40 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年
第40話 商人
しおりを挟む
――商人が訪れる時間帯は朝方から昼頃であるため、ナイが村の出入口に到着した時には既に商人の馬車が停まっていた。基本的にこの村で暮らす人々は自給自足の生活を送っているが、薬や調味料などの類は商人から購入する事が多い。
この村では物々交換が主になっており、そもそもお金を持つ人間は少ない。だからこそ商人が訪れた時は育てている穀物や家畜を渡して商品を得るのが当たり前だった。
「じゃあ、こいつと鶏で交換でいいかい?」
「ああ、いつもすまんのう。うちの子が肉を食わせろとうるさくてな……」
「まあ、育ち盛りの子供さんなら仕方ないさ」
村に訪れる商人は老人であり、人間ではなく獣人族と呼ばれる種族である。頭に獣耳を生やしており、尻尾も生やしている。彼等は人間よりも運動能力が高い事で有名な種族だが、この村に訪れる商人は片足が義足だった。
商人の名前はドルトンと呼ばれ、若い頃は傭兵もやっていたそうだが、片足を失ってからは商人として暮らしているという。実はアルとも古い付き合いであり、この村に彼が訪れるようになったのもアルが頼んだからである。
「ドルトンさん!!」
「おお、そこにいるのはナイか。また大きくなったな……アルの奴は元気にしているか?」
ナイがドルトンに話しかけると朗らかな笑みを浮かべ、ナイの頭を撫でてやる。ドルトンは息子も孫もいないため、アルの養子であるナイの事は可愛がってくれた。だからこそナイはドルトンに頼めば街に連れて行ってくれると確信していた。
「ドルトンさん、爺ちゃんとはまだ会ってないの?」
「ああ、そういえばさっき獲物を捕らえるために罠を仕掛けに行ったと言っていたな……入れ違いになったのか」
「そっか……あの、今日は街へ戻るなら僕も連れて行ってほしいんだけど」
「ん?急に何を言い出すんだ?」
ドルトンはナイの言葉に驚き、確かに彼は村人に頼まれた時は街まで運んだ事は何度かあった。だが、ナイがこんな事を言い出したのは初めての事のため、驚きを隠せない。
「街へ連れて行くのは構わないが、帰りはどうするんだ?街に知り合いはいるのか?」
「大丈夫、爺ちゃんの知り合いのお医者さんがいるから」
「医者……そうか、そういえばイーシャンがいたな」
アルの古い付き合いのイーシャンとはドルトンも顔見知りらしく、彼の元へ会いに行くと聞くと納得したように頷く。それでもナイがどうしてイーシャンの元へ向かうのか気に会ったドルトンは問い質す。
「しかし、どうしてイーシャンの元へ?あいつに何か用事があるのか?」
「えっと、お医者さんに薬草を買い取ってもらうんだ。それと回復薬も貰いたくて……」
「ほう、薬草か。それなら丁度いい、実は儂の方も薬草の在庫を切らしていてな。値段に色を付けるからここで買わせてくれないか?」
「え、でも……」
予想外のドルトンの申し出にナイは戸惑い、薬草ならばかなり多めに持っているが、ここで彼に売り払うとなるとナイの計画が狂ってしまう。
ナイの目的は薬草を売ってお金を得るだけではなく、医者のイーシャンから回復薬の調合方法を学ぶために向かう予定だった。もしも調合方法が難しかったり、時間が掛かるようならばお金を払って回復薬を購入するつもりだったが、ドルトンの申し出に戸惑う。
「アルの奴が回復薬を欲しがっているのか?そういう事なら、実は2本だけ持っているぞ」
「本当に!?」
「ああ、ここにあるぞ」
ドルトンは木箱を取り出すと、中身を見せつける。その中には緑色の液体が入った硝子瓶が収納されており、それを確認したナイは本物の回復薬を初めて見た。
(これが回復薬……これさえあれば、怪我をしてもすぐに治せるのか)
回復薬をドルトンが持っていたのは予想外だったが、彼から回復薬を購入できればわざわざ街に出向く必要はない。回復薬の調合方法はイーシャンから教わっておきたいが、今はこの回復薬をアルに渡すのを優先する。
「ドルトンさん、あの……この薬草と交換してくれますか?」
「ほう、こんなにいっぱい取ってきたのか!?これは中々……いや、かなり上等な薬草だな!!」
ナイは背負っていた荷物から薬草が入った木箱を渡すと、それを確認したドルトンは驚いた表情を浮かべ、木箱に詰められた大量の薬草を見て驚く。
薬草は栽培が難しく、山や森などでしか取れない植物のため、簡単に手に入る代物ではない。だが、木箱にはナイがこれまでに集めた大量の薬草が保管され、更に採取の技能のお陰でどれも良質な代物ばかりだった。
(まさかこれだけの数の薬草を集めていたとは……最近では魔物の被害が多発し、薬草の価値も上がってきている。これは買い時だな)
ドルトンはナイが用意した薬草の質と量を見て満足そうに頷き、すぐに自分の手持ちの回復薬を渡す事にした。しかし、手持ちの回復薬だけでは対価には見合わず、彼のためにもう1品だけ渡しておく事にした。
この村では物々交換が主になっており、そもそもお金を持つ人間は少ない。だからこそ商人が訪れた時は育てている穀物や家畜を渡して商品を得るのが当たり前だった。
「じゃあ、こいつと鶏で交換でいいかい?」
「ああ、いつもすまんのう。うちの子が肉を食わせろとうるさくてな……」
「まあ、育ち盛りの子供さんなら仕方ないさ」
村に訪れる商人は老人であり、人間ではなく獣人族と呼ばれる種族である。頭に獣耳を生やしており、尻尾も生やしている。彼等は人間よりも運動能力が高い事で有名な種族だが、この村に訪れる商人は片足が義足だった。
