貧弱の英雄

カタナヅキ

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忌み子と呼ばれた少年

第37話 紙一重の勝利

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「ガハァッ……!?」


短剣を突き刺されたホブゴブリンは吐血すると、信じられない表情を浮かべながら倒れた。その一方でナイは身体を震わせながらも自分が倒したホブゴブリンを見下ろして呟く。


「か、勝った……」


絞り出す様にその言葉を告げると、その場にへたり込む。両腕の骨に罅が入り、全身が汚れながらもナイは勝利を掴んだ。だが、折角アルから受け取った短剣を二つとも無駄にしてしまう。

痛む身体を引きずるようにナイは倒れたホブゴブリンに視線を向け、うつ伏せの状態で倒れているために胸元に突き刺さった短剣の回収は難しかった。両腕が碌に動かせない状態では身体を起き上げさせる事もできず、ナイはまずは身体を治す事に専念する。


(このままじゃ、まずい……薬草を見つけないと)


薬草が入った籠は逃げる際に捨ててしまい、落ち場所に拾いに向かうしかない。しかし、先ほどの戦闘でナイも相当に深手を負い、意識を保つのも難しい。だが、こんな状態で気絶すれば命の保証はない。

自分の血とホブゴブリンの血が滲んだ状態では血の臭いに釣られた動物や魔物に襲われる可能性も高く、早急に何とかする必要があった。ナイは周囲を見渡し、観察眼を発動させて何かないのかを探す。


「あっ……薬草」


幸運な事にナイは偶然にも木陰に生えている薬草を見つけ出し、ゆっくりと薬草がある場所へ向かう。だが、途中で足に力が入らなくなってしまい、膝を着いてしまう。


(くそっ……あと、少しなのに……)


薬草までもう少しで手が届く距離でナイは倒れてしまい、意識を失いそうになる。だが、ここで懐の方に痛みを感じ取り、何かが身体に突き刺さったような感覚に陥る。


「いてっ……!!」


服の中に何かが入っている事に気付き、ナイは意識を覚醒させる。鋭い痛みで逆に目が覚めた事でナイは必死に身体を動かすと、遂に薬草に喰らいつく。


「あがぁっ……」


まるで獣になったような気分だが、ナイは薬草に食らいつくと、口の中で咀嚼を行う。口の中に酷い苦味に襲われ、危うく吐きそうになったが、それでも意地でも食らいつく。

本来の薬草は磨り潰して粉薬として飲み込むか、傷口に塗りつける方が効果が高い。だが、状況が状況なためにナイは口の中で薬草を噛み潰し、飲み込む。


(まずい……でも、食べないと死んじゃう)


涙目になりながらもナイは薬草を飲み込み、横になる。徐々にではあるが身体の痛みが和らぎ始め、やがて起き上がれる程に回復した。


「ふうっ……観察眼の技能、覚えおいて本当に良かった」


観察眼がなければナイは薬草をこんなにも簡単に見つけられず、なんとか窮地を脱した。


「いててっ……腕の方も何とかしないと」


流石に薬草をそのまま飲み込むだけでは骨までは治らず、それでも身体の痛みは大分和らいだ。ナイは倒れたホブゴブリンに視線を向け、解体用の短剣の回収は不可能だと察する。

アルから貰った大切な短剣だが、今は一刻も早く離れる必要があった。魔物を倒してレベルを上げるためにこの山へ来たのだが、これほどの大物を2匹も仕留めれば十分な成果だった。


(籠は回収しないと……)


先に倒したホブゴブリンの元にナイは戻り、どうにか山へ戻る前に自分の怪我を治すために行動を開始する――




――しばらく時間が経過すると、どうにかナイは籠を置いた場所へ辿り着き、籠の中から回収した素材の確認を行う。この山には色々な野草が生えており、その中には痛み止めの効果を持つ野草もあった。


「むぐっ……よし、これでしばらくは大丈夫だ」


痛み止めの素材となる野草を口にしたナイは両腕に視線を向け、痛みが治まった事を確認すると、この間に薬草を取り出して石で磨り潰す。腕の骨に罅が入っている状態での作業は激痛を伴ったが、それでも根性で作業をやり遂げる。

ホブゴブリンに投げ飛ばされて生き延びる事が出来たのはナイのレベルが上がったからであり、最初にホブゴブリンを倒した時にナイのレベルが上昇し、肉体が強くなっていた。だからこそ投げ飛ばされた時に奇跡的に生き延びる事が出来た。

レベルが上昇すれば強くなるのは肉体の頑丈さだけではなく、自然回復力も高まる。そのお陰でナイは薬草と痛み止めを口にしただけで普通に動ける程度には回復し、更に回収した薬草を磨り潰して負傷した箇所に塗り込む。


(こうすればもっと治りが早くなるはず……よし、大分動けるようになってきた)


磨り潰した薬草を怪我をした部位に擦り込むと、ナイは身体を自由に動かせるようになり、とりあえずは一安心する。身体を休ませながらもナイは先ほど気絶した時に身体に感じた痛みを思い出し、懐の中に手を伸ばす。


「あっ……そうか、これも持ってきてたのか」


ナイが取り出したのは「水晶の破片」であり、家を抜け出す時に一緒に持ってきていた事を思い出す。先ほど倒れた時にこの破片を服の中に入れていたため、それが偶然にも身体に刺さって意識を覚醒した事を知ったナイは安堵した。
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