貧弱の英雄

カタナヅキ

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忌み子と呼ばれた少年

第34話 レベル上げ

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「――ごめん、爺ちゃん!!今日は遅くなるから!!」
「お、おい!?何処に行くんだ!?」
「夜には帰るから!!」


朝の薪割りと水汲みを終えると、ナイは急ぎ足で外へ飛び出す。街へ向かえば魔物と遭遇する機会もないため、明日に訪れる商人が到着するまでに出来る限りレベルを上げなければならなかった。

先日のゴブリンとの戦闘でナイはレベルが5上がっており、SPを「4」獲得した。レベル1にリセットされてもSPは戻らないため、今日中にレベルを7にまで上げないとならない。


(魔物を多く倒せるとしたら……やっぱり、あそこだ!!)


一人で魔物を倒しに向かうのは危険過ぎるが、アルのためにナイもできる限り強くなりたいと思い、危険ではあるが一人で山へ登る事にした――




――山に到着したナイはアルが傍に居ないだけで不安を抱き、心細くなって帰りたい気持ちも抱く。しかし、目的を果たすために頬を叩いて気合を入れ直す。


(ふうっ……大丈夫、落ち着け。この山にはゴブリンと一角兎以外に魔物はいないんだから)


山の中をナイは移動しながらも魔物の姿を探す。いつもならばアルが傍にいるので心強かったが、今回ばかりは彼には頼れない。

念のためにナイは籠を背負っており、山で取れる素材の回収を行う。観察眼の技能のお陰で昨日と同じように順調に素材は回収できたが、今回の目的はあくまでも魔物である。


(今日中にレベルを7まであげないと……)


ナイがレベルを上げようとしている理由は新しい技能を覚えるためであり、万が一の場合を考えていつでも新技能を覚えておきたいと考えていた。レベルを上げる方法は魔物を倒すか、あるいは経験石を破壊するしかない。

成長期の間は年齢を重ねれば自動的に上がるが、生憎と今回は時間の余裕がない。もう猶予は10日を切っており、明日までにどうしてもレベルを上げる必要があった。


(レベルが低いうちはレベルが上がりやすいらしいし、とりあえずはゴブリンを何体か倒せば十分だと思うけど……)


観察眼を利用してナイは注意深く周囲を観察し、魔物の影を探す。その途中、ナイは山で取れる素材も回収しておき、特に薬草を多く集めて置いた。


(回復薬を作るのにどれだけ必要になるか分からないし、余っても売ればお金になるから多めに持って帰ろう)


山の中を歩き回りながらナイは薬草を多めに回収し、採取の技能の効果で良質な薬草ばかりを集めていく。その途中、遂にナイは魔物の姿を発見した。


「ギギィッ……」
「ギィイッ……」


森の中を歩いていると、ナイはゴブリンの鳴き声を耳にして慌てて近くの木陰に隠れると、木々を潜り抜けながら2匹のゴブリンが森の中を歩いている事に気付く。


(見つけた!!ゴブリンだ……あれ、でも何かいつも見かける奴等と違うぞ?)


ナイが発見したゴブリンはこれまでに彼が見かけたゴブリンとは異なり、普通のゴブリンの一回りや二回りは大きかった。背丈は人間の大人と大差はなく、更に手にしている武器は「石斧」だった。


(あれ、自分で作ったのか……何だか、普通のゴブリンとは雰囲気が違う)


普通のゴブリンは棍棒などの武器しか身に付けないのに対し、今回のゴブリンは自ら武器を制作して装備していた。身体の大きさも雰囲気も普通のゴブリンとは明らかに異なり、ナイは嫌な予感を浮かべる。



――この時のナイの予感は間違ってはおらず、彼の前に現れたのはがのゴブリンではない。ゴブリンの上位種である「ホブゴブリン」と呼ばれる種だった。

大抵のゴブリンは力が弱く、碌に栄養がある物を食べずに育つ。だからこそ大抵のゴブリンは痩せ細っているが、中には過酷な環境に適応するため、肉体をより強靭に進化させる個体も存在する。

ホブゴブリンはゴブリンの中でも生命力が強い個体のみが進化を果たし、普通のゴブリンよりも強靭な筋力と発達した頭脳を持つ。この2体のホブゴブリンは過酷な環境を克服した事により、進化を果たしたゴブリンである。



(こいつら……なにかやばい、近づいたらまずそうな気がする。逃げないと……あっ!?)


ナイは体格が大きい2体のホブゴブリンを見て危険を感じ取り、その場を離れようとした。だが、ここで運悪く足元に落ちていた木の枝を踏んでしまい、音を鳴らしてしまう。


(しまった!?)


木の枝が折れる音が鳴り響き、木陰に隠れていたナイは慌てて身を隠す。だが、音を耳にしたホブゴブリン達は警戒したように音がした方向へ振り返る。


「グギィッ……!!」
「グギャッ!?」


2体のホブゴブリンが音のした方に視線を向け、ナイが隠れている樹木に視線を向ける。この時にナイは籠を背負っていた事が災いし、完全には隠し切れていなかった。

ホブゴブリン達は顔を見合わせると、お互いに頷き合い、樹木の近くにいたホブゴブリンが手にしていた石斧を振りかざす。そして木に向けて石斧を放り込むと、衝撃に衝撃が走った。
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