31 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年
第31話 観察眼の技能
しおりを挟む
「爺ちゃん、あっちの茂みにゴブリンが隠れているよ」
「な、なんだと?」
「しっ……きっと待ち伏せしてるんだよ、気を付けてね」
「お、おう……」
ナイの言葉にアルは驚き、怪しまれないように二人は歩きながら進路方向に存在する茂みに視線を向けると、確かに注意深く観察しなければ分からないがわずかに茂みが揺れていた。
茂みの中に何かが潜んでいる事は間違いなく、相手に悟られないようにアルは腰に装着していた手斧に手を伸ばすと、茂みに向けて投げ飛ばす。
「ふんっ!!」
「ギャウッ!?」
茂みの中で待ち伏せしていたゴブリンの首筋に手斧が刺さり、血を噴き出しながら倒れた。その直後に周囲から他のゴブリンの鳴き声が響き渡り、次々と姿を現す。
「ギギィッ!?」
「ギィイッ!!」
「ギギギッ……!!」
「こいつら、隠れてやがったのか……よく気付いたな」
「爺ちゃん、僕も戦うよ!!」
最初に倒したのを除けば現れたゴブリンの数は3匹であり、それぞれが手に棍棒を手にしていた。それを確認したアルは予備の手斧を取り出すと、ナイも背中の籠を置いて右手に短剣を構える。この際にナイは逆手に短剣を持ち構え、相手の様子を伺う。
観察眼の技能のお陰で隠れている敵の位置を捉えるだけではなく、戦闘中でも相手の動きを注意深く観察し、敵がどのように動くのかを予想する。
「ギギィッ……!!」
「このっ!!」
「うおっ!?」
先頭に立っているゴブリンが動き出そうとした途端、ナイは先手を打って足元に落ちている小石を拾い上げ、相手が動く瞬間に投げ込む。
「ギャウッ!?」
「ギィッ!?」
「ギギィッ!?」
動き出そうとした先頭のゴブリンが小石を受けて怯んだ事により、後から続こうとしたゴブリン達は急に立ち止まった仲間に衝突してしまう。
『ギャンッ!?』
「今だよ、爺ちゃん!!」
「お、おう……おらぁっ!!」
ナイの言葉にアルは頷き、3人まとめて倒れ込んだゴブリン達に対して一気に攻撃を仕掛けた――
――その日の夕方、ナイとアルは山で採取した大量の素材とゴブリンの経験石を手にして戻ってきた。今回は大収穫であり、あの後にナイは鹿や兎を見つけてくれた事で久々に村の人間におすそ分けできるほどの量の肉も確保できた。
「ナイ、今日はお手柄だったぞ!!やっぱりお前の俺の息子だな、狩人の才能がある!!」
「えへへ……でも、今日は偶々だよ」
家に戻ったナイはアルと共に鍋を味わい、今日は久々にご馳走が味わえた。だが、開け放たれた窓から入ってくる冷たい風に二人は身体を震わせ、すぐにアルは窓を閉じる。
「ふうっ……大分寒くなってきたな。もうすぐ秋も終わる、それまでに出来る限りの獲物を狩らないとな」
「でも、森も山も魔物が現れるようになって獲物も減ってきたんでしょ?」
「ああ、正直に言ってこれ以上の狩りは難しいだろうな。俺達だけの分ならともかく、村の人間全員の分まで確保するとなると厳しいな……」
ナイとアルがこの村に暮らせるのは狩猟した獲物を村の人間にも分け与えているからであり、最近は碌に獲物を捕まえられてこない事から不満を抱く者も少なからずいた。だが、魔物のせいで狩猟も思うように上手く行かず、アルも内心では困っていた。
今日は収穫が多い方ではあったが、冬を迎えれば狩猟するのも厳しい環境となり、獲物も多くは狩る事はできない。だからこそ冬を迎える前に村人全員が満足するだけの大物を狩猟する必要があった。
(……ボアを仕留めるしかない、か)
アルは心の中で村から少し離れた場所で出現するようになった「ボア」と呼ばれる魔獣を思い出す(ちなみに魔獣とは獣型の魔物の事を指しており、一角兎も魔獣に属してはいるがゴブリンなどはこれには含まれない)。
ボアは魔獣種の中でも身体が大きく、しかも肉は美味なので人気は高い。普通の猪よりも一回り以上の大きさを誇るため、このボアを狩る事ができれば村の食料問題も解決する。
(この年齢で奴等を仕留める事が出来るか……いや、やるしかない)
この村で暮らすためには狩猟で貢献せねばならず、アルは本格的にボアを倒す方法を考える。そんな彼を見てナイは何か考え込み、自分もアルのために何かできる事はないのかと悩む。
(爺ちゃん、きっとボアを狩ろうとしてるんだ。だからあの斧を手入れをしてるんだ……)
アルがボアを仕留めようとしている事はナイも薄々は勘付いており、この数日の間はアルが家にある斧を磨いている姿をよく見かけた。アルが大物を仕留めようとするとき、彼は必ず同じ斧を使用する。
普段は家の中にある倉庫で保管しているが、数年前に一度だけナイはアルがその斧を使う時を見た事がある。その斧は普通の斧ではなく、そもそも斧というには異質な形状だった。
「な、なんだと?」
「しっ……きっと待ち伏せしてるんだよ、気を付けてね」
「お、おう……」
ナイの言葉にアルは驚き、怪しまれないように二人は歩きながら進路方向に存在する茂みに視線を向けると、確かに注意深く観察しなければ分からないがわずかに茂みが揺れていた。
茂みの中に何かが潜んでいる事は間違いなく、相手に悟られないようにアルは腰に装着していた手斧に手を伸ばすと、茂みに向けて投げ飛ばす。
「ふんっ!!」
「ギャウッ!?」
茂みの中で待ち伏せしていたゴブリンの首筋に手斧が刺さり、血を噴き出しながら倒れた。その直後に周囲から他のゴブリンの鳴き声が響き渡り、次々と姿を現す。
「ギギィッ!?」
「ギィイッ!!」
「ギギギッ……!!」
