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冒険者の試験

第32話 推薦状の取り消しの危機

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――ネコミンとの修行を開始してから一週間が経過した頃、珍しく焦った様子のダガンが駆けつけてきた。


「レノ!!氷雨、金色、黒虎のギルドから問い合わせが来ているぞ!!推薦状の返事をまだ書いてないのか!?」
「あっ……忘れてた」
「私もギルドマスターに報告するの忘れてた……」


修業に夢中で忘れていたがレノは未だにどこの冒険者ギルドに所属するのか決めておらず、推薦状を送ってきた三大ギルドに対して返事もしていなかった。慌てて彼は修行を中断して推薦状を用意した。

先日の試験で好成績を残したレノは三大ギルドから推薦状が送られてきており、彼はどのギルドに所属するのかはまだ決めかねていた。一週間前に黒虎のギルドに向かおうとしたのは自分の目でギルドがどんな場所なのか確かめに行くつもりだったが、紆余曲折あって目的を果たす前にネコミンとの修行に没頭してしまう。


「これ以上に待たせるようなら推薦状は取り消されてしまうぞ!!ギルドの加入を決めかねているとしてもまずは俺に報告しろ!!そうすれば俺が取りなしてやれたというのに……」
「す、すいません……」
「ダガン先生、相変わらず生徒の面倒見がいい」
「あれ?そういえばネコミンもここに通ってたんだっけ?」


ネコミンは一年前に冒険者ギルドに加入しており、彼女の年齢を考慮すると冒険者ギルドの試験を受けるためには冒険者養成学園で卒業しなければならない。そう考えるとレノが最終学年を迎える前の年までは彼女も冒険者養成学園に通っていた事になるが、生憎とレノは顔に見覚えがなかった。

冒険者養成学園には毎年に数多くの入学希望者が訪れるが、厳しい訓練に耐えかねて殆どの人間が卒業試験を受ける前に退学する事が多い。だから在学中の生徒はそれほど多くはなく、ネコミンも通っていたとしたらレノも見覚えがあったかもしれないが、彼女はレノと事情が違った。


「暗殺者のような特別な職業の素質がある生徒は訓練の時間帯が違う。私の場合は基本的には夜の間に訓練を行ってたから一般の生徒と顔を合わせる機会はなかった」
「うむ、一般生徒には明かしていないが特殊な技能を持つ生徒は時間帯を変更して訓練が行われている」
「へえ、そうだったのか……」


訓練を受ける時間帯が異なるのでレノは在学中にネコミンと顔を合わせた事はなかった事が判明する。ちなみにネコミンは能力的には第二学園に通っていてもおかしくはないが、彼女は祖父が経営する第一学園に通う事を希望したらしい。


「とにかくどのギルドに入るか決めておけ。あまりに時間をかけすぎるとギルドの方から推薦状を取り消されてしまうぞ」
「あ、えっと……もしも推薦状を取り消されたらどうなるんですか?」
「その場合は自ら冒険者ギルドに尋ねて加入するしかない。だが、推薦状がない場合は冒険者ギルドに入るためには試験を受けなければならない。お前の実力ならば試験は合格できるかもしれないが、推薦状を取り消された場合は印象が悪くなる」
「ちなみに推薦状で加入した人は色々と好待遇で迎えられる。普通の人なら昇格試験を受けるまでは1年は働かないといけないけど、私の場合は特別に免除してくれた」
「え!?そうなの!?」


レノは初めて昇格試験を受けるためには条件がある事を知り、推薦状無しでギルドに加入する場合はどれほどの功績を上げようと一年間は試験を受けられない事を初めて知った。

推薦状がなくともレノは冒険者になれる自信はあったが、昇格試験を早く受けれるのは推薦状を送り込んだギルドに加入する事だと知り、早々にどのギルドに入るべきか考える必要があった。


「う~ん……どこのギルドに入ればいいんだろう」
「私と同じ黒虎に入ればいい。そうすればお姉さんが面倒を見てあげる」
「待て待て、ギルドに入るならば安易に決めてはいかん。実際に自分の目で確かめてみるべきだろう」
「……分かりました。じゃあ、今日のうちに見学に行ってきます」


