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修行の旅

第56話 格の違い

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――ニノの冒険者ギルドに所属するラオの階級は「黄金級」であり、これは上から二番目に高い階級である。黄金級まで上り詰める冒険者は滅多におらず、さらに上の「白金級」にまで至った人間は大陸内では十人もいない。

魔術師であるラオは「地属性」の魔法を得意としており、重力を操作して土砂を操る力を持つ。ニノに所属する魔術師の冒険者の中でも一、二を誇る実力者であり、クロウと同様に年老いても実力は衰えていない。


「ふうっ、少し疲れたな。後の事は任せたぞ」
「え?どういう意味すか?」
「ほれ、そろそろ起き上がるぞ」
「起き上がるって……うわっ!?」
「「アグゥッ……!!」」


ラオに倒されたと思われたトロール二匹が起き上がり、それを見てナイとエリナは驚く。顎が砕ける程の強烈な一撃を受けたのに立ち上がったトロール達に二人は身構える中、その一方でラオは飄々とした態度で言い放つ。


「さあ、お主らの力を見せてもらおうか」
「見せろって……」
「兄貴!!今は爺さんよりもこいつらに集中しましょう!!」


冒険者でもない自分達にトロールの相手を押し付けたラオにナイは戸惑うが、既にエリナは戦闘態勢を整えていた。仕方ないのでナイも魔法の準備を行うと、ボアとビャクが先に攻撃を仕掛けた。


「フゴォオオッ!!」
「ウガァッ!?」
「ウォンッ!!」
「ウギャッ!?」


ボアがトロールの背後から突進を仕掛け、ビャクはもう一匹の足元に嚙り付く。ボアたちのお陰で攻撃を仕掛ける好機を得られ、ナイは右手を構えるとエリナは「弓魔術」の準備を行う。

弓魔術とはエルフが扱う弓技と魔法の力を掛け合わせた戦法であり、エリナは矢を撃つ際に「付与魔法」を施し、風の魔力を矢に纏わせ、敵に狙いを定めて撃ちこめば風の魔力を噴出させる事で攻撃速度を上昇させるだけではなく、ある程度の軌道を変化させる事ができる。これを利用して彼女は矢を的から外す事はなく、トロールの頭に目掛けて矢を放つ。


「はあっ!!」
「アガァッ!?」
「やった!!」


トロールの眉間にエリナの矢が突き刺さり、それを見たナイはトロールを始末したと思った。だが、頭を矢で貫かれたにも関わらずにトロールは激しく暴れ回る。


「ウガァアアアッ!!」
「うわっ!?」
「き、効いてない!?」
「トロールの生命力を舐めるな!!致命傷を負っても命が尽きるまで暴れ続けるぞ!!」


エリナの矢は確実にトロールの頭を貫いたはずだが、最後の力を振り絞って暴れ続けた。この際にボアがトロールの繰り出す拳に殴りつけられる。


「フガァッ!?」
「ウォンッ!?」
「あ、兄貴!!ボア子ちゃんがやばいっす!!」
「そんな名前付けてたの!?」


何時の間にかエリナが名前を付けていた事に驚きながらもナイはボア改めボア子を助けるため、右手に魔力を集中させて攻撃の準備を行う。


(何処を狙えばいい!?)


頭を矢で撃ち抜かれようと暴れるトロールに攻撃を仕掛けても意味があるのかと思ったが、相手を動けなくさせるためなら狙う箇所は「両足」しかなかった。ナイは人差し指と中指に黒渦を形成すると、石弾を二連射してトロールの膝を撃ち抜く。


「これでどうだ!!」
「ウギャッ!?」


両膝を撃ち抜かれたトロールは体勢を崩して倒れ込み、しばらくはもがき続けたが両足を負傷したせいで起き上がる事もできず、やがて力尽きて動かなくなった。


「はあっ、はあっ……しぶとい奴だな」
「ほほう、変わった魔法を扱うな。石を飛ばす魔法という事は儂と同じ地属性の魔法の使い手か?だが、落ち着くにはまだ早いぞ」
「兄貴!!後ろから迫ってます!!」
「えっ!?」


