には義理の息子の誕生日も碌に祝う事ができなかった。それが何よりも悔しく、アルは赤毛熊を倒す方法を考える。


『野郎だけは絶対に許さねえ……あいつを倒せる武器が必要だ』


山の主である赤毛熊を倒す方法、それは赤毛熊の頑丈過ぎる肉体を破壊する武器が必要だった。まずは刃物の類では赤毛熊との戦闘では効果は厳しく、赤毛熊の肉体は鋼鉄の塊のように硬い。

旋斧などの武器ならばともかく、普通の剣や斧では赤毛熊に攻撃するだけで刃毀れを起こすか、最悪の場合は刃の方が壊れてしまう。刃物が駄目ならば他に有効的な損傷を与える方法、それは槍のように先端部が研ぎ澄まされた武器ならば倒せるかもしれない。

旋斧は形状の性質上、剣でありながら「突き」等の攻撃には向いていない。剣と斧の性質を併せ持つ旋斧は斬る事には特化しているため、赤毛熊との戦闘では相性が悪い。そう考えたアルは赤毛熊を倒すには槍のような武器が必要だと考えた。


『奴を殺せる程の武器……そうなると必要なのはあれか』


ビャクの住処を探している時にアルが森の中に存在する滝の鉱洞を指定した理由、それは彼が鉱洞からミスリル鉱石を回収するためでもあった。魔法金属のミスリルならば鋼鉄よりも硬度も耐久力も上回り、赤毛熊でも倒せる武器を作り出せるかもしれない。

そう考えたアルはミスリル鉱石を回収した後に一心不乱に鍛冶を行い、遂に赤毛熊を倒せる武器が完成した直後、村に負傷したドルトンと彼に従う配下の人間が訪れた。


『た、大変だ爺さん!!村の外で赤毛熊が現れたみたいだぞ!!』
『何だと!?そんな馬鹿な……』
『嘘じゃないって!!商人さんが怪我をしたんだ!!なんとかしてくれよ!!』


ゴマンから事態を聞きつけたアルは急いでドルトンの元へ向かい、幸いにも彼は軽傷だった。配下の者達も深手は負わず、既に村人から治療を受けていた。


『ドルトン!!何があったんだ!?』
『アル……すまない、積荷は全て赤毛熊にやられてしまった』


ドルトンの話によると彼はいつも通りにこちらの村に商売のために訪れようとしたが、この時に山から下りてきた赤毛熊と遭遇し、荷物の類を奪われたという。荷物の中には食料品も含まれていたので赤毛熊はその食料品を食い漁り、何とかその隙にドルトンと彼の配下達は村に逃げる事に成功する。

全員が馬車に襲撃された時に怪我を負ったが、不幸中の幸いは誰も死んでいなかった。アルはナイが調合していた回復薬で怪我人を治療すると、薬を作った張本人のナイの姿がないことに気が付く。。


『おい、ゴマン!!ナイはどうした?』
『え?ナイの奴ならビャクの様子を見るために森に向かって……あっ!?そうだ、あいつはまだ外にいるんだ!!』
『馬鹿野郎!!それを早く言いやがれ!!』
『アル!?何処へ行くつもりだ!?』


まだナイが村に戻っていない事を知ったアルは彼が赤毛熊に遭遇する前に探し出すため、家に戻って武器を整えると飛び出す。急いでいた彼は作り上げたばかりのナイ達の武器を持ち込まず、ゴマンと共に外に飛び出してしまう――





――時刻は現在へと戻り、ボーガンを使用してアルは赤毛熊の注意を引くと、ナイとゴマンに逃げる様に促す。二人だけならば村まで逃げ延びる事は難しくはなく、彼は自らを犠牲にして赤毛熊から子供達だけでも守り通そうとした。
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