商人の名前はドルトンと呼ばれ、若い頃は傭兵もやっていたそうだが、片足を失ってからは商人として暮らしているという。実はアルとも古い付き合いであり、この村に彼が訪れるようになったのもアルが頼んだからである。
「ドルトンさん!!」
「おお、そこにいるのはナイか。また大きくなったな……アルの奴は元気にしているか?」
ナイがドルトンに話しかけると朗らかな笑みを浮かべ、ナイの頭を撫でてやる。ドルトンは息子も孫もいないため、アルの養子であるナイの事は可愛がってくれた。だからこそナイはドルトンに頼めば街に連れて行ってくれると確信していた。
「ドルトンさん、爺ちゃんとはまだ会ってないの?」
「ああ、そういえばさっき獲物を捕らえるために罠を仕掛けに行ったと言っていたな……入れ違いになったのか」
「そっか……あの、今日は街へ戻るなら僕も連れて行ってほしいんだけど」
「ん?急に何を言い出すんだ?」
ドルトンはナイの言葉に驚き、確かに彼は村人に頼まれた時は街まで運んだ事は何度かあった。だが、ナイがこんな事を言い出したのは初めての事のため、驚きを隠せない。
「街へ連れて行くのは構わないが、帰りはどうするんだ?街に知り合いはいるのか?」
「大丈夫、爺ちゃんの知り合いのお医者さんがいるから」
「医者……そうか、そういえばイーシャンがいたな」
アルの古い付き合いのイーシャンとはドルトンも顔見知りらしく、彼の元へ会いに行くと聞くと納得したように頷く。それでもナイがどうしてイーシャンの元へ向かうのか気に会ったドルトンは問い質す。
「しかし、どうしてイーシャンの元へ?あいつに何か用事があるのか?」
「えっと、お医者さんに薬草を買い取ってもらうんだ。それと回復薬も貰いたくて……」
「ほう、薬草か。それなら丁度いい、実は儂の方も薬草の在庫を切らしていてな。値段に色を付けるからここで買わせてくれないか?」
「え、でも……」
予想外のドルトンの申し出にナイは戸惑い、薬草ならばかなり多めに持っているが、ここで彼に売り払うとなるとナイの計画が狂ってしまう。
ナイの目的は薬草を売ってお金を得るだけではなく、医者のイーシャンから回復薬の調合方法を学ぶために向かう予定だった。もしも調合方法が難しかったり、時間が掛かるようならばお金を払って回復薬を購入するつもりだったが、ドルトンの申し出に戸惑う。
「アルの奴が回復薬を欲しがっているのか?そういう事なら、実は2本だけ持っているぞ」
「本当に!?」
「ああ、ここにあるぞ」
ドルトンは木箱を取り出すと、中身を見せつける。その中には緑色の液体が入った硝子瓶が収納されており、それを確認したナイは本物の回復薬を初めて見た。
(これが回復薬……これさえあれば、怪我をしてもすぐに治せるのか)
回復薬をドルトンが持っていたのは予想外だったが、彼から回復薬を購入できればわざわざ街に出向く必要はない。回復薬の調合方法はイーシャンから教わっておきたいが、今はこの回復薬をアルに渡すのを優先する。
「ドルトンさん、あの……この薬草と交換してくれますか?」
「ほう、こんなにいっぱい取ってきたのか!?これは中々……いや、かなり上等な薬草だな!!」
ナイは背負っていた荷物から薬草が入った木箱を渡すと、それを確認したドルトンは驚いた表情を浮かべ、木箱に詰められた大量の薬草を見て驚く。
薬草は栽培が難しく、山や森などでしか取れない植物のため、簡単に手に入る代物ではない。だが、木箱にはナイがこれまでに集めた大量の薬草が保管され、更に採取の技能のお陰でどれも良質な代物ばかりだった。
(まさかこれだけの数の薬草を集めていたとは……最近では魔物の被害が多発し、薬草の価値も上がってきている。これは買い時だな)
ドルトンはナイが用意した薬草の質と量を見て満足そうに頷き、すぐに自分の手持ちの回復薬を渡す事にした。しかし、手持ちの回復薬だけでは対価には見合わず、彼のためにもう1品だけ渡しておく事にした。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
かわいそうな旦那様‥
みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。
そんなテオに、リリアはある提案をしました。
「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」
テオはその提案を承諾しました。
そんな二人の結婚生活は‥‥。
※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。
※小説家になろうにも投稿中
※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました
ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。
それは王家から婚約の打診があったときから
始まった。
体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。
2人は私の異変に気付くこともない。
こんなこと誰にも言えない。
彼の支配から逃れなくてはならないのに
侯爵家のキングは私を放さない。
* 作り話です
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが
リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!?
※ご都合主義展開
※全7話
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる