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冒険者の試験

第42話 黒盾

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――翌日の早朝、訓練場にてレノはダガンと向き合う。ダガンは槍を持参しており、正面からレノに目掛けて槍を繰り出す。


「行くぞっ!!」
「は、はい!!」


槍を手にしたダガンが接近するとレノは両腕を構えて魔力を集中させた。ダガンは躊躇なくレノに目掛けて槍を繰り出すが、それに対してレノは掌を握りしめた状態で黒渦を作り出す。


「ここだっ!!」
「ぬおっ!?」


突き出された槍に対してレノは手の甲に作り出した黒渦で受け止めると、槍の刃先が黒渦に突っ込んだ瞬間に弾かれてしまう。ダガンは槍を弾かれた際に体勢を崩し、その隙を逃さずにレノは反対の腕で攻撃を仕掛けた。


「やああっ!!」
「ぐはぁっ!?」


ダガンの腹部に目掛けてレノは攻撃を繰り出し、この際に。今までのレノは掌から作り出した黒渦を移動させていたが、先日の戦闘で魔力を集中させれば掌以外の箇所からも黒渦を生み出せるようになっていた。

黒渦の反射の力を利用してレノは拳を加速させ、隙を生んだダガンの腹部に拳をめり込ませる。ダガンは苦痛の表情を浮かべて地面に膝を着くと、それを見たレノは緊張した様子で話しかける。


「はあっ、はあっ……ど、どうですか?」
「……見事だ。これなら十分に実戦でも使えるだろう」
「本当ですか!?」


新しく編み出した戦法をダガンに試したレノは彼の言葉を聞いて喜び、収納魔法を利用した新しい戦法を思いついた彼にダガンは感心する。


(大した奴だ……前に俺と戦った時よりもさらに成長しているな)


試験と称してダガンはレノと本気で戦ったがあの時よりも確実にレノは成長していた。教え子の成長は教師として素直に喜び、同時に寂しくもあった。


「レノ、お前はもう卒業する身だ。教師として俺も一生徒にばかり時間を割くわけにはいかん」
「え?」
「お前は十分に成長した。もう俺の力など必要ないだろう……これからは自分一人で生きていくんだ」


ダガンはレノに殴られた箇所を摩り、今まで彼の教え子の中でダガンに傷を負わせたのはレノ一人だけだった。だからこそダガンはレノの実力を認めてはっきりとつげる。


「もう俺は必要ない。お前なら一人でも大丈夫だ」
「先生……」
「お前が夢を果たす日が来る時を期待しているぞ」
「……はい、今までありがとうございました!!」


レノはダガンの言葉を聞いて涙目を浮かべ、ここまで自分の夢を応援してくれる人はいなかった。最初の頃はレノはダガンに苦手意識があったが、ここまでレノが強くなれたのはダガンが訓練に付き合ってくれたからである。

教師としてダガンはレノのために最善の指導を行い、先日の試験ではレノは最高の成績を収めた。そのお陰で第一学園の評価が高まり、第二学園の連中に一泡を吹かせることができた。しかし、ダガンとしては自分の所属学園の評価よりも教え子であるレノが活躍したという話を聞けただけで満足だった。


「卒業おめでとう」


ダガンは最後にレノを抱きしめて彼の卒業を祝い、もう間もなくレノが学園を去る日が近付いていた――





――ダガンとの訓練を終えた後、レノは学生寮に戻ると新しく身に着けた戦法の名前を付ける事にした。


「う~ん……黒盾でいいかな」


黒渦で攻撃を受け止めることからレノは「黒盾」と名付け、敢えて盾という名前を付けたのはダガンを意識したからだった。ダガンは本気で戦う際は両腕に盾を装着し、攻撃と防御を同時に行う。その姿が印象的だったレノは今回の戦法を黒盾と名付ける。

これまでにレノは敵を倒す戦法ばかりを編み出してきたが、先日のネコミンとの戦闘で敗れてから自分の身を守る戦法も必要だと考えた。そこでレノはダガンを思い出し、彼のように身を守る手段を考えた結果「黒盾」と名付けた戦法を生み出した。


「こいつを完璧に使いこなせるようになればかなり役立つぞ」


基本的に魔術師の弱点は接近戦であり、どれだけ強力な魔法を使える人間でも魔法を発動させる前に攻撃を受けたら意味はない。だが、レノの場合は黒盾で身を防ぐ事ができる。普通の魔術師は自分の身を守る方法があるとすれば防具の類を身に着けるしかないが、レノならば防具無しでも自分の身を守る事ができるかもしれない。


「さてと……そろそろ真面目に考えないとな」


レノは机の上に置かれた三枚の羊皮紙に視線を向け、それぞれが「黒虎」「金色」「氷雨」のギルドの推薦状だった。未だにレノはどのギルドに所属するのか決めておらず、流石にそろそろ返事を出さないと推薦状が取り消される可能性もある。


(他の奴等はもうどこのギルドに入るのか決めたらしいし……俺はどうしたらいいんだろう)


他の試験の合格者は既に他のギルドと契約を交わしており、未だにどこのギルドに入るのか決めていないのはレノだけだった。早々に決めなければならないのは分かっているのだが、どうしても決められずにいた。


「銀級冒険者か……」


少し前まではレノは黒虎に入ろうかと考えていた。だが、昨夜に出会ったエリナから渡された手紙を見て彼は思い悩む。内容はレノが金色に加入した場合、無条件で彼を「銀級冒険者」として受け入れることが記されていた。

レノの夢である大魔導士を目指すためには冒険者として功績を残し、最高階級である「白金級冒険者」になることが絶対条件だとレノは考えていた。白金級冒険者になれれば大魔導士の座に近付けるのは間違いなく、一刻も早く階級を上げるためには金色に加入するのが一番の近道となる。


(金色に加入するだけで銀級冒険者として活動できる……でも、本当にそれでいいのか?)


昨日にレノは黒虎の冒険者のネコミンと共に初めて仕事を行い、冒険者の仕事ぶりを学ぶ事ができた。先輩冒険者であるネコミンからレノは色々と教わり、冒険者の仕事がどれほど大変なのかを知った。


(新人の俺がいきなり銀級になっても上手くやっていけるかな……)


仮に銀級冒険者として活動する際にレノは仕事を上手く行える自信はなかった。昨日はネコミンと共に仕事を行った際も予想外の事態に発展して危うい場面もあった。冒険者として未熟な自分がいきなり銀級に昇格したとしても上手くやっていける自信がない。


「一年、か……」


ネコミンの話では才能ある冒険者ならば一年程度で銀級冒険者に昇格できるらしく、もしもレノが金色以外のギルドに入れば一年間は働かなければ銀級にはなれない。一にも早く大魔導士になりたいと考えているレノにとっては一年は長く感じられた。

黒虎に入って地道に頑張っていくべきか、あるいは金色に加入して銀級冒険者として一か八か活動してみるか悩んでいると、レノの部屋の扉がノックされた。こんな時間帯に誰が来たのかとレノは不思議に思うと、相手は返事を待たずに中に入ってきた。


「なんじゃい、もう起きておったか」
「えっ!?イーシャンさん!?」


部屋の中に入ってきたのはイーシャンであり、彼が急に訪れたことにレノは驚く。イーシャンが部屋まで訪れたのは初めての出来事なので慌てて彼は椅子から立ち上がる。


「ど、どうしたんですか急に?」
「うむ……実はお前に客が来ておってな」
「客?ネコミンですか?」


レノは客と聞いて真っ先に思いついたのがネコミンであり、彼女以外に自分を尋ねにくる人物に心当たりはない。学園内の人間ならばイーシャンがわざわざ知らせにくるわけがなく、学園の外の知り合いだとすればネコミンぐらいしかいない。だが、イーシャンが告げたのは別の人間の名前だった。
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