ナイが繰り出した「石弾」を見てラオは興味を抱くが、彼の言う通りにトロールはもう一匹残っており、何時の間にかナイの背後にまで迫っていた。


「ウガァアアッ!!」
「くぅっ!?」


トロールは既に右腕を振りかざしており、それに対してナイは右手を構えて黒渦を作り出す。黒渦の回転力を利用してトロールの繰り出した拳を受け流す。


「このぉっ!!」
「ウガァッ!?」
「ほほう、黒渦をそんな風に扱うとは……」
「お爺さん、さっきからうるさいんですけど!?」


本来は収納魔法を扱う際に利用する「黒渦」を利用してトロールの攻撃をナイが防いだ事にラオは驚くが、エリナはそんな彼に文句を言いながらも弓を構えた。しかし、彼女が動く前にビャクがトロールに迫る。


「ガアアッ!!」
「ウギャッ!?」
「ビャク!?」


ビャクはトロールの首元に噛みつき、首をへし折ろうとする。しかし、トロールは全身が分厚い脂肪で覆われており、ビャクの咬筋力では噛み千切る事ができない。それでも喉元を圧迫されたトロールは苦し気な表情を浮かべ、それを見てナイは右手を構えてトロールの太っ腹に目掛けて「岩砲」を撃ちこむ。


「喰らえっ!!」
「ウゴォッ!?」


トロールの腹に強烈な衝撃が走り、その隙にビャクは首元から離れて地面に着地する。それを見逃さずにエリナは止めの一撃を繰り出す。


「喰らえっす!!」
「ッ――――!?」


頭に矢を受けたトロールは地面に倒れ込み、しばらくの間は激しく痙攣していたが、やがて動かなくなった。どうにかトロール達を倒すと、それを見ていたラオが拍手を行う。


「思ったよりもやるではないか!!中々見応えがあったぞ!!」
「はああっ……本当に見ているだけでしたね」
「ちょっとお爺さん!!どうしてあたし達が戦わないといけないんですか!?そっちの人たちも見てないで少しは手伝ったらどうですか!?」
「「「うっ……」」」


ナイとトロールの戦闘中に他の冒険者は腰を抜かしたまま動けず、結局は何の役にも立たなかった。本来であれば魔物退治を生業とする冒険者が一般人に先を越されるなどあってはならない事態である。

ただ一人だけトロールを圧倒したラオは死骸の元に近付き、ナイが攻撃した箇所を確認した。そして彼の戦闘を見てラオはナイの戦闘法を見抜く。


「ナイといったな?お前の魔法、儂はもう見抜いたぞ。まさか収納魔法を攻撃に利用する魔術師がいるとはな」
「えっ!?」
「そっちの娘は付与魔法で矢に風の魔力を宿して攻撃しておるな」
「嘘っ!?」


ラオの言葉にナイとエリナは衝撃を受け、まさか二、三回魔法を扱う場面を見られただけで自分達の戦法が見抜かれるなど思いもしなかった。そんな二人にラオは意地悪い笑みを浮かべる。


「指先から石を飛ばすのを見た時は儂と同じ地属性の使い手かと思ったが、あれは指先に小さな黒渦を作り出して石を飛ばしていただけだな?極めつけに最後の攻撃で岩を飛ばしていたのを見て確信したぞ」
「そ、そうなんですか……」
「儂程度に見抜かれるようでは二人とも魔術師としてはひよっ子だな……はっはっはっ!!」
「ぐぬぬっ……なんかむかつくっす!!」


あっさりと自分達の魔法を見抜かれた事にナイは衝撃を受け、エリナは悔しく思う。魔術師としての格の違いを思い知らされた気分を味わう。
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