「こいつら、隠れてやがったのか……よく気付いたな」
「爺ちゃん、僕も戦うよ!!」
最初に倒したのを除けば現れたゴブリンの数は3匹であり、それぞれが手に棍棒を手にしていた。それを確認したアルは予備の手斧を取り出すと、ナイも背中の籠を置いて右手に短剣を構える。この際にナイは逆手に短剣を持ち構え、相手の様子を伺う。
観察眼の技能のお陰で隠れている敵の位置を捉えるだけではなく、戦闘中でも相手の動きを注意深く観察し、敵がどのように動くのかを予想する。
「ギギィッ……!!」
「このっ!!」
「うおっ!?」
先頭に立っているゴブリンが動き出そうとした途端、ナイは先手を打って足元に落ちている小石を拾い上げ、相手が動く瞬間に投げ込む。
「ギャウッ!?」
「ギィッ!?」
「ギギィッ!?」
動き出そうとした先頭のゴブリンが小石を受けて怯んだ事により、後から続こうとしたゴブリン達は急に立ち止まった仲間に衝突してしまう。
『ギャンッ!?』
「今だよ、爺ちゃん!!」
「お、おう……おらぁっ!!」
ナイの言葉にアルは頷き、3人まとめて倒れ込んだゴブリン達に対して一気に攻撃を仕掛けた――
――その日の夕方、ナイとアルは山で採取した大量の素材とゴブリンの経験石を手にして戻ってきた。今回は大収穫であり、あの後にナイは鹿や兎を見つけてくれた事で久々に村の人間におすそ分けできるほどの量の肉も確保できた。
「ナイ、今日はお手柄だったぞ!!やっぱりお前の俺の息子だな、狩人の才能がある!!」
「えへへ……でも、今日は偶々だよ」
家に戻ったナイはアルと共に鍋を味わい、今日は久々にご馳走が味わえた。だが、開け放たれた窓から入ってくる冷たい風に二人は身体を震わせ、すぐにアルは窓を閉じる。
「ふうっ……大分寒くなってきたな。もうすぐ秋も終わる、それまでに出来る限りの獲物を狩らないとな」
「でも、森も山も魔物が現れるようになって獲物も減ってきたんでしょ?」
「ああ、正直に言ってこれ以上の狩りは難しいだろうな。俺達だけの分ならともかく、村の人間全員の分まで確保するとなると厳しいな……」
ナイとアルがこの村に暮らせるのは狩猟した獲物を村の人間にも分け与えているからであり、最近は碌に獲物を捕まえられてこない事から不満を抱く者も少なからずいた。だが、魔物のせいで狩猟も思うように上手く行かず、アルも内心では困っていた。
今日は収穫が多い方ではあったが、冬を迎えれば狩猟するのも厳しい環境となり、獲物も多くは狩る事はできない。だからこそ冬を迎える前に村人全員が満足するだけの大物を狩猟する必要があった。
(……ボアを仕留めるしかない、か)
アルは心の中で村から少し離れた場所で出現するようになった「ボア」と呼ばれる魔獣を思い出す(ちなみに魔獣とは獣型の魔物の事を指しており、一角兎も魔獣に属してはいるがゴブリンなどはこれには含まれない)。
ボアは魔獣種の中でも身体が大きく、しかも肉は美味なので人気は高い。普通の猪よりも一回り以上の大きさを誇るため、このボアを狩る事ができれば村の食料問題も解決する。
(この年齢で奴等を仕留める事が出来るか……いや、やるしかない)
この村で暮らすためには狩猟で貢献せねばならず、アルは本格的にボアを倒す方法を考える。そんな彼を見てナイは何か考え込み、自分もアルのために何かできる事はないのかと悩む。
(爺ちゃん、きっとボアを狩ろうとしてるんだ。だからあの斧を手入れをしてるんだ……)
アルがボアを仕留めようとしている事はナイも薄々は勘付いており、この数日の間はアルが家にある斧を磨いている姿をよく見かけた。アルが大物を仕留めようとするとき、彼は必ず同じ斧を使用する。
普段は家の中にある倉庫で保管しているが、数年前に一度だけナイはアルがその斧を使う時を見た事がある。その斧は普通の斧ではなく、そもそも斧というには異質な形状だった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
かわいそうな旦那様‥
みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。
そんなテオに、リリアはある提案をしました。
「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」
テオはその提案を承諾しました。
そんな二人の結婚生活は‥‥。
※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。
※小説家になろうにも投稿中
※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました
ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。
それは王家から婚約の打診があったときから
始まった。
体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。
2人は私の異変に気付くこともない。
こんなこと誰にも言えない。
彼の支配から逃れなくてはならないのに
侯爵家のキングは私を放さない。
* 作り話です
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが
リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!?
※ご都合主義展開
※全7話
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる