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冒険者の試験

第41話 金色からの勧誘

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「いや、あたしの年齢はどうでもいいんですよ。それよりも……」
「レノ、早く帰ろう。知らない人の話を聞く必要はない」
「え、ちょっ……」
「待って待って!!何で逃げようとするんですか!?」


ネコミンはレノの手を取ると足早に立ち去ろうとするが、慌ててエリナは先回りして二人の前に立つ。ネコミンは面倒そうな表情を浮かべ、彼女の態度にレノは不思議に思う。


「……レノは黒虎うちで面倒を見る事になってるから、他のギルドの人と話す理由はない」
「それはないですよ!!さっきの話、聞こえてましたからね!!まだそっちの男の子は黒虎に入ったわけじゃないでしょう?」
「えっ……盗み聞きしてたの?」


エリナの発言にレノは驚いたが彼女は自分の細長い耳を触り、この耳の長さは伊達ではない事を伝えた。


「エルフは普通の人よりも耳が良いんですよ。だから多少は離れていても話し声を聞くなんて簡単なんです」
「へえっ……」
「そしてエルフは耳が弱い……ふうっ」
「あふんっ……って、いきなり何するんですかっ!?」


ネコミンがエリナの耳元に息を吹きかけると、彼女は一瞬力が抜けたような表情を浮かべるが慌てて離れる。


「さっきから何なんですか貴女!?あたしはそこのレノ君と少し話したいだけですよ!?」
「そんなことを言ってレノを誘拐するかもしれない。このままレノを連れ去って無理やりに契約を結ぼうと考えていない?」
「そんな非人道的な真似するわけないっす!!」
「……ないっす?」


奇妙な語尾を付けたエリナにレノは不思議に思うが、彼女が近付こうとするとネコミンが牽制を行う。ネコミンとしてはレノが黒虎以外のギルドと接触してほしくはないらしく、意地でもエリナに近づけさせない。

しばらくの間はエリナとネコミンが対峙していたが、これでは埒が明かないと判断したのかエリナは懐に手を伸ばす。彼女は不敵な笑みを浮かべてネコミンにある物を差し出す。


「ふふふ……これを見てもまだそんな態度が貫けますか?」
「そ、それは……!?」
「え?なにそれ?」


エリナが取り出した物を見てネコミンは目を見開き、レノは彼女が何を見たのか確認する。エリナが持っているのは甘い匂いを漂わせる菓子袋だった。


「ほら、あたしの今日のおやつをあげるから話をさせて欲しいっす」
「子供かっ!!」
「……仕方ない、私が食べ終わるまでは話してもいい
「子供だった!?」


あっさりと菓子袋でエリナの要求を呑んだネコミンにレノはツッコミを入れるが、彼女は約束通りに菓子袋を受け取ると引き下がった。ようやくレノと話ができる事にエリナは安堵すると、改めて自己紹介を行う。


「どうも初めまして、あたしは冒険者ギルド「金色」に所属するエリナと申します。冒険者の階級は金級で職業は弓使い、ついでに絶賛彼氏募集中です」
「は、はあ……レノと申します」


自己紹介の最後の情報は必要なのかと疑問を抱きながらもレノは自分も名乗り、どうして金色に所属する冒険者が自分に会いに来たのかを尋ねた。


「えっと、金色の冒険者さんがどうしてここに?」
「そんなの決まってるじゃないですか。推薦状を出したのに未だに返事が来ないから心配して様子を見に来たんですよ」
「あ、そうなんですね……」


一週間前に推薦状を送ったにも関わらずにレノから返事が来ない事に疑問を抱いた金色のギルドマスターがエリナを送り込んだらしく、彼女はレノから推薦状の返事を聞くために訪れたらしい。


「レノさんに会いに行こうとしたら何故か黒虎の冒険者と行動していたから話しかける機会を伺ってたんですよ」
「な、なるほど……」
「それでなんですけど、さっきそこのお姉さんが言う通りに黒虎に入る事にしたんですか?」
「うまうまっ……」


