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冒険者の試験

第40話 複雑な気持ち

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「――うぷっ……喰いすぎた」
「久々に美味しい物を食べれた」


レノ達がボアを仕留めた日の晩、腹いっぱいに料理を堪能したレノはネコミンと共に第一学園への帰途についていた。第一学園の規則で生徒は外泊は許されておらず、それが卒業が確定している生徒でも例外はない。

バルが依頼人と交渉して買い取ったボアの肉は今日集まっていた冒険者全員に振舞われ、功労者であるレノとネコミンも当然ながら頂いた。噂通りにボアの肉は非常に美味で美味しく頂けた。


「婆ちゃんと暮らしていた時に猪の肉も食べた事があるけど、ボアの肉と比べてそんなには美味しくなかったな」
「魔物の肉は基本的には普通の動物と比べて硬くて不味い。だけど、ボアのような一部の魔物の肉は高級食材として扱われてる」
「へえ、そういうことは授業で習わなかったな……」


ゴブリンなどの魔物の肉は食用には適さないが、ボアやオークのような獣系の魔物の肉は栄養価が高くて食材としても人気が高い。そのような話は授業では学べず、改めてレノは勉強になった。


「皆がレノに感謝してた。ボアの肉は王都では滅多に手に入らないから」
「うん、今日だけで一生分のありがとうという言葉を聞いた気がする」


黒虎に集まっていた冒険者はボアの肉を食べられる事に喜び、ボアを仕留めてきたレノ達に感謝の言葉を告げて味わった。ネコミンによれば王都ではボアの肉は滅多に輸入されず、それだけに人気が高い食材らしい。


「まさかレノが死骸を全部持ち帰ると言い出した時は驚いた。収納魔法で死骸を取り込めるならもっと早く教えて欲しかった」
「いや、ごめん……死骸も回収できるのは俺も初めて知ったから」


異空間には生物は取り込めないという固定概念があったためにレノは今まで魔物の死骸を取り込んだ事はなかった。しかし、今回の出来事でレノは既に死亡した生物ならば異空間に取り込める事を知り、ボアの死骸を運び出すことに成功した。

通常種よりも一回りは大きい個体だったが、かつてレノは荷物運びとして働いていた時は大量の荷物を異空間に取り込んでいた。そして今の彼は子供の頃よりも魔力が増しており、ボアほどの大きな生き物の死骸も楽々と異空間に取り込める程に成長していた。


「レノが一緒なら今度から討伐系の依頼も楽ができそう。いちいち解体して持ち帰るより、死骸を丸ごと持って帰った方が評価も高い」
「うん……そうだね」
「……後悔してる?」


レノの反応を見てネコミンは心配そうな表情を浮かべた。今回の一件でレノは黒虎の冒険者の多くに収納魔術師である事を知られ、その事を危惧していた。


「できれば他の人にはまだ知られたくなかったかな……俺が収納魔術師だと分かった途端、勧誘してくる人がたくさんいたよ」
「それは仕方がない。収納魔術師は人気が高いから」


収納魔術師だと知られたレノはまだ黒虎に加入もしていないのに大勢の冒険者に勧誘された。レノはダガンから収納魔術師は「最優の魔術師」とも呼ばれていると聞いた事があり、攻撃魔法が扱えなくとも収納魔術師は人気が高い理由を教えてもらった。


「冒険者は遠征する事が多い。そういう時に荷物を管理してくれる人がいるだけで仕事の効率が大きく変わる。私のような暗殺者は特に大荷物を抱えた状態だと本来の動きを発揮できないから、仲間に収納魔術師がいるだけで心強い」
「……それに収納魔法なら食べ物だって腐らせることはないし、壊れやすい物も異空間に取り込んでおけば安全に運べるから運搬系の仕事にも困らない」
「そう、世間の人たちが収納魔術師に求めているのは戦闘で活躍してもらうことじゃない。を期待している」


ネコミンの言葉を聞いてレノは無意識に拳を握りしめ、悔しい事に言い返すことはできない。実際に勧誘してきた冒険者達はレノを戦力として期待しているわけではなく、あくまでも貴重な収納魔法の使い手なので仲間に入れておきたいと考えているようにしかみえなかった。