先日はいろいろとあって見学する事はできなかったが、今回こそ冒険者ギルドを見学するためにレノは外に出る事にした。ネコミンも案内役として同行し、最初に彼女が所属する冒険者ギルドへ向かう――





――黒虎は三大ギルドは愚か、王都内に存在する全ての冒険者ギルドの中でも所属する冒険者の数は一番を誇る。黒虎のギルドは王都の南側に存在し、建物の大きさも冒険者ギルドの中では一番の規模だった。

実を言えばレノは冒険者ギルドに立ち寄る事自体は初めてではなく、王都に訪れる前に立ち寄った街では必ず冒険者ギルドに立ち寄っていた。だが、三大ギルドの一角である黒虎ともなると建物も壮大でレノの想像を超えていた。


「うわっ!?これが黒虎のギルド!?」
「そう、ここには1000人近い冒険者が通っている」


黒虎のギルドはレノの想像以上の大きさを誇り、建物の中には想像以上の数の冒険者の姿があった。国内に存在する冒険者ギルドの中でも黒虎の冒険者の数は一番を誇り、その半数以上が銅級と鉄級の冒険者で占められている。


「思ってたよりも銅級と鉄級の人が多いな……」
「これだけの冒険者が居ても銀級まで昇格する人は100人いるかどうか……それだけ上の階級に上がる事は難しい。そして銀級冒険者の私は凄いという事」
「へ、へえっ……」


自分が銀級である事を自慢するネコミンにレノは何とも言えず、自分が思っていたよりも冒険者が階級を上げる事は難しい事なのかと思う。


(冒険者は銀級まで上がればようやく一流の冒険者だと認められると聞いた事はあるけど……三大ギルドに所属しているからといって皆が高い階級というわけでもないのか)


世間では三大ギルドと評されているといっても黒虎に所属する冒険者全員が実力者とは限らず、レノが思っていたよりも銀級以上の冒険者の数は少ない。視界に見える範囲では何人か銀級のバッジを付けているが、金級や白金級のバッジを身に着けている冒険者は見当たらない。


「ちなみに黒虎には金級や白金級の冒険者は何人いるの?」
「さあ……私はそんなに他の人に興味ないから良く知らない。でも、白金級の冒険者は1人しかいないと聞いた事がある」
「えっ!?1人だけ?」


1000人以上の冒険者が所属しているのに冒険者の最高階級である白金級に至った人物は1人と知ってレノは衝撃を受ける。彼が大魔導士になるためには白金級まで上がるのが絶対条件であり、想像以上に道が険しいと悟る。


(1000人も所属しているのに白金級の冒険者は1人なんて……俺が白金級に上がるまでどれだけ時間が掛かるんだ)


レノの目標は大魔導士になる事であり、その夢を叶えるためには何でもする覚悟はあった。だからどれだけ時間が掛かろうと諦めるつもりはない。


(ごめんね祖母ちゃん、会いに行くのが遅くなるかもしれないけど……必ず俺は夢を叶えて帰ってくるよ)


大魔導士になれるまではレノは唯一の肉親である祖母の元へは戻らないと誓っており、大魔導士になるためには白金級冒険者として世間の人々に認められる程の大きな功績を残す必要があった。

今日の所は冒険者ギルドに見学に訪れたが、見た限りでは冒険者達は掲示板に張り出されている依頼書を確認し、自分で仕事を選択して受付嬢の元に手続きをおこなっていた。


「へえ、黒虎では自分で仕事を選べるんだ。今まで訪れた冒険者ギルドでは決められた仕事しかできなかったのに」
「黒虎では自分の意思で仕事を決める事ができる。但し、失敗した時の責任は大きくなる。受付嬢と交渉して仕事を紹介してもらう事もできる」


レノが王都以外の冒険者ギルドに立ち寄った時は冒険者は自由に仕事を選べず、受付嬢から紹介される仕事を引き受けている姿しか見ていない。それに比べると黒虎では掲示板に張り出されている依頼書を確認し、自分の見合った仕事を引き受けられると知ってレノは関心を抱く。
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