上 下
21 / 53
冒険者の試験

第20話 三大ギルドからの推薦状

しおりを挟む
――試験が開始されてから三日後、レノ達以外に試験を受けていた者達も王都へ帰還した。だが、殆どの人間が戻ってきた時のレノ達よりも疲労困憊で酷い怪我を負っていた。

レノと行動を共にしていた人間達は彼のお陰で余計な荷物を背負わずに移動できたが、他の者は荷物は自分で管理しなければならない。戦闘中に荷物を奪われる危険性もあり、実際に今回の試験では魔物に食料を奪われた生徒も少なくなかった。

魔物との戦闘は訓練と実戦は全くと言っていいほどに異なり、訓練に用意された魔物よりも野生の魔物の方が厄介な存在だった。訓練で倒した事がある相手だからといって高を括ると後悔する羽目になり、試験中に油断して大怪我を負った生徒も少なくはない。


「学園長、今年の生徒の中で試験に合格した者はこれだけです」
「……昨年の半分以下か」


第一学園にてダガンはイーシャンに報告を行い、試験を合格を果たした生徒の確認を行う。今年は昨年よりも試験を受けた人間が多いにも関わらず、合格者の数は昨年よりも減少していた。


「今年の試験はそれほど難しかったのか?」
「それは私では判断できかねます。ですが、帰還した生徒達の話を聞く限りでは野生の魔物との遭遇率が非常に高かったそうです」
「ふむ、今年も魔物どもが増えたという事か……」


原因は不明だがここ数年で世界中の魔物が増え続けており、これまでは魔物が出現しなかった地域にまで魔物が現れる話もよく耳にする。今年の試験は昨年よりも魔物との遭遇率が高く、そのせいで試験の合格者は減ってしまった。


「第二学園の方でも例年よりも合格者の数は少ないそうです。そのため、今年は規定の合格者数に達しないので再試験を行うべきか第二学園の学園長が協議したいそうですが……」
「やれやれ、あちらも相当に焦っているようじゃな……」


第二学園は第一学園よりも優秀な生徒が多いと自負しており、実際に高名な冒険者の多くは第二学園の出身者が多い。第二学園は国以外からも三大ギルドからも援助を受けており、彼等の期待に応えるためにも冒険者の育成に力を注いでいる。

第一学園と比べて第二学園の環境と設備が整っているのは多くの人間から援助を受けているからであり、その代わりに彼等の期待に応える成果を出さなければならない。そのために優秀な人材を引き抜き、彼等を鍛え上げる事で一流の冒険者を育て上げようとしている。しかし、今年に限ってはを残していた。


「学園長……やはり、レノが目を付けられました」
「……最高評価か」


試験を受けた人間の中で最も評価されたのは案の定というべきかレノだった。普段の訓練では実力を隠していたレノだったが、今回の試験で彼は他の人間を救うために収納魔法を応用した戦闘法を使ってしまう。


「既に氷雨、黒虎、金色からの推薦状が届いています。どのギルドも冒険者の資格を与えられたらすぐに招き入れる準備は整えているとの事です」
「やはりそうなかったか……しかし、随分と早いな」


予想はしていたとはいえ、三大ギルドがレノの存在に勘付いた事にイーシャンは疑問を抱く。試験の結果が届いたのは今日だというのに三大ギルドはどうやってレノの情報を掴んだのか気にかかる。


「どうやらレノの班を尾行していた冒険者が三大ギルドに情報を漏らしたようです。これまでも試験の際に生徒達を尾行する冒険者が有能な才能を持つ人間を見出し、自分が所属する冒険者ギルドに報告する事もありました」
「なるほどな……しかし、何故三大ギルドから同時に推薦状が届く?レノを尾行した冒険者は自分が所属するギルド以外にも彼の情報を流したという事か?」
「どうやらレノを尾行していた冒険者は他のギルドにも情報交換の取引を持ち掛けたようで……大金に目が眩んで情報を売ったのでしょう」
「やれやれ、冒険者の質も落ちたな……」


レノを尾行した冒険者は彼の実力を高く評価し、自分が所属するギルド以外にも彼の情報を流す事で大金を得た事が発覚した。そのせいでレノは三大ギルドに目を付けられ、推薦状が送られてきた。


「レノの実力は知られた以上、三大ギルドは何としても彼を引き込もうとするでしょう。無論、それは悪い事ではないのですが……」
「うむ、我が学園の卒業生が三大ギルドに所属するとなれば評価も高まる。しかし、よりにもよってレノか……マリアに何と説明すればいいやら」
「学園長?」


ダガンはマリアの事を知らないので彼の呟きを聞いて不思議に思うが、ダガンはレノ宛の推薦状を確認して悩む。


「とりあえずはこの推薦状は本人に渡しておけ。いくら儂等が悩んだ所で決めるのは本人の意志じゃ」
「分かりました……しかし、まさかあのレノが三大ギルドから推薦状を送られるとは」
「入学当初は訓練も碌に付いてこれなかったひよっこがここまで成長するとは夢にも思わなかったか?」
「……そうですね」


ダガンはレノが一年生の頃を思い出し、当時の彼は他の生徒と比べても落ちこぼれの部類だった。しかし、今では第一学園の生徒の中でも一、二を誇る程の人材へと成長した事に嬉しく思う。

教師としてはダガンはレノの将来を心配する一方、彼がどんな冒険者になるのか興味はあった。何時の日かレノが有名な冒険者に成った時、ダガンは教え子にレノを冒険者にさせたのは自分だと自慢する日が訪れる事を期待しながら彼に推薦状を渡しに向かう――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...