エリナは不安そうな表情を浮かべてネコミンに顔を向け、彼女は菓子袋に入っていたクッキーを美味しそうに頬張っていた。それを見てレノは苦笑いを浮かべながら事情を話す。


「いえ、まだ俺は何処のギルドにも入っていません。今日は黒虎に立ち寄ったのは見学のためです」
「見学?ああ、ギルドに入る前にどんな場所なのか調べに来たというわけですか」


レノの説明を聞いてエリナは安心した表情を浮かべ、まだ彼が黒虎に所属していないことを知ると急に身体を近づけてきた。


「それじゃあ、金色うちのギルドに入りませんか?もしも入ってくれるならお姉さんが色々とサービスしますよ」
「えっ、ちょっと!?」
「むうっ、そういうのは駄目」


エリナは笑顔を浮かべながらレノの腕に抱きつき、それなりに大きな胸元を押し付ける。それを見たネコミンは不機嫌そうにレノの反対の腕に抱きつき、エリナに牽制する。


「レノは黒虎に入ると決まってる」
「いやいや、でもそれはまだレノさんが黒虎に入っていないということですよね?それなら金色に入った方がお得っす!!だってうちのギルドマスターからこんなのも預かってますから!!」
「え?」


自信満々な表情でエリナは一枚の羊皮紙を取り出し、それをレノ達に見せつけた。夜も更けてきたのでレノは羊皮紙に書かれている内容をすぐに読み解けなかったが、隣に立っているネコミンは驚きの表情を浮かべた。


「これは……!?」
「え?なんて書いてあるの?」
「あ、すいません。灯りがないと詳しく読めませんよね」


暗殺者であるネコミンは普通の人間よりも夜目が効くのか羊皮紙の内容を読み取れたが、レノは暗闇の中では羊皮紙の内容を確認できない。それに気づいたエリナはレノに羊皮紙を手渡す。


「それじゃあ、この羊皮紙はレノさんに渡しておきます。家に帰った後に読んでください、じゃあ私は用事も済んだので帰らせてもらいます」
「あ、ちょっと!?」
金色うちのギルドは美人揃いなんで入ったら楽しい思いがいっぱいできますよ~」
「むむむっ……早く帰って」


エリナは羊皮紙をレノに託すと足早に立ち去り、それを見送ったレノは渡された羊皮紙を確認する。暗闇では文字が読みにくいため、中身は後で確認することに決めた。

まさか黒虎だけではなく金色の冒険者に遭遇するとは思わなかったが、とりあえずは夜も更けてきたので急いで学生寮に戻る事にした。羊皮紙の確認も行いたいため、レノはネコミンに別れを告げた。


「じゃあ、俺も帰るよ。見送りはここまででいいから」
「あ、レノ……明日も迎えに行くから」
「うん、じゃあまた明日」


レノはネコミンと別れを告げると急いで学園へと向かい、その彼の後ろ姿をネコミンは少しだけ不安そうな表情を浮かべて見送った――





――学生寮に戻るとレノは金色の冒険者のエリナから受け取った羊皮紙を確認し、その内容に驚愕した。彼女が渡したのはギルドマスターが直筆した手紙であり、それを見たレノは心が揺らぐ。


「金色に加入すれば……銀級冒険者として迎えてくれる!?」


金色のギルドマスターの手紙にはレノがもしもギルドに加入した場合、ギルドマスターの権限で彼を銀級の冒険者として迎えてくれることが記されていた。通常であれば冒険者に最初に与えられる階級は「銅級」だが、もしもレノが金色のギルドに入ればいきなり「銀級」の冒険者として活動ができる。

通常であれば銀級にまで昇格するには昇格試験を受ける必要があり、ネコミンのような有能な人材でも銀級にまで昇格するのに一年の時を費やした。しかし、レノがもしも金色に加入すれば銅級と鉄級を飛ばして銀級冒険者として活動できる。それはつまりレノの「大魔導士」になるという夢に大きく近づく事を意味していた。
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