黒虎の冒険者の中でレノの本当の実力を知っているのはネコミンだけであり、他の人間は彼のことをただの収納魔術師としか思っていない。それでも貴重な収納魔術師ならば仲間に入れておきたいと考える輩も多く、黒虎に加入すればレノは間違いなく大勢の冒険者から勧誘を受けることになる。


「ギルドマスターも悪気があったわけじゃない。でも、皆の前でレノの能力を明かすのはまずかった」
「いいよ、どうせ冒険者になればいずれは知られる事だったし……」


冒険者として活動すれば自分の正体を他の人間に知られることは予測しており、それが少し早まっただけに過ぎない。そんな風に自分に言い聞かせながらレノは今後の事を考える。


「これからどうしようかな……」
「レノ、黒虎に入るなら私と……止まって!!」
「えっ!?」


会話の際中にいきなりレノはネコミンに肩を掴まれ、彼女は腰に差していた短剣を抜く。レノは何事かとネコミンの視線の先に顔を向けると、そこには金髪の少女が立っていた。


(いつの間に!?)


夜道で暗かったとはいえ、いつの間にか現れた謎の少女にレノは警戒する。ネコミンも短剣を構えたまま少女を睨みつけると、相手は慌てて両手を上げて話しかけてきた。


「ちょちょ、待ってください!!別に争うつもりはありませんから!!」
「……誰?レノの知り合い?」
「いや、知らない顔だけど……」


少女を見てレノは知り合いではないと悟り、ネコミンは一層に警戒心を高めた。少女の年齢は恐らくはレノと同い年ぐらいだと思われ、黄金のように煌めく金髪が特徴的な少女だった。

金髪の少女の容姿は人形のように整った顔立ちに宝石のように煌めく碧眼、普通の人間よりも細長い耳をしているのでレノ達はすぐに彼女の正体が「エルフ」だと気付いた。


(あの耳の長さはエルフか?久々に見たな……)


エルフは人が暮らす地域では滅多に見かけられず、しかも子供のエルフはレノも初めて見た。エルフの少女は背中に弓を背負っており、彼女は両手をあげながらレノ達に近寄る。


「何だか驚かせてしまったようですいません。でも本当に争うつもりはないんです」
「……そのバッジ、まさか冒険者?」


ネコミンはエルフの少女が冒険者のバッジを身に着けている事にいち早く気付き、遅れてレノも少女がバッジを装着している事に気が付く。驚くべき事に少女は「金級冒険者」の証である黄金製のバッジを身に着けていた。


(この女の子も冒険者!?しかも金級なんて……)


自分と年齢はそれほど変わらないと思われる少女が金級のバッジを装着していることにレノは驚き、しかもバッジには「雷」を想像させる紋章が刻まれていた。この紋章はレノも見覚えがあり、一週間前に送られてきた推薦状の一枚に同じ紋章が刻まれていた。


「まさか金色の……!?」
「そうです。あたしは金色に所属する冒険者のエリナと言います」
「エリナ……まさか、魔弓のエリナ!?」


エリナという名前を聞くとネコミンは驚愕の表情を浮かべ、レノは聞き覚えがないがネコミンの反応を見るに有名な冒険者らしい。エリナと名乗った少女は恥ずかしそうな表情を浮かべてレノ達に近寄る。


「いや~その二つ名は恥ずかしいので普通にエリナと呼んでください」
「エリナ……さん?」
「レノ、気を付けて。エルフは見た目は当てにならない、もしかしたら私達より何倍も生きているかもしれない」
「え!?」
「ちょっと!?何倍もは失礼ですよ!!こう見えてもあたしは28歳ですって!!」
「ええっ!?」


ネコミンの言葉にエリナは怒ったように年齢を答えると、それを聞いたレノは驚愕した。外見はどうみてもレノ達と同い年か、あるいは少し下ぐらいにしか見えないが実はレノ達よりもずっと年上である事が判明した。
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