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王国の王女

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――結局、アリアは結婚の話を言い出せずにレオと共に街に向かう。彼女としては20年前に振った相手に今更結婚して欲しいという言葉を言い切れず、彼への罪悪感と忘れかけていた恋心が蘇る。確かに昔と比べるとレオは年齢を重ねたが、それでも彼の魅力は一切衰えておらず、アリアはレオの内面に惚れていた。

アリアは魔王討伐のパーティのメンバーの中でも一番の古株であり、最初は彼女とレオと他に3人の男性が居た。最初の頃は5人で行動していたが、魔王の送り出した刺客に他の3人は殺され、その後に他の仲間たちと巡り合う。つまり彼女は最もレオと付き合いの長い人間ではあるが、20年以上も離れていた事で現在の彼は自分が予想したよりも立派な大人になっていた事に少なからず動揺していた。

昔は自分の弟分のように可愛がっていた相手が、今では死んでしまった自分の父親のように頼りがいのある男性に成長しており、アリアはエルフの自分と人間の彼の寿命の違いに寂しさを覚える。もしも自分が20年前の告白を断らなければ共にアトラス大森林に赴き、彼と共に幸せな家庭を築けたのではないかと考えてしまう。


「どうしたアリア?さっきから俺の顔を見て……」
「い、いや……何でもない」
「そうか、それで何時までここに居られる?」
「そうだな……しばらくはここで宿を取る。あ、もしも良かったらお前の家に世話になれないか?」
「俺の家……」


レオはアリアの唐突な申し出に黙り込み、彼女は流石に厚かましいかと考えたが、この後の彼の返答でアリアはレオが自分に対して現在はどのような感情を抱いているのか確かめられるのではないかと考える。もしも受け入れてくれたのなら自分の事を少しは意識しているのではないかと考えたが、レオは難しい表情を浮かべる。


「悪いが俺は冒険者ギルドに世話になっている。家は既に友人に貸し与えているんだ」
「冒険者ギルド?」
「ああ、俺は現在は冒険者ギルドの職員なんだ。そこで冒険者に剣の指導を行っている。これが意外と面白くてな……」
「ほう、お前が剣の指導を……」


剣の話になると途端に二人とも話が弾みだし、20年前の頃のように距離を縮めて語り合う。どれだけ年齢を重ねようと剣の事になると子供のように楽しそうな表情を浮かべるレオに対し、アリアは少し安心してしまう。やがて二人は街に辿り着くと、門番を行っていた兵士がレオ達の存在に気付いて慌てて駆け寄ってくる。


「あ、レオ様!!お戻りになられたのですね!!」
「どうかしたのか?」
「そ、それが……冒険者ギルドにバルカン王国の使者が訪れました!!」
「バルカン王国……!?」


兵士の言葉にレオとアリアは動揺を隠せず、バルカン王国はレオが最初に仕えていた国家であり、魔王討伐後に立ち去った国でもある。どうして今更王国の人間が訪れた事にレオは疑問を抱くが、すぐにギルドに戻る必要があった。


「すまないアリア、俺はギルドに戻る!!」
「あ、ああ……後で私も顔を出すぞ」
「分かった!!」


レオはその場を走り出し、取り残されたアリアは今日の宿を探すために移動する。出来れば今日一日ぐらいはレオとゆっくりと再会の喜びを味わいたかったが、王国の人間が訪れたのならば仕方がない。


「それにしても王国か……そういえばあの親馬鹿王とマリアは元気にしているのか?」


アリアは20年前に一時期だけ行動を共にした王国の王女のマリアを思い返し、彼女を溺愛していた国王を思い出す。


「そういえばあの国王、レオがマリアと仲が良くなる度に不機嫌そうにしていたな。まさかマリアに触れただけで抜刀して襲い掛かった時は驚いたが……」


昔の事を思い返し、アリアは笑みを浮かべる。マリアは非常に可愛らしい容姿なので他国の王子から人気があったが、父親の国王は彼女を溺愛しており、見合い話を全て断っていた。だが、国王の世継ぎは彼女しか存在せず、もしもマリアが結婚して誰かの子供を授からなければ王国は彼女の代で終わりを迎えてしまう。


「まあ、流石に20年も経過しているからな……マリアも誰かと結婚して幸せな家庭を築いているだろう」


エルフの自分と違い、流石に人間であるマリアが現在も結婚していないとは彼女は思わなかった――





――その一方、冒険者ギルドに光の速さで戻ってきたレオは応接室で国王の使者と対面すると、彼等から予想外の言葉を告げられる。


「お願いします!!どうか、どうかマリア様とご結婚してください!!」
「はあっ……?」
「これは国王様からの書状です!!どうかお読みください!!」


レオは王国の使者達に土下座され、彼等の仕えている王国の王女であるマリアとの結婚を要求される。唐突な彼等の発言に彼は戸惑うが、使者から差し出された国王からの書状を受け取る。その内容は20年前の娘を溺愛していた国王を知っている人間からは信じれない内容であり、レオは激しく動揺した。


『頼む、娘と結婚してくれ。お前以外にマリアは結婚したくないと言うのだ。過去に私がお前に対して仕出かした事は覚えている。しかし、それをどうか水に流して娘と結婚して欲しい。どうか私に初孫の顔を見せてくれ』


手紙の内容に何度もレオは読み返し、過去にマリアと近づいたという理由で「刺客」まで送り込んだ国王が書き記した書状とは思えなかった。
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